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食事のビタミンEがアルツハイマー病リスクを下げる
米国での調査で、ビタミンE・ビタミンC・βカロテンの摂取量とアルツハイマー病発症リスクとの関連を調べたところ、食事からのビタミンE摂取量が多いことはアルツハイマー病リスクを下げるとの結果が出ました。前回と同じような研究ですが、結果は少し異なるようです。
Dietary Intake of Antioxidant Nutrients and the Risk of Incident Alzheimer Disease in a Biracial Community Study
Martha Clare Morris, ScD; Denis A. Evans, MD; Julia L. Bienias, ScD; Christine C. Tangney, PhD; David A. Bennett, MD; Neelum Aggarwal, MD; Robert S. Wilson, PhD; Paul A. Scherr, PhD, ScD
JAMA. 2002;287(24):3230-3237. doi:10.1001/jama.287.24.3230.
川口利の論文抄訳
発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。
酸化過程は、アルツハイマー病発現の要素として示されてきているが、ビタミンEや他の抗酸化栄養物がアルツハイマー病発現を予防するのかどうかは知られていない。そこで、抗酸化栄養物であるビタミンE・ビタミンC・βカロテンが、アルツハイマー病発症に関連あるのかどうかを調べるものである。
地域在住者からの階層化無差別抽出標本を対象として1993~2000年に実施された前向き研究において、ベースライン時にアルツハイマー病ではなかった65歳以上の住民815人が平均3.9年間の追跡調査を受け、ベースライン時の平均1.7年後に食物摂取頻度調査票への記入を行った。標準化された基準での臨床評価におけるアルツハイマー病発症との関連を調べた。
食物からのビタミンE摂取量が増えることは、年齢・教育水準・性別・人種・アポリポ蛋白E4・追跡調査期間の長さで補正を加えた場合に、アルツハイマー病発現リスクが低くなることと関連があった。摂取量最低五分位群を比較基準とした信頼区間95%での相対危険度は、第4五分位0.71(0.24~2.07)、第3五分位0.62(0.26~1.45)、第2五分位0.71(0.27~1.88)、最高五分位0.30(0.10~0.92)となり、P=0.5と統計的に有意であった。ビタミンEとアルツハイマー病との予防的関連は、アポリポ蛋白E4陰性者のみに見られた。他の食事因子での補正を加えると予防的関連は弱まった。ビタミンC・βカロテン・サプリメントからのビタミンE摂取量は、アルツハイマー病リスクと有意な関連とはならなかった。
本研究は、他の抗酸化物質ではなく、食物からのビタミンEが、アルツハイマー病リスクの減少と関連があるかもしれないことを示している。予想外に、この関連はアポリポ蛋白E4対立遺伝子非保有者のみに観察された。
●背景
増加しつつあるエビデンスは、酸化過程がアルツハイマー病の病因と関係あるかもしれないことを示している。酸素フリーラジカルと活性酸素種による脂質膜とDNAへの蓄積された損傷が、正常細胞機能を混乱させ神経細胞死に至らせると考えられている。ビタミンE・ビタミンC・βカロテンを含む抗酸化栄養物は、酸化ストレスに対する体の自然防御機構の中にある。脳組織の動物研究および実験室研究を通じ、抗酸化栄養物が脂質過酸化とタンパク質の酸化を減少させ、活性酸素種の産生を抑制し、ミトコンドリア機能不全およびDNA断片化を予防し、神経毒性・アポトーシス・神経細胞死を減少させることが示されてきた。抗酸化栄養物の食事からの摂取とアルツハイマー病発現との関係を調べた研究はほとんどない。ビタミンEおよびビタミンCサプリメント利用とアルツハイマー病に関する報告をした二つの前向き研究は、相反する結果を生んだが、どちらも仮説を検証する力には限りがあり、どちらも食事情報を有していなかった。本研究では、大規模地域研究シカゴ健康加齢プロジェクト(CHAP)において、アルツハイマー病発症と食物およびサプリメントからの抗酸化栄養物の摂取量との関連を報告した。
●方法
(1)対象者
シカゴ健康加齢プロジェクト対象者は、シカゴ南側の隣接3地域の住民からなる。1993~1997年の国勢調査により、65歳以上の8,501人が確認され、そのうちの249人は引っ越し、439人が死亡し、残った7,813人中の6,158人が、健康と生活様式に関する質問を含む面接、および四つの認知検査を受けた。面接に引き続き、1,056人が階層化された無作為抽出標本に選択され、729人がアルツハイマー病に関する完全な臨床評価を受けた。
ベースライン後平均3.2年で、コホート全体のうち4,983人が生存しており、追跡調査面談が4,320人に対して実施された。アルツハイマー病発症に関する臨床評価で有病者ではない人たちから、別の階層化された無作為抽出標本が選出された。年齢・性別・人種・ベースライン時から追跡調査時面談までの認知検査パフォーマンス変化(変化なし・ゆるやかな低下・実質的な低下)により94の階層化可能性により無作為抽出された。選択された1,249人中、臨床評価以前に死亡したのが109人で、298人は臨床評価を拒否した。アルツハイマー病の有病に関する臨床評価を受けた842人中815人が本分析に対する完全なデータを有することとなった。
(2)食事評価
標本対象者は、ベースライン後平均1.7年、またはアルツハイマー病の臨床評価の平均2.3年前に、自己記入式食物摂取頻度調査票に記入を行った。食物摂取頻度調査票は、前年におけるビタミンサプリメント利用と同様に、139品目の食品に関する摂取量測定に用いられた。栄養摂取量は、食品目の栄養素量×摂取頻度により算出した。栄養水準は、男女別々に総エネルギー摂取量により補正を加えた。
(3)アルツハイマー病診断に対する臨床評価
2時間半の臨床評価が、神経科医1人・ナースプラクティショナー1名・神経心理学専門家1名での編成チームにより実施された。評価には、受療歴・神経学的検査・神経心理学的検査・情報面談・研究室試験が含まれた。認知症が明らかな場合には、または脳卒中発症が臨床的に確定できない場合には、MRIが実施された。食事評価データを伏せられた専門医師会認定の神経科医によって、神経性疾患診断以前にすべての臨床評価データが再調査された。アルツハイマー病診断は、国立神経疾患・伝達障害研究所、および脳卒中/アルツハイマー疾患・関連疾病協会の基準により行われた。
(4)共変数
1 人種に関しては、1990年の米国国勢調査基準を用い、年齢は、自己申告による誕生日と面談日から算出した。
2 2週間前以内の服薬を含め、脳卒中に関する情報以外の食事関連ではない変数については、ベースライン時面談で入手した。
3 教育水準は、自己申告での最高学位または公教育修学年数によって算出した。
4 現在喫煙しているかどうかは、「現在喫煙していますか?」という質問に基づき決定した。
5 糖尿病歴は、抗糖尿病薬使用・対象者報告による臨床的糖尿病診断・糖尿・高血糖値により定義した。
6 高血圧歴は、降圧剤服用または対象者報告による高血圧により定義した。
7 心臓病は、自己申告による心筋梗塞・ジギタリス使用・標準化された質問に対する回答による狭心症エビデンスにより定義した。
8 脳卒中歴は、神経科医による検査・受療歴・MRI診断に基づく、臨床評価時の診断での可能性大または可能性ありにより定義した。
9 アポリポ蛋白E4遺伝子型は、血液採取から決定された。
(5)統計分析
抗酸化栄養物摂取量を五分位で分類した。最初は、年齢による補正を加えて関係を調べた。その後、年齢(歳)・性別・人種・教育水準(年)・アポリポ蛋白E4(少なくとも一つの対立遺伝子保有と非保有)・観察期間(アルツハイマー病ではなかった時点からアルツハイマー病診断までの年数)で補正を加えた。また、抗酸化栄養物(ビタミンE・ビタミンC・βカロテン・ビタミンAの総摂取量)、脂質(多価不飽和脂肪・飽和脂肪・一価不飽和脂肪)、心血管疾患関連因子(喫煙・糖尿病・高血圧・心臓病・臨床的脳卒中)で補正を加えた別々のモデルを用意した。80歳未満と80以上での年齢・人種・性別・12年未満と12年以上での教育水準・少なくとも一つのアポリポ蛋白E4対立遺伝子保有と非保有による、効果の修飾についても別々のモデルで調べた。また、抗酸化栄養物間の効果の修飾についても調べた。
●結果
平均追跡調査期間3.9年(標準偏差1.7、幅0.4~6.9年)で131人がアルツハイマー病発現となった。それぞれの抗酸化栄養物について、食物からとサプリメントからを合わせた総摂取量を比較すると、五分位群が上がる方が最低五分位群よりも白人が多く、修学年数が多く、他の抗酸化栄養物摂取量が多い傾向となった。
食物からのビタミンE摂取量が多い群は、男性であり、脂肪とβカロテン摂取量がより高く、ビタミンC摂取量はより低い傾向となったのに対し、食物からのビタミンC摂取量が多い群は、女性であり、ビタミンEと脂肪摂取量がより低い傾向となった。βカロテンの摂取量最低五分位群は、より上位の群よりも黒人が多く、アポリポ蛋白E4対立遺伝子保有者である傾向となった。
それぞれの抗酸化栄養物に関するアルツハイマー病との関連は以下の通りとなった。
1 ビタミンE
総摂取量に関しては、最低五分位との比較において、年齢で補正を加えた相対危険度が、より上位の群でアルツハイマー病発症と負の関連となったが、P=0.62で統計的に有意とはならなかった。人種・性別・アポリポ蛋白E4状態・教育水準を補正に加えると、アルツハイマー病に対する保護的関連は減少した。
食物からの摂取量に関しては、統計的に有意な用量反応保護的効果が見られ、P=0.04となった。最高五分位群は最低五分位群より67%低いリスクとなった。他の交絡因子で補正を加えても、最高五分位群の相対危険度は変わらず、0.30(信頼区間95% 0.10~0.92 P=0.04)となり、五分位全体での線形傾向もP=0.05と有意なままとなった。
2 ビタミンC
総摂取量に関しては、年齢のみでの補正でも多変量補正でもアルツハイマー病との有意な関連は見られなかった。
食事からの摂取量に関しては、年齢のみでの補正でも多変量補正でもアルツハイマー病との負の関係があるように見えたが、統計的に有意となったのは第4五分位群のみであった。
3 βカロテン
総摂取量も食事からの摂取量も、年齢のみでの補正と多変量補正の両方において、相対危険度は負の関連となったが、アルツハイマー病と有意な関連とはならなかった。
年齢・性別・人種・教育水準・アポリポ蛋白E4状態での効果の修飾を調べると、ビタミンEとアポリポ蛋白E4との関連のみが統計的に有意となった。アポリポ蛋白E4対立遺伝子非保有者においては、食物からのビタミンE摂取量がアルツハイマー病と強い線形保護的関連を示した。
●考察
本大規模地域研究においては、食事からのビタミンE摂取量がアルツハイマー病発症と負の関連にあった。ビタミンEサプリメント利用に関するアルツハイマー病との関連は見られず、また、ビタミンCおよびβカロテンもアルツハイマー病と統計的有意性はなかった。ビタミンEの線形保護的関連は、アポリポ蛋白E4対立遺伝子非保有者のみにおいて見られた。