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睡眠のリテラシー19

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

高橋正也 独立行政法人労働安全衛生研究所作業条件適応研究グループ上席研究員

 今年のゴールデンウィークが始まったばかりの4月29日、関越自動車道で、とても悲惨な事故が起きたことを覚えていると思います。

 当日の早朝、群馬県の関越道で、走っていた高速ツアーバスが道路左側の防音壁に衝突し、車体が縦に割られるように大破しました。この事故で乗客7名が亡くなり、乗客と運転手を合わせた39名が重軽傷を負いました。ニュースにあったとおり、事故現場は凄まじいものがありました。亡くなられた方々とご遺族の皆さまには、深くお悔やみを申し上げます。また、今、治療中の方々には順調な回復をお祈りいたします。

 事故を起こしたいと思ってハンドルを握る人はいないはずです。今回の運転手もそうであったでしょう。ところが、このような重大事故が起きてしまいます。報道によれば、運転手(A氏)の居眠りが原因とみられています。それまでの経過を振り返ってみましょう。

 事故より2日前の夜9時頃、バスは東京方面から金沢に向かいました。この時の運転は、A氏ではない別の運転手が担いました。補助席に乗ったA氏は「リクライニングできず、よく眠れなかった」そうです。

 金沢に朝8時頃に到着すると、ホテルに入りました。お酒の力も借りて眠ろうとしましたが、うまく眠れなかったらしく、「寝たり起きたり」していました。

 夕方にホテルを出た後、疲れを感じて、運転の前に車内で少し仮眠をとったそうです。そして、夜10時頃に金沢からバスを発車させました。道中の運転も普通ではなかったようです。急ブレーキがよくかかり、休憩時には突っ伏して寝ていたという乗客の証言もあります。時刻はとうとう朝4時40分頃を迎えます。

 こうしてみると、A氏は金沢を出発するまでに、まともに眠っていないことがわかります。①東京から金沢の間は運転業務がなかったにせよ、しっかり眠れていない。②ホテルでは睡眠環境は良かったけれども、昼間は体内時計によって活動モードにあるため、そもそもよく眠れない。しかも、今回の業務とは関係のない別な仕事をしていたようであり、眠るための機会が奪われたかもしれない。③夜の運転の前に、仮眠を充分にとれていない。以上の状況に、朝4時頃という事故の多発する時間帯が重なりました。

 前回にお伝えしたように、睡眠をとらないで長い時間起きていると、お酒を飲んだ時と同じくらいに判断や反応は鈍ることが確かめられています。「飲んだら、乗るな」は当たり前です。であれば、「寝てないなら、乗るな」とも言えるはずです。にもかかわらず、後者のメッセージはどういうわけか広く伝わっていません。

 今後、色々な問題点が明らかになるでしょう。乗客の安全に対して直接的に責任のある運転手が「睡魔」に負けたら終わりです。そうならないための仕組みを改めて整えなければなりません。

たかはし・まさや●1990年東京学芸大学教育学部卒業。以来、仕事のスケジュールと睡眠問題に関する研究に従事。2001年、米国ハーバード大学医学部留学。

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