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がん再発を防ぐライフスタイル

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がんが国民の死亡原因第1位となった今、がんを防ぐことは、国民的関心事と言えます。そして、健康な人ががん予防を望む以上に、がん生存者にとっての再発防止は、切なる望みであるに違いありません・・・。

大西睦子の健康論文ピックアップ15

大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。

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多くのがん患者さんにとって、予後※1に影響するのは、治療を終えて病院を一歩出てからのライフスタイルだと言われています。先日、アメリカ臨床腫瘍学会の正式機関誌であるJournal of Clinical Oncologyに、がん生存者のためのライフスタイルに関してハーバード大学のJennifer Ligibel教授がレビュー※2を報告しました。

Jennifer Ligibel
Lifestyle Factors in Cancer Survivorship
J Clin Oncol 09/2012; 30(30):3697-704. DOI:10.1200/JCO.2012.42.0638

今回はその内容をご紹介したいと思います。

現在、米国のがん生存者は、約1,200万人と言われています。この数字は、今後数十年にわたって、さらに増加し続けることが予想されています。日本では、生涯でがんに罹患する確率(累積罹患リスク)は、男性54%(2人に1人)、女性41%(2人に1人)です(国立がん研究センター2005年データ)。がんは特別な病気ではなく、普通にある病気なのです。がん研究振興財団の報告によれば、全国で約160万人以上の人々ががんを治し、元気に暮らしています。

過去の疫学研究※3は、食生活、身体活動や体重管理が、乳がん、前立腺がん、大腸がんなどに関し、再発や死亡のリスクを改善させることを示しています。介入研究※4によると、がんの診断後にこれらライフスタイルの各要素について改善させることで、疲れにくく元気になり、がんの再発リスクを減少させる可能性が示されています。喫煙やアルコール摂取などは、がん発症との関係が報告されていますが、がん生存者の予後にも大変重要であることが分かってきました。

今回のレビューでは、体重、身体活動、食事、アルコール消費量、喫煙などのライフスタイル各要素が、がん生存者の治療後の予後にいかに影響かを示すと同時に、がん生存者のための臨床研究の将来的な方向性を示しています。

【エネルギーバランスの3要素】

エネルギーバランスとは、エネルギー摂取(食品)、エネルギー消費(身体活動と基礎代謝)、エネルギー貯蓄(脂肪組織)の3つの要素の関係です。過去の疫学研究では、乳がん、大腸がん、前立腺がんの患者に関して、がんのリスクおよび予後とこれらの各要因の関係を調査していますが、ランダム化試験※5は限られています。

【肥満】

肥満は、多くのがんにとって危険因子ということが分かってきました。

特に乳がんおよび前立腺がんのリスクを高めると言われています。ここ最近の43報の研究報告に関するメタアナリシス※6では、乳がん診断時に肥満だった人は、肥満でなかった人と比較し、乳がんによる死亡率と全死亡率は、33%増加を示しました。

肥満と前立腺がんの予後との関係も報告されています。BMI※7と前立腺がんの転帰※8との関係を見たここ最近の22報の研究報告に関するメタアナリシスでは、BMI値が5増加すると、前立腺がんによる死亡リスクが20%増加し、再発リスクが21%増加することが報告されました。

大腸(結腸•直腸)がんについてはまだよく研究されていないようですが、診断時のBMIとの再発リスクを検討した研究報告が5報、検討されています。それらの 結果は一貫してはいませんが、BMI値が35以上の肥満の人は再発リスクが増加していました。

【体重変化】

がんと診断された後の体重変化と予後との関係については、あまりエビデンス※9がありません。乳がんと診断された後の体重増加は、再発リスクの増加と関連があることが、いくつかの古い研究で示唆されています。しかし、乳がんに対する化学療法の後、短期間の経過を見た最近の報告では、転帰と体重変化との関係は認められませんでした。大腸がんでは、体重の増加・減少と再発リスクの間には何の関係もありませんでした。がん診断後の体重変化と転帰との関係に関しては、今後さらなる研究が期待されます。

【減量】

疫学調査によって、大腸がん、乳がん、前立腺がん患者における肥満と予後不良の関連が示されましたが、一方、診断後の減量が予後を改善するのかどうか。その証拠を示したランダム化試験はありません。

がん生存者を対象とした減量に関する唯一の大規模研究がLISA(早期乳がんの補助療法のためのライフスタイル介入研究)です。閉経後のホルモン受容体陽性乳がん※10女性患者338人がランダムに2つのグループに分けられ、一方は、カロリー制限、低脂肪食、身体活動の増加に重点を置いた電話ベースでの減量介入が2年間、行われました。そうして介入なしのグループ(対照群)と比較したところ、身体機能の改善を認めました。更なる追跡調査が現在進行中です。

【運動】

がん診断後の運動は予後の改善と関連していることが、疫学調査で示されています。合計15,000人以上が参加した6つの前向きコホート研究※11で、乳がんの予後と運動との関係が検討されています。これら6つの研究のうち5つで、診断後に中程度の運動を励行した人は、再発およびがん関連死のリスクが減少しました。

例えば、Nurses' Health Studyは、1週間当たり、約3時間/週の平均ペースで歩くのと同程度以上の活動をした患者は、レクリエーション程度の活動を1時間未満しかしない患者に比べ、乳がん再発リスクや乳がんによる死亡リスク、さらに全死亡リスクが50%低くなりました。

同様の知見は、大腸がんと前立腺がんでも報告されています。前立腺がんでは、普通~足早なスピードで週90分以上歩いた男性患者は、ゆっくり歩いた患者に比べ、46%低い全死亡リスクを示しました。

他にもがん診断後の行動変化の重要性を示す研究データがいくつかありますが、それらを確認するためにはランダム化試験が必要です。

【食事】

疫学調査では、食事とがんの予後との関係を検討するにあたり、微量栄養素と主要栄養素の摂取量だけでなく、食事のパターンも調査されています。13報の研究を対象とした2002年のレビューでは、脂肪摂取と乳がんの転帰を評価し、6研究において、脂肪摂取と予後不良には関係があることを報告しています。また、食事と前立腺がんの予後との関係を認める観察研究※12も複数あります。脂肪、特に飽和脂肪の高い食生活が、がんの進行や死亡のリスク増に関連すると示唆した報告もいくつか出されています。最近のレビューでは、緑茶、リコピン※13、オメガ3脂肪酸※14、大豆イソフラボン※15が、前立腺がんや予後の改善と関連していることを報告しています。大腸がんについて、欧米型(赤身肉と加工肉、加工食品など)の食事と再発のリスクも検討されています。

【生物学的メカニズム】

ライフスタイルとがんの予後に関する生物学的メカニズムは、よくわかっていません。現在の仮説では、代謝および炎症経路が互いに関与しあい、これらの制御障害が、がんを含む多くの一般的な疾病の進行に寄与していると考えられています。

インスリン抵抗性※16と慢性的な軽度の炎症はともに、肥満や無気力と関連付けられていますが、一部の研究では(すべてではありませんが)がんリスクの増加とも関連付けられています。 高インスリン血症※17は、早期のがん患者で、転帰不良への関与が報告されています。いくつかの代謝に関するホルモンは※18は、in vitro※19モデルで乳がん発症に影響を与えることが示されています。慢性炎症は、乳がんのリスクおよび予後に重要な役割を果たしているのではないかと示唆されています。前臨床データ※20から、いくつかの炎症性バイオマーカー※21の増加や遺伝子変異が乳がんのリスク増加につながることが実証されています。疫学研究では、特定の炎症性バイオマーカーの上昇が早期乳がんの予後不良と関連があることが実証されました。

【喫煙、アルコール】

喫煙は、特に肺、食道、頭頸部(首から顔)のがんの危険因子です。最近の10報の研究のメタアナリシスでは、がん診断後の喫煙の継続によって、早期の非小細胞肺がんの全死亡および再発のリスクが、診断以降に喫煙をしなかった人よりも高まることが示されています。同じく、喫煙の継続は、食道がんの再発も増加させることが複数報告されています。また、喫煙継続に加えて週に7本以上のアルコール飲料を摂取する人では、これらのリスクがより高まりました。同じようなことが、喉頭がんでも言えました。中でも、かなり進行した喉頭がんで喫煙を続けている人は、再発リスクがもっとも高くなりました。

定期的なアルコール摂取は、多くのがんのリスクを増加させると言われています。継続的なアルコール消費は食道がんの再発リスクを増加させますが、他のがんでは、この関係については明確ではありません。例えば、アルコール摂取と乳がんリスクとの関係はいくつかの研究で観察されているものの、データが一貫性を持って示されてはいません。適度なアルコール摂取と全生存率の改善傾向の関係を示唆する研究も複数あります。

【臨床勧告】

米国癌学会と米国スポーツ医学会は、がん生存者のためのライフスタイルのガイドラインを発表しています。両グループは、がん生存者が日常生活の中に適度な強度の運動(身体活動)を組み込むことを推奨しています。

米国スポーツ医学会のガイドラインは、がん生存者に週当たり150分以上の適度な強度の有酸素運動※22を推奨しています。ガイドラインでは、ウォーキングなど、がん患者の大半にとって安全な、適度な強度の有酸素運動を奨励しています。

米国癌学会のガイドラインでは、がん生存者は、健康的な体重を維持することを提唱しています。最低でも5盛の果物・野菜を摂取する一方、加工食品や赤身肉の摂取を制限するよう推奨しています。同様に、アルコール飲料の消費を制限すること、具体的には、1日当たり女性なら1杯、男性なら2杯までに抑えることも推奨しています。また、これらのガイドラインでは特段、言及されていませんが、禁煙も、すべてのがん生存者に強調されるべきでしょう。

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