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脂肪を鍛えて、太りにくい体質になる!

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"太りやすい体質"って本当にあると思いますか?ついつい食べすぎていたり、甘くて脂肪分の多いものを好んで食べているだけではないか、とちょっと疑わしいですよね。しかし一方で、「食べても今より太りにくい体」を作ることはどうやら可能なようです・・・。

大西睦子の健康論文ピックアップ49

大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。

「私は、みんなと同じようにしか食べていないのにすぐ太る。余分な脂肪を減らしたい。」と悩んでいらっしゃる方はいませんか?今回は、その「脂肪」についての話題です。


まず、私たちの体にある「脂肪」のすべてが悪いわけではありません。脂肪細胞には、「白色脂肪細胞」、「褐色脂肪細胞」、そして「ベージュ脂肪細胞」があります。それぞれの特徴を整理してみましょう。


【白色脂肪細胞】

下腹部、背中、太もも、お尻、腕や内臓の周りなど、全身のあらゆるところにあります。食事によって過剰になった脂質や糖は、中性脂肪※1の形で「白色脂肪細胞」に取り込まれます。「白色脂肪細胞」は、風船のように膨らんでエネルギーの貯蔵庫となります。私たちが飢餓の状態を乗り越えるために、必要なシステムなのです。さらに、「白色脂肪細胞」は、レプチン※2などのホルモンを分泌し、Bmal1(ビーマルワン)と呼ばれる体内時計を調整する時計遺伝子※3の発現など、様々な機能を有することがわかってきました。


【褐色脂肪細胞】

その名の通り褐色で、白色脂肪細胞より小さく、中に含まれるミトコンドリア※4には、「UCP1」※5というタンパク質が多く発現しています。このUCP1が熱産生を高め、脂肪が燃されエネルギーに変えられます。ですから、褐色脂肪細胞が多い人はエネルギー代謝が高く、太りにくいのです。「褐色脂肪細胞」は、肩甲骨、首筋、心臓、腎臓の周りなどに存在します。

また、褐色脂肪細胞が脂肪を燃焼させて、体の熱を生成し、体温を維持するので、赤ちゃんや冬眠する動物に豊富です。。しかしながら私たち人間は、成長とともに「褐色脂肪細胞」の数や機能が低下します。ただし成人でも、寒冷刺激などで、「褐色脂肪細胞」を活発にすることはできます。そこで最近、この「褐色脂肪細胞」が、肥満やメタボリックシンドロームの新しい治療のターゲットとして期待されています。


【ベージュ脂肪細胞】

さらに昨年、第3の脂肪細胞として、「ベージュ脂肪細胞」という新しい脂肪細胞が、ハーバード大学医学部ダナ・ファーバー癌研究所のBruce Spiegelman博士の研究チームによって単離されました(2012年7月、雑誌『cell』に発表)。「ベージュ脂肪細胞」は、もともとは白色脂肪細胞のようにUCP1の発現が非常に低いのですが、寒冷刺激などによりUCP1が高発現し、褐色脂肪細胞のように熱産生を行うようになります。また、マウスにおいて「ベージュ脂肪細胞」は、イリシン※6というホルモンで活性化されることも報告されています。ですから、「ベージュ脂肪細胞」も、肥満などの治療につながる可能性があります。


さて、前置きが長くなりましたが、先日、6月21日から25日まで、シカゴで開催された第73回米国糖尿病学会で、ハーバード大学医学部ジョスリン糖尿病センターから、「褐色脂肪細胞」に関するとても興味深い報告がありましたので、是非、みなさんと共有させて頂きたいと思います。

All Fat is Not Bad: Study Shows Exercise Creates "Good Fat"
the American Diabetes Association's 73rd Scientific Sessions


研究者らは、マウスとヒトにおいて、体を動かさないことでついた白色脂肪細胞が運動によって減り、褐色脂肪細胞が増え、その褐色脂肪細胞が代謝を改善する可能性があると報告しました。


具体的には、 回し車で11日間運動させたマウスとエアロバイクで12週間訓練した男性は、ともに白色脂肪細胞が減り、褐色脂肪細胞が増えました。さらに研究者らが、運動させ鍛えたマウスの褐色脂肪細胞を運動不足で脂肪の多いマウスに移植すると、移植後少なくとも12週間、耐糖能※7とインスリン感受性※8が改善したのです。


ジョスリン糖尿病センターのKristin Stanford博士は次のようにコメントしています。「運動による良い効果は筋肉だけではなく脂肪にも影響します。運動によって褐色脂肪細胞が増え、より代謝が活性化するのです。健康な脂肪から血流中に放出され、他の組織に働きかける未知の因子があると思います。ただし、ヒトにおける褐色脂肪細胞が、こうした影響を他の組織に与えているかどうかは、この時点ではわかりません。なぜなら、褐色脂肪細胞の移植はまだヒトで行うことができないからです」


将来、褐色脂肪細胞を体外で培養して増やした後、体内に移植するという治療が実現するかもしれませんね。現時点では、まず、体を動かして、体脂肪の性質を変化させるのが一番だと思います。さらに7月1日号の「Proceedings of the National Academy of Sciences」では、Bruce Spiegelman博士の研究チームが、褐色細胞だけではなく、なんと白色脂肪細胞とベージュ脂肪細胞も低温に反応することを報告しています。

Li Yea,b, Jun Wua,b, Paul Cohena,b, Lawrence Kazaka,b, Melin J. Khandekara, Mark P. Jedrychowskib, Xing Zenga,b, Steven P. Gygib, and Bruce M. Spiegelmana
Fat cells directly sense temperature to activate thermogenesis
doi: 10.1073/pnas.1310261110
PNAS July 1, 2013


ここで皆さん、真冬の凍った海に水着で飛びこんだ状態を想像してみてください。私たちの体は、このひどい寒さに対抗して何とか熱を確保しなければなりません。そこで、直ちに体の感覚神経※9が活性化して、脳の体温を調整する視床下部※10に寒さを伝え、ノルアドレナリン※11が放出されます。ノルアドレナリンは、褐色脂肪細胞のUCP1を活性化し、熱エネルギーが産生されます。


博士らがまず、ノルアドレナリンの受容体を欠損したマウスを20時間低温下(10℃)に置いたところ、予想していたように、肩甲骨間の褐色脂肪細胞では熱産生に関与するUCP1などの遺伝子の発現は減少しました。ところが皮下の脂肪においては、低温刺激によって、それらの遺伝子の発現が保持されていたのです。これは、皮下の脂肪は、ノルアドレナリンに依存しない経路を介して、熱産生を調節している可能性があると考えられます。また、内臓脂肪は、低温刺激によって、熱産生に関与する遺伝子は、それほど誘導されませんでした。皮下脂肪と内臓脂肪の違いは、解剖学的な場所です。つまり、皮下の脂肪は、環境の温度の変化を直接感知しやすいのです。そこで博士らは、環境の温度が、直接、皮下脂肪と内臓脂肪の熱産生の違いに関与していると仮説を立てました。


仮説を検証するために、博士らは、褐色、ベージュ、および白色脂肪細胞を27℃~39℃にの状態に4時間から10日間置き、様子を見ました。結果、8時間の低温刺激下で白色脂肪細胞とベージュ脂肪細胞が反応し、UCP-1の量が約2倍に増えたのです。37℃にすると、UCP1の量は元に戻りました。ところが、褐色脂肪細胞は、UCP1の量は変わらず、褐色脂肪細胞そのものは低温に反応していないと考えられました。ですから、白色脂肪細胞とベージュ脂肪細胞は褐色脂肪細胞とはまた別の、温度刺激に反応する独自のシステムを持っているのです。まだまだ、このシステムが、実際どのように反応しているのか、この反応をどのように操作できるかなどの詳細はわかりませんが、今後の展開が楽しみですネ!


さて、それでは私たちの、具体的なダイエットはどうしましょうか?「低温で脂肪を燃やす!」といっても、ダイエットのための真冬の海水浴は、心筋梗塞などのリスクがありますからお薦めできません。でも、今の季節なら、水泳は楽しいですよネ!また、季節を問わず、歩いたり、走ったり、ダンスや球技など、ご自分の体調に合った、好きな運動を続けてみて下さい。褐色脂肪細胞が増えて、代謝が亢進し、太りにくい体質になりますよ!

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