全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。

普及するか同時接種

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

 乳幼児への予防接種。世界では1回に何種類ものワクチンを接種するのが一般的なのに対して、日本では1回1種類が標準的です。そして世界標準に合わせた方がよいという人と、そうすべきでないという人がいます。どちらがよいのでしょう。

 『ロハス・メディカル誌』でも散発的に(2010年3月号、2011年3月号、2011年12月号など)お知らせしてきたように日本は「ワクチン後進国」です。そして、世界水準に追い付いていこうとする際、1回1種類の接種法が障害となりつつあります。

 2011年1月、日本小児科学会は「ワクチンの同時接種は、日本の子どもたちをワクチンで予防できる病気から守るために必要な医療行為である」という考え方を公表し、時計の針を進めようとしました。(ちなみに「ワクチンで予防できる病気」のことを「VPD」と呼びます)

 しかし東日本大震災直前の2011年3月に、小児用肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンを含む同時接種後の乳児が死亡した事例が計7例報告され、両ワクチンの 接種が一時凍結されるという出来事がありました。専門家による検討の結果「ワクチン接種との因果関係は無し」として4月から接種再開となったわけですが、 その際、専門家たちが要望したわけでもないのに添付文書に「他のワクチンを同時に同一の被接種者に対して接種する場合は、それぞれ単独接種することができ る旨の説明を行う。特に、被接種者が重篤な基礎疾患に罹患している場合は、単独接種も考慮しつつ、被接種者の状態を確認して慎重に接種する」という文言が追加されました。厚生労働省が同時接種を嫌がっていることは、ありありと分かります。

 小児科学会では、この文言追加に対して「医療現場に与える影響は極めて大きく、このような重要な決定をする際には、その妥当性について国内の予防接種の専門家等の意見が重要である。それらの意見を十分検討した上で、重要な行政判断をして頂きたい」と不快感の強くにじむ要望書を当時の細川律夫厚労大臣へ提出しました。

 小児科医たちによる熱心な働き掛けの結果、厚労省ホームページに載っている3月29日版Q&Aでは「同時接種による重篤な副反応の増加は報告されていません。欧米においても同時接種の安全性については問題ないとされ、同時接種は通常の方法として広く行われています。(中略)現在の知見からは、安全性についての問題はないと考えられます」「(基礎疾患のある場合)複数のワクチンの同時接種は、単独接種も考慮しつつ、医師が慎重に判断しますので、主治医とよくご相 談ください。複数のワクチンの同時接種は、早く免疫をつけたり、受診回数を少なくする等を考慮して行われるものですが、同時接種で重篤な副反応が増えるわけではありません。万一重い副反応が生じた際などに、単独接種の方がどのワクチンの接種後に起こったのかが分かりやすくなることなども考慮されます」と表現が前向きになっていますが、添付文書上は同時接種の普及にブレーキがかかったままなのです。

●メリット、デメリット

 と、ここまで読んできても、何が問題なのか理解できる方は少ないと思われます。予防接種の枠組みが非常に特殊かつ複雑だからです。少し解きほぐしてみたいと思います。

 まず最初に知っていただきたいのは、日本の予防接種には、接種費用が公費で賄われ何かあった際の補償も手厚い「定期接種」と、原則自己負担で何かあった際の補償が薄い「任意接種」の2種類あるということです。そして、日本が「ワクチン後進国」呼ばわりされるのは、数年前までは、諸外国で標準的に使われているワクチンが多数承認されておらず、使えなかったからでした。近年、ヒブ、小児用肺炎球菌、HPV、ロタといった具合に急ピッチで承認が進み、使いたくても使えないという問題は解消されつつある一方、それら新しく承認されたワクチンがすべて「任意接種」になっていることによって接種率が十分に上がらず、いまだ「ワクチン後進国」の汚名をそそぐには至っていません。「任意接種」だと接種率が上がらないのは、保護者に費用負担が生じることと、自治体が積極的に広報しないため保護者も接種の必要性を強く感じないことの両面が理由と考えられています。

 どんどん「定期接種」に加えていけばよいではないかと思いましたよね。その際に障害となるのが、国が費用をどこから捻出するのかという問題と並んで、一人ひとりがスケジュールをどうやって組むかという問題です。国の予防接種ガイドラインでは、生ワクチンの場合は27日、不活化ワクチンの場合は6日の間隔を空けなければ次の接種をできないことになっており、また定期ワクチンの接種時期が狭く定められ、それを逃すと任意接種扱いになってしまうため、同時接種を 普及させないと、定期接種に組み込んだはよいけれど打つタイミングがないか大幅に遅れるということになりかねないのです。そして、そのスケジュール設定の困難さは、任意接種ワクチンが増えてきた現在、既に顕在化しているのです。

 これが『「VPDを知って、子どもを守ろう。」 の会』が作成したワクチン接種スケジュールです。同会の薗部友良代表は、「こうやって同時接種を前提に組めば主なワクチンを生後6カ月で打ち終わることができます。しかし、単独接種でやっていくと最悪の場合は生後10カ月までかかります。それだけVPDに罹患したり死亡したりする人が増えます。ヒブや肺炎球菌の髄膜炎にかかる子供の半数は1歳未満ですし、その他の病気も早く免疫をつけたいものばかりです」と語ります。

 同時接種のメリットとしては、他に保護者や医師の利便性が高くなるということも挙げられます。対してデメリットとして一般に懸念されるのは、危険性が高くなるのでないか、ワクチンの効果が落ちるのでないかといったことになります。このメリット・デメリットについて今の段階で断定的なことを書くのは避け、今後しばらくの間、一家言を持つ専門家の方々にインタビューして回り、それを皆さんが考える際の材料としてご提供したいと思います。

 1回目にご登場いただくのは、前出の薗部代表です。

  • 患者と医療従事者の自律をサポートする医療と健康の院内情報誌 ロハス・メディカル
月別アーカイブ
サイト内検索