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食事で心臓発作・脳卒中の再発防止を!
寒さがますます厳しくなってきました。寒い季節に心配されるのが、心臓発作や脳卒中(暖かい部屋から急に寒いところへ出ると血管が収縮し、血圧が急に上がって心臓や血管系に負担がかかるため、とよく説明されますね)。そのリスクのある人は、予防のための薬を飲むことはもちろん、普段の生活でできる効果的な方法があるようです。
大西睦子の健康論文ピックアップ20
大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。
ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。
毎年、世界では少なくとも20万人が、心臓発作や脳卒中を発症しながら生還しています。心血管疾患、糖尿病、または内臓疾患の持病のある人は、健常者と比較して、新しい心血管疾患の発症リスクが増加します。二次予防※1として、アスピリンなどの抗血小板薬※2、レニン・アンジオテンシン系血圧降下剤(ACE阻害薬またはARB)※3、β遮断薬※4、スタチン系薬剤※5などは、それぞれ心血管疾患の発症を4分の1減らします。ちなみにACE阻害薬は体内でアンジオテンシン2を作る酵素の作用を妨げアンジオテンシン2の産生を妨害するもので、ARBはアンジオテンシンが作用する受容体を妨害してアンジオテンシン2が効かないようにします。さらに、これら薬剤の組み合わせの効果はかなりのものと言われています。
ところで、健康的な食事が心血管疾患の発症率を低下させることについては、ご存じの方も多いと思います。ところが、心血管疾患の二次予防薬を服用中の人についても、健康的な食事が有益なことは、ほとんど知られていません。この度、カナダのマックマスター大学の研究者らが「心血管疾患を持つ人も、心臓に良い食事によって心臓発作や脳卒中の再発を予防できる」ことを、雑誌『Circulation』に新たに報告しました。
Mahshid Dehghan, PhD; Andrew Mente, PhD; Koon K. Teo, PhD; Peggy Gao, MSc; Peter Sleight, DM; Gilles Dagenais, MD; Alvaro Avezum, MD; Jeffrey L. Probstfield, MD; Tony Dans, MD; Salim Yusuf, DPhil on Behalf of the Ongoing Telmisartan Alone and in Combination With Ramipril Global End Point Trial (ONTARGET)/Telmisartan Randomized Assessment Study in ACEI Intolerant Subjects With Cardiovascular Disease (TRANSCEND) Trial Investigators
doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.112.103234
対象は、世界の様々な地域(中•高所得40カ国)に暮らす心血管疾患や内臓疾患を伴う患者(平均年齢66.5歳)、合計31,546人です。食物摂取頻度調査票※6を使い、過去12ヶ月間の食生活に関する20の質問を行って評価しました。具体的には、牛乳、野菜、果物、穀物、魚、ナッツ類、肉などを消費する頻度、また、アルコール消費量、喫煙や運動などのライフスタイルの選択について質問を行い、毎日の果物や野菜、穀物、牛乳の消費および肉と魚の消費の比率によって合計スコアを決めました。
約5年にわたる調査の間、5,190人の対象者が心血管疾患を発症しました。しかしながら、心臓に良い食事、すなわち、肉に比べて魚の比率が高く、野菜や果物が豊富な食事を摂取した患者は、心臓発作や脳卒中のリスクが以下のように減ったのです。
●心血管疾患による死亡リスクが35%減少
●新しい心臓発作のリスクが14%減少
●うっ血性心不全※7のリスクが28%減少
●脳卒中のリスクが19%減少
心血管疾患を経験し、あるいは持病とする患者さんは、薬で血圧やコレステロールを下げているので、かえって油断して健康的な食生活を忘れがちなことがあります。もちろん薬も大切ですが、やっぱり日々の健康的な食事の恩恵は大きく、心臓発作、脳卒中の再発の予防になる、というわけですね。
著者のDehghan博士は、「世界中の様々な地域で食習慣はかなり異なるものの、健康的な食事は、異なる経済水準を持つ国でも、心血管疾患の再発予防に関与していました。患者さんはついつい、薬が血圧やコレステロールを下げているので健康的な食生活を守る必要はない、と思ってしまいます。でも、それは間違いです。食事療法は、アスピリン、ACE阻害薬、脂質異常症の治療薬(高脂血症薬)やβ遮断薬等の薬物療法に加えて、有益です。医師ら健康の専門家は健康的な食事の重要性を強調し、高いリスクの患者さんに対して、食生活を改善し、より多くの野菜、果物、穀物、魚を食べるよう助言しなければなりません。健康的な食事は、薬物療法を単独で続ける以上に心血管症状の再発を減らし、世界的に命を救うことができるでしょう」と述べています。
今からでも遅くはありません。是非、毎日の食事に、たっぷりの野菜、そして果物と魚を取り入れてみてくださいね。