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ドレッシング 味付け以外にも役割
サラダのドレッシング、どうやら味を良くするだけではないらしいのです。栄養を効率よく摂り込むことができるようになるのだとか。その健康効果も、成分によって違いが出てくるらしいのです。健康志向の人ほど陥りやすい、ちょっと意外な"落とし穴"かもしれません。
大西睦子の健康論文ピックアップ9
大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。
ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。
皆さん、サラダを食べる時、ノンオイルドレッシング、低脂肪ドレッシング、それとも普通のドレッシングのどれを使いますか? ダイエット中の方は、「やっぱりノンオイルが一番!」って思っていらっしゃいませんか? 実は、ノンオイルドレッシングを使った場合、サラダのカロリーは低くなりますが、大切な野菜の栄養素を吸収できず捨ててしまうのと同じになるのです。もし、野菜の栄養素を摂取したいなら、野菜の種類だけではなく、ドレッシングの選び方も大切です。もっと言えば、使われている油の種類が重要です。
今回は、パデュー大学の研究者たちの研究報告から、栄養面から考えるドレッシングの上手な選び方を伝授いたします。
Meal triacylglycerol profile modulates postprandial absorption of carotenoids in humans.
Goltz, S. R., Campbell, W. W., Chitchumroonchokchai, C., Failla, M. L. and Ferruzzi
Mol. Nutr. Food Res., 56: 866-877. doi: 10.1002/mnfr.201100687
まず始めに、「カロテノイド」ってご存じですか? 「β-カロチン」は聞き覚えのある方も多いと思います。β-カロチンはカロテノイドのひとつ。カロテノイドは、天然に存在する、黄色、赤色あるいはオレンジの色素成分です。構成する要素が、炭素と水素のみで酸素を含まないものはカロテン類(α-カロチン、β-カロチン、γ-カロチン、リコピンなどがあります)※1、酸素を含むものはキサントフィル類(ルテインやゼアキサンチン、カンタキサンチンなどがあります)※2と分類されますが、どちらも抗酸化作用※3が強く、心血管障害、老化、がん、加齢黄斑変性症※4を含むいくつかの慢性疾患に対しても予防的効果があると考えられています。ちなみにβ-カロチンは、動物や人間の体内でビタミンAに変わります。
こうしたカロテノイドは、緑黄色野菜、マンゴーや柿などの果物に多く含まれています。厚生労働省の「健康日本21」※5によれば、日本では、野菜1日350g以上、緑黄色野菜にすると120g以上の摂取が推奨されています。しかし、日本人の1日平均野菜摂取量は約290g、特に20〜40歳の年齢層では約250gと、野菜の摂取が不足しています。
「私はかなり気をつけて毎日たっぷり野菜を食べているから大丈夫」、という方も、ちょっと待ってください。せっかく野菜を毎日350g食べていても、カロテノイドが体内に吸収されていない可能性があります。カロテノイドは、水に溶けにくく油に溶ける性質を持っているため、脂肪とともに摂取すると効率よく体内に吸収されます。逆に言えば、そうでないとカロテノイドがきちんと摂れないままに排泄されてしまい、「食べているのに不足している」という事態になるのです。
とはいえ、どれだけの油類があればカロテノイドをきちんと摂取できるのでしょうか。具体的な油の量や種類とカロテノイドの吸収率との関係を調べた研究は、これまで限られていました。以下のような報告があります。
●Roodenburg博士らは、「ヒトの場合、サプリメントからのα・β-カロチン吸収に十分といえる脂肪摂取量は、3-5g」と実証しました。
●逆に、Brown博士らは、「低脂肪(6g)や無脂肪のサラダドレッシングに比べ、全脂肪ドレッシング(28g)と一緒にサラダを食べると、カロチンやリコピンの生物学的利用能が最も高い」と報告しています。
●脂質の種類に関しては、Hu博士らは、「ヒトにおいて、牛脂の飽和脂肪酸※6は、ひまわり油の多価不飽和脂肪酸※7と比較して、β-カロチンの吸収を強化した」と明らかにしました。
このように、油の量や種類とカロテノイドの吸収率の関係については、さまざまな意見があります。そこで、パデュー大学の研究者たちは、「どんな種類の油のドレッシングをどのくらいの量使うと、効率よくカロテノイドを体内に吸収できるか」を検証しました。
方法は、以下のとおりです。
●対象は、平均年齢27歳(18--46歳の範囲)、平均BMI 22.8kg/m2(20-26 kg/m2の範囲)の29人(男性14人、女性15人)の健常者。彼らにサラダが、ラテン方格(3×3)※8を使って無作為に割り当てられます。
●ドレッシングは、キャノーラ油※9、大豆油※10、バター※11を使った3種類。同じ栄養成分に揃えたサラダに、それぞれ3g、8g、20gの3通りの量をかけたものを用意します。すべての食品は厳密に計量し、パデュー大学栄養科の研究スタッフにより調製されています。試験期間中にテストサラダの総カロテノイド含有量は、一人前平均25 mg(16〜32mgの範囲)でした。
●サラダを食べた直後から10時間後まで、血液を1時間おきに集めて、カロテノイド含量などを分析しました。なお、体内のカロテノイドの影響を最小限に抑えるために、試験開始日の7日前から、被験者は低カロテノイド食にします。
試験の結果、キャノーラ油、大豆油とバターの3種類のすべてのドレッシングで、油が20gのドレッシングは3gや8gのものに比べて、α-カロチン以外、すべてのカロテノイド類の吸収を促進しました。従って、すべての種類の油において、脂質の量が多いとカロテノイドは吸収されやすくなります。
ところが、カノーラ油、大豆油とバターの3種類では、異なった特徴がありました。大豆油とバターは、3gと20gにおいて、カロテノイド類の吸収率の大きな差が認められましたが、キャノーラ油は、3gでも20gとほぼ同量のカロテノイドの吸収を促進したのです。従って、キャノーラ油からのカロテノイド吸収率を考えると、「バターなどの飽和脂肪酸を、少量のキャノーラ油などの不飽和脂肪酸に替えても、野菜からのカロテノイド吸収に影響を与えない」と言えます。
今後、この研究グループは、サラダとドレッシングだけではなく、タンパク質や炭水化物を含んだ食事と一緒に摂取したときの、カロテノイド吸収に関して評価する予定です。
というわけで、油の量を多くするとカロテノイドの吸収は上がるということですが、やはり脂肪分の取り過ぎが気になりますよね。大さじ一杯のバター(約13g)は、約100kcalです。一方、キャノーラ油大さじ一杯(約14g)は125kcalと、バターよりカロリーは高めです。ただし、今回の研究から、小さじ一杯(4g)、35kcalでも、カロテノイドの吸収率は20gと同じ程度だそうですから、一番効率よくカロテノイドの吸収がでるキャノーラ油を少量使う、というのが体に良さそうですね。
早速、今日から食事に採り入れてみませんか?