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睡眠のリテラシー22
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高橋正也 独立行政法人労働安全衛生研究所作業条件適応研究グループ上席研究員
4年に1度のスポーツの祭典、今回の夏のオリンピック大会はロンドンで開かれました。時差があるため、早起きして試合を生放送で見た方も多かったのではないでしょうか。サッカー、水泳、バレーボールなど、いくつもの種目で感動を与えていただきました。わが国が獲得したメダルの数は史上最多であったことから、レベルが着実に上がっているのもうれしいことです。
試合で勝つには当然、相手に勝たなければなりません。ですが、それと同じかそれ以上に、自分との闘いに勝つことが求められます。競技を行う時間より、そうでない時間の方がかなり長いわけです。競技以外の時間は練習が中心になります。大きな大会に出るような選手の練習は並大抵の内容ではないでしょう。
練習が終わった後はリラックスに続いて、睡眠になります。スポーツ選手にとって、これらの時間はとても大事です。なかでも、しっかり眠ることは次の練習と試合のために欠かせません。
米国の大学バスケットボール選手を対象に、約6週間にわたって少なくとも1日10時間は眠るよう指示した研究があります。小型の睡眠記録計で測ると、実際に眠れたのは8時間半でした。選手たちのふだんの睡眠は6時間半でしたので、2時間ほど長く眠ったことになります。
ランプがついたらできるだけ早くボタンを押すという課題を使って、注意集中の能力を調べたところ、長い睡眠の方が反応は早くなり、ミスをする回数は約4分の1になりました。昼間の眠気も大幅に少なくなりました。
そればかりか、練習中にも、長い睡眠の時にはダッシュがより早くなり、フリースローやスリーポイントシュートがより多く入ることが分かりました。選手自身も、練習や試合で自分の状態が良いことを実感しました。これらは充分な睡眠時間を保つことによって、バスケットボールの質が良くなった証拠と言えます。
優秀なスポーツ選手は睡眠を優先すると聞きます。例えば、夜のパーティーに出ることはあっても、遅くならないうちに帰るそうです。逆に、「夜のクラブ活動」にのめり込む選手はけがをしやすかったり、成績が振るわなかったりするそうです。おそらく、アルコールの影響ばかりではなく、睡眠がおろそかになるからではないでしょうか。
スポーツ選手は試合に勝つために最高のコンディションにしておかなければなりません。ただ、実際にはなかなか難しい状況も多いはずです。明日の試合でいかに勝つかを考えすぎて、寝付けなくなってしまうかもしれません。また、今は海外遠征や海外での試合が増えています。多くの場合、時差ぼけをうまく乗り越える必要があります。
選手自身が自分の睡眠を管理することは基本です。それだけでなく、チームの監督、コーチ、他のスタッフも、睡眠の確保を勝つための条件の一つとしてとらえていくことが望まれます。
たかはし・まさや●1990年東京学芸大学教育学部卒業。以来、仕事のスケジュールと睡眠問題に関する研究に従事。2001年、米国ハーバード大学医学部留学。