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市街地が遠く、車使わない人は血圧が高くなる

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 日本の山間部で、人口中心地までの距離と高血圧リスクとの関連を調べたところ、車を利用しない人では、距離が遠いと高血圧有病率は有意に高いことが見いだされました。

Effect of Environmental and Lifestyle Factors on Hypertension: Shimane COHRE Study
Tsuyoshi Hamano, Yoshinari Kimura, Miwako Takeda, Masayuki Yamasaki, Minoru Isomura, Toru Nabika, Kuninori Shiwaku
PLoS ONE 7(11): e49122. doi:10.1371/journal.pone.0049122

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

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●背景

 高血圧は大きな公衆衛生問題であり、世界的な有病率は10億人ほどであると推定されてきている。先行研究では、肥満・アルコールの過剰摂取・身体的不活発などの生活様式関連因子、教育・職業などにおける低社会経済的状況、遺伝的変異体が、高血圧と関連あることを発見してきている。過去数年間にわたっては、居住環境の特徴と高血圧との関連を調査しようと努めてきている。これらの研究のほとんどは、歩きやすさや曝露環境のような物理的環境と社会経済的喪失や社会資本のような社会的環境という、二つの一般的因子に焦点を当ててきている。さらに最近では、物理的環境の中の居住の遠隔と高血圧との関連に関する研究が、地理情報システム(GIS)に対する注目の高まりとともに勢いを得てきている。居住の遠隔を調査した先行研究においては、対象者の居住地と人口中心部との道路網距離をGISによって推定している。ある開発途上国で実施された居住の遠隔と高血圧の潜在的相互関係を考察した最初の研究は、人口中心部からの距離と血圧の間には有意な負の相関があることを見出した。さらに、先進国で実施されたある研究からのエビデンスは、道路網距離で測定された居住の遠隔は、より高い高血圧リスクと関連あることを示した。知る限りでは、居住の遠隔下での生活様式が高血圧に与える影響について調査した研究はない。

 交通機関は、農村地域における健康増進行動を決定する重要な生活様式因子である。公共交通機関網が農村地区においてはしばしば貧弱であるとすると、食物の入手可能性同様に医療利用の入手可能性が限られるかもしれない。そういうものだとして、自動車による輸送の利用が居住の遠隔と高血圧との関連における鍵を握る要素かもしれないという仮説が立てられているのである。

 本研究では、各対象者の住所の標高位置は、GISによって居住の遠隔を示す代理として推定された。より高い標高位置の地域は、しばしば貧弱な交通機関を有するか全く交通機関を有しないかになり、交通機関が限られているため食品サービスもしばしば限られることから、そのような地域の居住者は、より標高の低い居住地で一般的に消費される食物と比較して、より高い塩分を含む伝統的な日本の食物を消費することになるかもしれず、自動車による輸送を利用できないことで明確となる限られた食品利用により制限される食事が潜在的に血圧への影響をもたらしているかもしれないことを示している。加えて、人里離れた山岳地域に居住している人は、貧弱な公共交通機関のため医療サービスの利用も限られるかもしれない。本研究の目的は、道路網距離・標高によって定義される遠隔性および自動車利用による日用品入手の容易さを含む生活様式が、高血圧有病率に与える影響を日本の山岳地方で調査することである。

●方法

(1)データ収集
 データは、2006~2009年に、高血圧を含め生活様式関連疾病の決定要因調査のために設定された、Shimane COHRE研究の一環として実施された横断的研究において収集された。Shimane COHRE研究は日本の島根大学によって実施され、掛合町(かけやまち・2006年から)・三刀屋町(みとやちょう・2007年から)・大東町(だいとうちょう・2009年から)・加茂町(かもまち・2009年から)の4町(*1)での健康診断プログラムとの協同により着手された。これらの町は、日本の島根県東部の山岳地域に位置している。これらの町に住む人々は、健康診断のために二つの選択肢を有した。一つは、保健所で実施される集団での健康診断で、もう一つは、医療機関の診療室での健康診断であった。

(2)測定
 高血圧測定は、熟練スタッフにより実施された、差し向かいでの面接で座位血圧測定によって得られたデータで確認された。対象者は、以下の質問を受けた。「あなたは、最近高血圧の治療を受けていますか?」回答として、治療中で降圧薬を服用しているとの報告が362人、薬は用いずに治療中であるとの報告が31人、高血圧の治療は受けていないとの報告が955人からあった。四つの高血圧サブグループを以下のように定義した。
1 Model 1A 降圧薬を服用している
2 Model 1B 降圧薬を服用している、または、服用せずに治療中である
3 Model 2A 降圧薬を服用している、または、収縮期血圧/拡張期血圧が140/90mmHg以上である
4 Model 2B 降圧薬を服用している、または、服用せずに治療中である、または、収縮期血圧/拡張期血圧が140/90mmHg以上である

 分析には以下の変数も考慮に入れた。
1  年齢
2  性別(男性か女性か)
3  仕事(農業・自営・その他・なし)
4  BMI
5  ストレス(最近ストレスを感じる・最近ストレスは感じない)
6  日常交通手段としての自動車使用(自動車を使わない・自動車を使う)
7  アルコール摂取(飲酒しない・飲酒する)
8  喫煙(喫煙しない・喫煙する)
9  身体活動(定期的に身体活動に取り組んでいる・定期的に身体活動に取り組んでいない)
10 薬物治療(脂質異常症または糖尿病)

(3)GIS計測
 GISは、道路網距離および標高推測、データベース照会に使用された。道路網距離は、各対象者の実際の居住地と人口中心地との距離を推測した。島根県の県庁所在位置を人口中心地と定めた。各対象者の居住地と人口中心地間のより短いコースを決めるネットワーク分析が道路網を使って行われ、道路網での距離が以下の三分位に分けられた。
1 近距離 0~26,685.8メートル
2 中距離 26,685.9~38,350.6メートル
3 遠距離 38.350.7~68,070.1メートル

 各対象者の居住位置標高モデルは、GIS用の既製デジタル標高モデルデータセットを用い、三分位に分けられた。
1 低標高 0~52.0メートル
2 中標高 53.0~187.0メートル
3 高標高 188.0~522.0メートル

 道路網により、一番近いバス停までの距離も推測され、以下のように分けられた。
1 近距離 0~305.12メートル
2 遠距離 305.13~5,199.84メートル

 また、一番近いクリニックまでの距離も道路網により推測された。
1 近距離 0~2,180.14メートル
2 遠距離 2,180.15~19,883.31メートル

(4)統計分析
 道路網距離、標高、年齢、性別、仕事、医薬品使用、喫煙、アルコール摂取、BMI、身体活動、ストレス、一番近いバス停までの距離、一番近いクリニックまでの距離というすべての変数を、高血圧との独立した関連を見極めるために使用した。四つのモデルを使い、それぞれの予測変数との独立した関連を補正オッズ比で算出した。
1 高血圧の定義Model 1A 降圧薬を服用している
2 高血圧の定義Model 1B 降圧薬を服用している、または、服用せずに治療中である
3 高血圧の定義Model 2A 降圧薬を服用している、または、収縮期血圧/拡張期血圧が140/90mmHg以上である
4 高血圧の定義Model 2B 降圧薬を服用している、または、服用せずに治療中である、または、収縮期血圧/拡張期血圧が140/90mmHg以上である

 4町からの1,438人中データ不備のある者を除き、40~74歳までの1,348人を分析対象とした。

●結果

(1)自動車利用
自動車を日常生活の主たる交通機関として使用している群が954人、使用していない群が394人となった。自動車を使用する群としない群の間に、高血圧における有意な差異は存在しなかった。

(2)自動車非使用群
 四つのモデルにおける、道路網距離と標高による補正オッズ比を算出した結果は以下の通りとなった。信頼区間は、いずれも95%である。
1 高血圧の定義Model 1A 降圧薬を服用している
  近距離(比較基準)
  中距離2.21(1.19~4.08 P<0.05)
  遠距離2.55(1.00~6.51 P<0.05)
  低標高(比較基準)
  中標高0.73(0.38~1.43)
  高標高0.50(0.19~1.28)
  標高と高血圧の関連は統計的に有意とはならなかった。
  年齢(オッズ比1.06 1.01~1.12)、脂質異常症の医薬品使用(オッズ比4.13 2.24~7.58)、BMI(オッズ比1.13 1.04~1.24)は、高血圧と有意な関連があった。

2 高血圧の定義Model 1B 降圧薬を服用している、または、服用せずに治療中である
  近距離(比較基準)
  中距離2.29(1.26~4.18 P<0.01)
  遠距離2.73(1.09~6.82 P<0.05)
  低標高(比較基準)
  中標高0.74(0.39~1.43)
  高標高0.53(0.21~1.32)
  標高と高血圧の関連は統計的に有意とはならなかった。
  年齢(オッズ比1.06 1.01~1.11)、脂質異常症の医薬品使用(オッズ比3.79 2.07~6.93)、BMI(オッズ比1.11 1.02~1.21)は、高血圧と有意な関連があった。

3 高血圧の定義Model 2A 降圧薬を服用している、または、収縮期血圧/拡張期血圧が140/90mmHg以上である
  道路網距離と高血圧の関連は統計的に有意とはならなかった。標高については、標高が上がるほどオッズ比は下がったが、統計的に有意とはならなかった。
  年齢(オッズ比1.04 1.00~1.09)、脂質異常症の医薬品使用(オッズ比2.80 1.52~5.15)、BMI(オッズ比1.15 1.06~1.25)は、高血圧と有意な関連があった。

4 高血圧の定義Model 2B 降圧薬を服用している、または、服用せずに治療中である、または、収縮期血圧/拡張期血圧が140/90mmHg以上である
  道路網距離と高血圧の関連は統計的に有意とはならなかった。標高については、標高が上がるほどオッズ比は下がったが、統計的に有意とはならなかった。
  年齢(オッズ比1.04 1.00~1.08)、脂質異常症の医薬品使用(オッズ比2.90 1.57~5.35)、BMI(オッズ比1.15 1.06~1.25)は、高血圧と有意な関連があった。

(3)自動車使用群
  近距離(比較基準)
  中距離0.95(0.62~1.46)
  遠距離0.95(0.55~1.62)
  低標高(比較基準)
  中標高1.19(0.77~1.84)
  高標高1.64(0.92~2.94)
  道路網距離と高血圧の関連は統計的に有意とはならなかった。標高については、標高が上がるほどオッズ比は上がったが、統計的に有意とはならなかった。
  年齢(オッズ比1.08 1.05~1.11)、脂質異常症の医薬品使用(オッズ比3.44 2.20~5.38)、BMI(オッズ比1.17 1.11~1.24)は、高血圧と有意な関連があった。

2 高血圧の定義Model 1B 降圧薬を服用している、または、服用せずに治療中である
  道路網距離および標高ともに高血圧との関連は統計的に有意とはならなかった。
  年齢(オッズ比1.08 1.05~1.11)、脂質異常症の医薬品使用(オッズ比2.85 1.82~4.46)、BMI(オッズ比1.19 1.12~1.25)は、高血圧と有意な関連があった。

3 高血圧の定義Model 2A 降圧薬を服用している、または、収縮期血圧/拡張期血圧が140/90mmHg以上である
  道路網距離および標高ともに高血圧との関連は統計的に有意とはならなかった。
  年齢(オッズ比1.06 1.03~1.08)、脂質異常症の医薬品使用(オッズ比2.19 1.39~3.43)、アルコール摂取(オッズ比1.50 1.06~2.14)、BMI(オッズ比1.24 1.17~1.30)は、高血圧と有意な関連があった。

4 高血圧の定義Model 2B 降圧薬を服用している、または、服用せずに治療中である、または、収縮期血圧/拡張期血圧が140/90mmHg以上である
  道路網距離および標高ともに高血圧との関連は統計的に有意とはならなかった。
  年齢(オッズ比1.06 1.03~1.08)、脂質異常症の医薬品使用(オッズ比2.05 1.30~3.21)、アルコール摂取(オッズ比1.52 1.07~2.16)、BMI(オッズ比1.24 1.18~1.31)は、高血圧と有意な関連があった。

●考察

 予測した通り、本研究では、自動車を使わない群において、より距離の遠い場所に住んでいる人が、統計的に有意なより高い高血圧リスクを抱えていた。最も近い公共交通機関までの距離は、近距離の人と中距離および遠距離の人を比較すると、近距離233.1±175.8m(P<0.01)に対して中距離463.6±662.9m、遠距離1,193.2±1,330.7mとなり、中距離および遠距離が相当に遠いことが分かり、農村地域においては、高血圧を予測したり測定したりするうえで、交通機関利用の欠乏が重要かもしれないことを示している。交通機関利用が欠乏すると定期的な健康診断同様、健康教育プログラムの利用がより少なくなることにつながることで説明できるかもしれない。一番近いクリニックまでの距離も、近距離1,301.5±1,420.5m(P<0.01)に対して中距離3,195.9±3,492.0m、遠距離5,915.9±5,770.2mで、近距離の人と比較して相当に遠くなっていた。同時に、一番近い病院までの距離においても、遠距離の人は近距離の人と比較して相当に遠いことが分かった。これらの結果は、より距離があるほど医療サービス利用への大きなバリアを負わせることを示している。農村地域における交通機関を利用できることと健康増進サービス利用との関連に対するさらなる理解を提供するためには、今後の研究が必要となる。

 標高と高血圧との間には有意な関連が見られず、仮説として立てた、より高い標高の所に住んでいる自動車を使わない人で高血圧に対するより高いオッズ比が出るとの予測は当たらなかったが、標高における地形上の分散が大きくなく、平均標高134.1±109.2mであったことで説明がつくかもしれない。

 本研究では、道路網距離を対象者の実際の居住地から人口中心地間で測定しており、山岳地帯の道路網が複雑であることを考えると、直線距離測定で算出されるノイズを減じることができた可能性がある。また、GISを用いて標高と高血圧との関連を調査した研究は初めてで、居住の遠隔に伴う生活様式が高血圧に与える影響を示したのも初である。結論として、日本の山岳地域の農村においては、遠隔性と高血圧との特定の関連は、自動車利用による日用品入手の容易さにより差が生じることが研究から示される。これらのことは、健康政策立案の際に、居住環境と人が住んでいる場所を考慮することに対する理解と重要性を促進するものである。

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