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睡眠のリテラシー17

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

高橋正也 独立行政法人労働安全衛生研究所作業条件適応研究グループ上席研究員

 時計は24時間で一回りします。壊れていない限り、早く進んだり、遅くなったりすることはありません。ところが、ヨーロッパや米国では国の制度として、春に時計の針を1時間早くし、秋に遅くして戻すということをしています。海外への赴任や留学などで経験された方はご承知でしょうけれども、サマータイムです。わが国では戦後の一時期(昭和23年から4年間)を除いて行われていないので、多くの方にはなじみがないかもしれません。

 サマータイムの目的は季節によって変わる日の出と日の入りに合わせて生活時間を調整し、昼間の明るい時間を有効に使うということです。このように調整して嬉しいことばかりであればよいのですが、社会が複雑になるにつれて、またサマータイムに関する研究が進むにつれて、この制度の厄介な面が明らかになってきました。

 この1時間のズレのもたらす影響は、実は1970年代から調べられています。当時の報告によれば、秋の切替(=1時間遅める)に比べて、春の切替(=1時間早める)の方が目覚め度や作業能力は低下しがちでした。また、切替後の時刻に合わせて起床できるようになるには、春秋ともに1週間ほどかかることも分かっていました。

 自動車事故との関連も重視されています。自動車事故にはたくさんの要因が関わるため、結果は必ずしも一致しているわけではありませんが、総じて春の切替後に事故の増えることが示されています。

 近年注目されているのは心臓病との関連です。北欧での調査によると、春の切替後に心筋梗塞になりやすくなりました。一方、秋の切替後にそのような増加は認められませんでした。

 以上のような問題が生じる背景ははっきりとは分かっていません。今のところ、春の切替に伴って睡眠の量が減り、質も低下するのが大きな理由と考えられています。さらに、心身の働きを司る体内時計が乱れることも重要な要因とみられています。まさに、「たかが1時間、されど1時間」と言えるでしょう。

 わが国は数年おきに、サマータイムの導入が提案されては見送られるというのを繰り返しています。昨年の震災を機に、節電の目的もあって、会社内だけのサマータイム(正確には、繰り上げ出勤制度)が行われました。

 サマータイムの望ましい面はなきにしもあらずのように見えます。しかし、ただでさえ短眠社会の日本では、この制度に伴う不利な面ばかりが生じると心配されています。高齢者や持病のある方などは、特に注意が必要かもしれません。

 睡眠の専門家で組織される日本睡眠学会には「サマータイム制度に関する特別委員会」があります。私も委員の1人として参加しております。数年前の報告書に引き続き、今年はサマータイムと健康について分かりやすく解説する小冊子を出版する予定です。ぜひご覧ください。

たかはし・まさや●1990年東京学芸大学教育学部卒業。以来、仕事のスケジュールと睡眠問題に関する研究に従事。2001年、米国ハーバード大学医学部留学。

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