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がんとeヘルス・リテラシー

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 インターネット上の健康情報を適切に収集し活用するためにはeヘルス・リテラシーが求められるという趣旨の、試みとしては面白い論文ですが、考察は牽強付会に過ぎるような気がします。

Association of eHealth Literacy With Colorectal Cancer Knowledge and Screening Practice Among Internet Users in Japan
Seigo Mitsutake, MS; Ai Shibata, PhD; Kaori Ishii, PhD; Koichiro Oka, PhD
J Med Internet Res 2012;14(6):e153
doi:10.2196/jmir.1927

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 インターネットは健康と医療の強力な情報源となってきている。日本人インターネット利用者の約70%が、インターネット上で健康情報を求めており、米国から報告されている推定値と同様のものとなっている。ウェブサイト上での健康情報激増にもかかわらず、健康情報を提供していると称している多くのウェブサイトは、説得力がないかヘルス・リテラシーの低い人には理解するのが難しいという重大問題が明らかになってきている。先行研究では、限られたヘルス・リテラシーは、慢性病関係のより低い知識と不十分な予防との間に関連があることを見出してきた。電子健康情報源の急速な増加のため、利用者がヘルス・リテラシーを向上させることのために、電子世界において健康管理とその促進に関してさらなる方法が開発される必要がある。これらの電子健康ツールは、個人レベル要素であるeヘルス・リテラシーなしに、個人の健康に利益を与えることはほとんどない。eヘルス・リテラシーは、電子情報源からの健康情報を探し、見つけ、理解し、評価すると共に、獲得した知識を健康問題処理や解決に応用する個人レベル要素なのである。eヘルス・リテラシーは、Lilyモデル(*1)に示されている六つの中核的能力ないしはリテラシー領域で構成されている。
1 伝統的リテラシーと数量的思考能力
2 ヘルス・リテラシー
3 情報リテラシー
4 科学リテラシー
5 メディア・リテラシー
6 コンピューター・リテラシー

 大腸がんは、がんによる日本人死亡の3番目に多い原因となっている。便潜血反応検査(fecal occult blood test:FOBT)のようなスクリーニング検査は、大腸がんの罹患率や死亡率を低下させることができる。がん対策推進基本計画は、がんスクリーニング割合を50%以上に上げることを目標としてきているが、40歳を超える日本人の27%しか、FOBTのような大腸がんスクリーニング検査を受けていないのである。健康情報を求めるインターネット利用者の数が社会において多いことを考えると、インターネットが一般の人々に大腸がんに関する情報を広めるキー・チャンネルになるかもしれない。しかしながら大腸がん情報に関係する多くのウェブサイトは、商品や個人健康サービスと繋がっており、適切なeヘルス・リテラシーを持たずにそのようなウェブサイトを利用することは、実際には健康に有害である不適当な商品(例えば根拠のない効果を謳う減量剤)を購入したり、個人健康サービス(例えば不必要なサービス)にお金を払ったりすることになるかもしれない。さらには、大腸がんについてのインターネット情報の多くは、ヘルス・リテラシーの低い人々には理解するのが難解過ぎると報告されてきてはいるが、インターネットから得られる大腸がん情報とeヘルス・リテラシーがどのような関連にあるのかは、ほとんど知られていない。

 米国での3研究が、ヘルス・リテラシーが低いことは、大腸がんの知識が低いこととスクリーニング受診率が低いことに関連があると示した。さらに、ヘルス・リテラシーが低い人々は、様々な情報源から見出される大腸がんに関する情報を求めたり理解したりしにくい傾向にあった。インターネットは、日本において著しく健康情報の重要な源になってきており、これは、広く行きわたったパソコンや携帯電話を通して一般の人々がインターネットを使うようになったからである。それ故に、eヘルス・リテラシーが大腸がんに対する社会の意識高揚に役立つのかどうかを決めることが必要となるのである。eヘルス・リテラシーは多次元であるため、ヘルス・リテラシーとは異なるものとして、eヘルス・リテラシーの次元が大腸がんの知識やスクリーニング受診と関連あるのかどうかを理解し始めることが重要となるのである。しかしながら、eヘルス・リテラシーと大腸がんの知識やスクリーニング受診との関連についてはほとんど知られていない。本研究は、eヘルス・リテラシーと大腸がんの知識およびスクリーニング受診の関連を調査したものである。

 先行するeヘルス・リテラシー研究は、特別な人々に焦点を当ててきており、それは、老齢者、大学生、医療学生、HIV陽性者、子どもが重篤な病気にかかっている親だったりした。これらの研究では、知覚されているeヘルス・リテラシーを測定する単純な自己評価式尺度であるeHealth Literacy Scale(eHEALS)を用いた。eHEALSは、使用するのが簡易であるように設計され、厳密な検査過程を経て内部整合性、信頼性、有効性を調査されたものである。ある研究者たちは、eヘルス・リテラシー測定のために能力検定を用いた。さらに、別の研究者たちは、eヘルス・タスクの複雑さを特徴づけることによりeヘルス・リテラシーの方法論的枠組みを提唱した。eHEALSは、eヘルス・リテラシーのLilyモデルにおけるすべての次元を測定していないことを示した研究もあった。さらには、ある研究者たちは、eHEALSの有効性は、健康情報検索におけるeHEALSとインターネット使用の間の相関関係が弱いことから不十分であることを示した。しかしながら、eHEALSは、インターネットベースでの大標本調査には能力検定より適切であるように見えた。インターネット利用者にはeヘルス・リテラシーが必要とされることから、eHEALSは、本研究においてインターネットベース調査を実施するのには適していると信じられたのである。本研究においては、eHEALSをeヘルス・リテラシーの評価に使用した。

●方法

(1)対象者
 対象者は、日本のインターネット検索会社の登録者から2009年に募集され、横断的インターネットベースの調査に回答するよう求められた。検索会社は、約115万人の自発的に登録した対象者を有し、性別・年齢・婚姻状況・学歴・世帯収入水準などの詳細な社会人口統計学的データを登録時に各対象者から入手していた。本研究での調査に必要だったのは、20~59歳までの3,000人の男女からのデータを収集することであった。

 性別と年齢間の差異割合による選択バイアスを取り除くため、対象者は性別と4年齢グループ(20~29歳・30~39歳・40~49歳・50~59歳)に分類され、それぞれのグループが375人ずつになるように等しく8標本グループに割り振られた。潜在的な12,435人の回答者が、無作為盲検の標本サイズと属性に従い、eメールを通じての調査に参加するよう誘われた。それぞれの層別標本グループの潜在的回答者の人数は、対応する社会人口統計学的回答率により定員を分割する(375人)ことで決定された。回答率は、検索会社によって実施された多くの過去の調査結果から計算され、例えば40~49歳の潜在的男性回答者は、定員375人が35%の平均回答率となる1,072人というような具合であった。インターネットベースのアンケートは、ウェブサイトの保護エリアに置かれ、潜在的回答者は特定のURLを勧誘メール内で受け取り、固有のIDとパスワードを入力することで保護エリアへのログオンができるようになっていた。各グループで375人が参加に同意するサインをし、社会人口統計学的データ情報フォームに記入をした後は、さらなる参加者の受け入れは止められた。診断の影響を取り除くため大腸がんとの診断を受けている14人を分析から外した。

(2)測定
 社会人口統計学的属性について、対象者は現状を最もよく表している区分を選択するように求められた。
1 性別(男・女)
2 年齢層(20~29歳・30~39歳・40~49歳・50~59歳)
3 婚姻状況(結婚していない・結婚している)
4 教育水準(大学院修了・大学卒・短期大学卒・専門学校卒・高校卒・中学卒)
5 世帯収入(300万円未満・300~500万円・500~700万円・700~1,000万円・1,000万円以上)

 大学院修了・短期大学卒・専門学校卒・中学卒と回答した対象者がほとんどいなかったため、教育水準に関する分類を以下の三つに改めた。
1 高校卒以下
2 短期大学卒または専門学校卒
3 大学卒以上

 インターネットでの情報検索の頻度は以下の回答区分により評価された。
1 毎日
2 週に4~5回
3 週に2~3回
4 週に1回以下

 対象者のEヘルス・リテラシー水準評価のために、日本版eHEALS(J-eHEALS)が用いられた。J-eHEALSは、5点法リッカート・スケール法(*2)を用い、全く同意できないの1点から非常に同意できるの5点に分け、総得点が8~40点になる、知覚されているeヘルス・リテラシーを測定するためのものである。

 大腸がんの知識は、定義・危険因子・スクリーニングに関する20の真偽(true/false)質問により評価された。この自己記入式テストは、先行する大腸がんの知識及び心構えに関する研究をもとにした。総合点は0~20点までの範囲となった。

 対象者は、過去に大腸がんスクリーニング受診のある・なしを問われた。

(3)統計分析
 情報に不備のあった者16名と大腸がんと診断を受けている14名を除外し、研究に必要な変数のすべてに完全な情報提供をした2,970人を分析対象とした。

 eヘルス・リテラシーと大腸がん知識との関連、およびeヘルス・リテラシーと大腸がんスクリーニング受診との関連を分析した。

●結果

(1)回答者特性
 以下のような特性であった。
1 性別 男性1,483人49.9%、女性1,487人50.1%
2 年齢層 20~29歳739人24.9%、30~39歳746人25.1%、40~49歳742人25.0%、50~59歳743人25.0%
3 婚姻状況 結婚していない1,161人39.1%、結婚している1,809人60.9%
4 教育水準 高校卒以下702人23.6%、短期大学卒または専門学校卒734人24.7%、大学卒以上1,534人51.6%
5 世帯収入 300万円未満516人17.4%、300~500万円838人28.2%、500~700万円620人20.9%、700~1,000万円600人20.2%、1,000万円以上396人13.3%
6 インターネット検索頻度 毎日2,086人70.2%、週に4~5回374人12.6%、週に2~3回248人8.4%、週に1回以下262人8.8%
7 eヘルス・リテラシー水準 高い(24点以上)1,748人58.9%、低い(24点未満)1,222人41.1%
8 大腸がん知識 高い(14点以上)1,766人59.5%、低い(13点未満)1,204人40.5%
9 大腸がんスクリーニング ある584人19.7%、ない2,386人80.3%
 平均年齢は39.7歳(標準偏差10.9)、eヘルス・リテラシー水準平均23.5点(標準偏差6.5)、大腸がん知識平均13.8点(標準偏差2.4)であった。

(2)共変数による補正を加えたeヘルス・リテラシーと大腸がん知識との関連
 教育水準はeヘルス・リテラシーと統計的に有意な関係にはなかった。さらに、教育水準とインターネット検索頻度は、大腸がん知識テスト点と統計的に有意な関係にはなかった。性別・年齢層・婚姻状況・世帯収入は、eヘルス・リテラシー水準と大腸がん知識水準の両方と統計的関連があったので、これらの変数を調節因子として考慮した。

 性別・年齢層・婚姻状況・世帯収入で調整を加えた後のeヘルス・リテラシーと大腸がん知識との関連を示す重回帰分析を行った。回帰モデルは、大腸がん知識に対して重相関係数R=0.221、調整済み決定係数R²=0.046、P<0.001となり、有意であり大腸がん知識の4.6%を説明できた。すべての被制御変数を入れた後で、eヘルス・リテラシーはプラス方向に大腸がん知識と関連している(標準化係数β=0.116、構造係数0.602、P<0.001)ことが分かった。すべての被制御変数が大腸がん知識点に対する寄与因子であったが、年齢がより強い因子となった。

(3)共変数による補正を加えたeヘルス・リテラシーと大腸がんスクリーニング受診との関連
 性別とインターネット検索頻度は、大腸がんスクリーニング受診とは関連なかった。大腸がんスクリーニングを受けたことのある人は、より年齢が高く(P<0.001)、結婚しており(P<0.001)、より高い教育水準にあり(P=0.03)、より高い世帯収入がある(P<0.001)傾向にあった。

 年齢・婚姻状況・教育水準・世帯収入水準で調整を加えた後のeヘルス・リテラシーと大腸がんスクリーニング受診との関連を示すロジスティック回帰を行った。eヘルス・リテラシー点が1点上がることは、大腸がんスクリーニングを1.03回(信頼区間 95% 1.01~1.05 P=0.001)多く受ける傾向を意味することが分かった。

●考察

 本研究は、eヘルス・リテラシーと大腸がん知識およびスクリーニング受診との関連を調査する初めてのものであり、eヘルス・リテラシーが大腸がん知識およびスクリーニング受診の高さと関連あることを見出した。インターネット利用者人数の大きな増加を考えると、インターネットが一般の人々に大腸がんスクリーニングに関する情報提供をする重要なチャンネルとなるかもしれない。したがって、適切なeヘルス・リテラシーは、インターネットを用いての大腸がん知識向上と大腸がんスクリーニング受診促進における重要な要素となるだろう。

 横断的インターネットベース調査を行った本研究結果からは、eヘルス・リテラシーの低い人は大腸がん知識がより乏しく大腸がんスクリーニングをより受けない傾向にあることが示された。今後の介入研究において、教育プログラムを通してのeヘルス・リテラシー向上が、eヘルス・リテラシーの低いインターネット利用者の大腸がん知識を高め大腸がんスクリーニング行動を促進することができるのかどうかが調査されるべきである。

 大腸がんスクリーニングを必要とする人々に、インターネット上での大腸がんスクリーニング情報提供を促進するために、適切な人々の間にeヘルス・リテラシーを向上させることが重要である。さらには、eヘルス・リテラシーの低い人々に特化した大腸がん情報を含むウェブサイト設計が非常に重要となる。

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