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睡眠のリテラシー8
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高橋正也 独立行政法人労働安全衛生研究所作業条件適応研究グループ上席研究員
ぐっすり眠れたら、翌日は頭がすっきりします。さらに、ミスは減り、生産性も高まります。では、人間関係はどのように変わるでしょう。
生活の多くの場面では、人間関係はしばしばカギとなります。会社であれ、家庭であれ、お互いに言葉を交わしたり、ふれあったりして、いろいろなやりとりを行います。そのなかでは、"顔"がとても重要な意味をもちます。
ふつうの睡眠をとった時と、徹夜をしたときとの間で、顔写真に示された表情(たとえば、幸福な感じ)をどのくらい正確に読み取れるかを比べた実験があります。結果をみると、徹夜をすると、表情の読み取り能力が全体的に低下していました。
ただし、面白いことに、「明らかに幸福な表情」や「明らかに無表情」といった、だれがみてもわかるような表情の場合には、睡眠のとり方による差はありませんでした。それに対して、幸せなのか、そうでないのか、よく分からないような微妙な表情の場合、徹夜の後では、うまく読み取れないことが分かりました。
優れた医師や看護師は短い時間の中で、患者さんの情報をたくさん取り入れることができます。言葉だけでなく、仕草、そして表情の変化に敏感であるからでしょう。
実際、患者さんは、言葉ではうまく伝えられないことを顔に表すときがよくあります。それをきちんとキャッチできれば、より質の高い診断や治療につながるはずです。医療者にとって、よい睡眠はよい医療につながる条件と言えましょう。
次に、見方を変えてみます。つまり、睡眠をまともにとらなかったら、どのような顔つきになるかという疑問です。
ある実験では、同じ人の顔写真が2枚示されます。一方はふつうに睡眠をとった後に撮影し、他方は徹夜をした後に撮影したものです。実験の参加者はそれぞれの顔について、どのくらい健康的か、魅力的か、疲れているかを回答します。
その結果、実験の参加者は徹夜後の顔を、たしかに、不健康で、不細工で、疲れていると回答しました。詳しい理由は分かりませんが、徹夜による"何か"が顔に表れたために、人相が悪く見えたのでしょう。
この結果は、お客様商売の方々にとって重要かもしれません。たとえば、睡眠不足のせいで、そもそも頭がよく回らないうえに、魅力的でない顔でお客様に接すると、大切な商談がうまくまとまらないかもしれません。これは会社にとっても損ですし、ご本人にとっても業績評価を下げることになります。
人間関係を決めるのは、性格、信頼感、頭脳、清潔感など、いくつもの要因があります。ですが、顔の持つパワーは、関係の始めのほうであればあるほど、大きいように思われます。
きちんと眠ることがKY(顔が読めない)を防ぎ、より美しい顔をつくる。この事実は男女を問わず、もっと知られてよいでしょう。
たかはし・まさや●1990年東京学芸大学教育学部卒業。以来、仕事のスケジュールと睡眠問題に関する研究に従事。2001年、米国ハーバード大学医学部留学。