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血友病ほか 武田飛呂城さん(30歳)
※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。
*このコーナーでは、日本慢性疾患セルフマネジメント協会が行っているワークショップ(WS)を受講した患者さんたちの体験談をご紹介しています。同協会の連絡先は、03-5449-2317
先月号で簡単に来歴をご紹介した血友病の武田飛呂城さん。彼の言葉を借りながら、セルフマネジメントとは一体どんなことなのか、見ていきましょう。
「生存を保証できない」と言われている身。いつ闘病のために仕事を抜けることになるとも知れず、正社員で働くのは難しそうでした。文章を書いたり読んだりするのが好きだったので、予備校の国語の教師にでもなろうか、と授業の体験に1年間通ってみました。しばらくして大学の先輩からフリーライターの仕事を紹介され、やっと職ができました。どうせなら人の役にも立ちたいという気持ちもあって、空いた時間にHIV感染者に対する支援をしている「はばたき福祉事業団」の活動を手伝っていました。
05年、事業団の大平勝美理事長から、「患者の自立をやるためのリーダーを募っているらしいから、研修を受けてみない?」と誘われました。プログラムを日本に導入しようと患者団体や日本製薬工業協会の合同によるプロジェクトチームが立ち上がった時でした。
自立って何? と半信半疑の気持ちでワークショップを受けてみて、自分の変化に自分で驚きました。「問題解決の手法を教わって、考え方がすごく変わったんです。病気があると、様々に問題が起きてきて、できないやと思うことも多いのですが、打ちのめされるのでなく、本当にできないのかな、どうやったら解決できるかなと考えられるようになりました」
研修を受けたくらいで、と不審に思う方もいるでしょう。武田さんが変われたのには、活動にユニークな仕掛けが組み込まれていることも関係ありそうです。
「研修を通じて他の様々な慢性疾患の方々と、たくさん話ができました。ふつうの患者会は同じ病気の人の集まりで、それだと『自分たちは大変だよねえ』で終わってしまいがちです。私自身も、自分のことを社会的・身体的に大変だと思っていました。けれど、大変な病気なんて社会にいくらでもあると知りました。たしかに大変なんだけれど、そんなに大したことなかったのかなと相対化できたんですよね。その自分に驚き、それがまた自信につながりました」
研修を終えて晴れて「リーダー」となり、その後で自らリーダーを務めたワークショップで再び驚きます。
6週間のワークショップでは、毎週「やりたい」目標を自ら定め、1週間後にできていたら次の目標設定、できなかったら何故できなかったかを参加者全員で考えてみるという流れで進みます。
武田さんの場合、血友病で関節が固まってしまうのを防ぐため、毎日肘の曲げ伸ばし運動をしなければならないのですが、面倒でなかなかできていませんでした。それがを参加者たちから「トイレに行った時、ついでにやれば?」とアドバイスされ、それまでの苦労が何だったんだろうというぐらい簡単にできるようになったのです。
「みんなで問題解決の方法を考えてくれるので、こんなうまい方法があったかと気づかされます」
参加者だけでなく、リーダーにも得るものがあるのです。「そして、たとえ解決法が見つからなくても、それは今できないだけで未来永劫できないとは限らないから、まず今できることを頑張ろうと思います」
このように思えるのは、自分自身の体験と重なり合って、納得する部分が大きいから。
「『生存を保証できない』と言われていた私が、新しい薬の登場で当面は心配なく過ごせているわけです。血友病だって、医療が進んで治るようになるかもしれませんよね。今は内出血してしまうから運動できないんですけど、果たして一生できないのかといったら、そんなことない。だから、あきらめず、今できることをやりたいのです」
プログラムによって大きな自信を掴んだ武田さんは、多くの患者さんたちにも、もっと自信を持って人生を楽しんでもらいたい、その役に立てるのなら嬉しいと、セルフマネジメント協会ができた時から事務局を手伝っています。最近は、フリーライターの仕事がほとんどできない位に多忙です。
ワンポイントアドバイス(近藤房恵・米サミュエルメリット大学准教授) 慢性疾患のセルフマネジメントプログラムは、社会学習理論の「自己効力感」という概念に基づいています。これは「自信があるという感覚」です。何かの技術を学ぼうとか、生活習慣を変えようとするときには、その行動をおこす「自信がある」ということが大事になります。例えば、運動を始めようとするときに、今まで運動など全然したことがない人が、毎日5キロ走ろうという計画を立てたとして、この計画を達成する自信度はゼロに近いと思います。これでは、3日坊主にもなりません。ワークショップでは、参加者が自分の病気とうまくつきあえる自信をつけていけるように、様々な演習が盛り込まれています。