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睡眠のリテラシー35

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

高橋正也 独立行政法人労働安全衛生研究所作業条件適応研究グループ上席研究員

 よく眠ると、頭が冴え、やる気も高まります。その上、顔の表情も魅力的になります(第8回参照)。顔のつくりは手術をしない限り変えられませんが、その時その時の表情をうまく出せれば、美男美女になれる(のように見られる)というのは、普通の顔をしている私たちにとって嬉しいことです。

 睡眠と表情について、とても面白い実験がドイツで行われました。若くて健康な参加者(大半が女性)が、人の顔または場面の写真を見ます。顔の写真は2種類あり、幸せそうな表情か怒っている表情です。場面の写真も2種類あって、美しいものと気分が悪くなるようなものでした。

 参加者は条件Aでは、ポジティブな写真(幸せそうな顔、美しい場面)を見たらニコニコし、ネガティブな写真(怒っている顔、気持ちの悪い場面)を見たら眉間に皺を寄せるよう指示されました。一方、条件Bでは両者の関係を逆にして、ポジティブな写真に対して眉間に皺を寄せ、ネガティブな写真に対してニコニコするよう求められました。参加者の顔には電極が貼られ、指示された通りに顔を作れたか筋肉の動きから調べました。このような実験を前の晩の睡眠が8時間の時と4時間の時と2回行いました。

 参加者のとるべき行動は結構複雑なので、短い睡眠の時の方が顔の反応に間違いが多くなると予想されました。しかし、実際にはほぼ完璧に顔を作れました。

 写真が示されてから顔の筋肉が動く、つまり表情が出るまでの時間について、条件AとBとを比べると、やはりBの方が反応は遅くなりました。8時間睡眠と4時間睡眠とを比べると、短時間の時に遅くなることが分かりました。ただし、短い睡眠による反応の遅れが条件AよりBでさらに大きくなるということはありませんでした。

 これらの結果から、睡眠時間が半分になると、表情は求められるように作ることはできても、それに要する時間は長くなると考えられます。

 この実験では注意力を調べるために、ランプがついたらできるだけ速くボタンを押すという検査も行われました。その反応時間と顔の反応時間との関係を見ると、両者はバラバラで、特に関連していませんでした。睡眠を削ったわけですから、注意力が落ちるのは当然です。しかし、それに伴って顔の反応も鈍くなったとは必ずしも言えないことを表しています。

 朝一番に挨拶されたら、「おはようございます」とにこやかに返す。顧客からお礼を言われたら、「こちらこそ、本当にありがとうございました」とすぐに笑顔で答える。こうしたやりとりはタイミングが肝心で、一瞬でも遅れると、相手は何か変な(嫌な)感じを持ちます。

 実験結果から、不十分な睡眠は顔を不細工にするばかりでなく、顔の"息切れ"につながるように見えます。逆に、しっかり眠ることは顔の反応の良さを通じて、人間関係の改善につながるでしょう。

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