全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。

食べ過ぎを招く お酒・寝不足・テレビ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 食べ過ぎと分かっているのに、どうして手が出てしまうの? それは意志の問題だけではないかもしれません。キーワードは、アルコール、睡眠不足、テレビ視聴です。

大西睦子の健康論文ピックアップ6

大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。

 今回は、ちょっと違う視点からダイエット成功の秘訣を伝授いたします。食事や運動の話題ではありません。実はもうひとつ、ダイエットを成功させるための重要な鍵があるのです。そう、それは環境を変えることです。

 これまで多くの研究者たちは、深刻な肥満問題が、ファーストフードや高カロリーの食事が簡単に手に入る環境にあると指摘してきました。実際、そのような環境がファーストフードの消費者を増やし、肥満の原因となりました。でも、まだ他にも私たちの身近に、重大な環境因子があるのです。それは、皆さんも感じてはいると思いますが、「アルコール」「睡眠」「テレビ」です。

 最近、アルコール、睡眠不足やテレビなどの行動パターンが、食べ物による報酬の感受性を高め過食となり、肥満を増やすことがわかりました。例えば、アメリカ人成人の58.9%が1日2時間以上テレビを観ていて、それらの人はエネルギー摂取量が多く、太っています。睡眠不足は、脳の食事に対する快楽の反応を増やし肥満となります。同様に、アルコールも肥満の原因と考えられてきました。

 今回、スウェーデンの研究者たちは、これまでに報告された4759もの「アルコール」「睡眠」「テレビ」と食事量に関する論文の中から、最終的に23の適切な論文(アルコールが10論文、睡眠は5論文、テレビは8論文)を絞り込み、解析しました。

Lifestyle determinants of the drive to eat: a meta-analysis
Am J Clin Nutr 2012;96:492-7.

●対象者は健康な人です。

●アルコールに関する調査は、まず「アルコール」「エタノール」「食べ物」「摂取量」「空腹(感)」という言葉の様々な組み合わせを含む論文を検索し、さらに食事の最大30分前に飲酒していることを条件としました。なお、摂取カロリーはアルコールと食事のすべての総量を計算します。

●睡眠不足については、「睡眠」「減少」「遮断」「短い」「食べ物」「摂取量」「空腹(感)」という言葉の組み合わせから論文を選んだ上で、睡眠時間が最大5.5時間の日の食事の摂取量の合計について検討しました。食事の摂取量を測る前の日は、最低8時間の睡眠をとっていることを条件としました。

●テレビに関しては、「テレビ」「食事」「摂取量」「空腹」という言葉の組み合わせについて検索して論文を選び出し、テレビを観ながら食べているときの摂取量を検討しました。

 その結果、アルコール>睡眠不足>テレビの順で、これらの生活習慣が過食に影響することがわかったのです。アルコール、睡眠不足やテレビは肥満の原因ということだけではなく、食べ過ぎの原因なのです。

 これら3つに共通することは、私たちの脳内報酬系に関係することです。以前このブログでも甘みと脳内報酬系※1の話題がありましたが、脳内報酬系は環境によっても変化します。

 アルコールは、g ‐アミノ酪酸(g-aminobutyric acid: GABA)※2およびオピオイド神経系※3に影響します。脳の脳内報酬系のGABAの変化は、食欲を刺激します。オピオイド神経系は、味覚を通して報酬系の調節をしています。こうした理由で、食前に、アルコール摂取した場合と同じカロリーの炭水化物を摂取した場合では、アルコールを摂取した場合が空腹感が強くなるのです。

 睡眠不足でも、脳内の被殻※4、側坐核※5、視床※6、及び前帯状皮質※7といった部分が活性化され、アルコールと同じような現象が証明されています。

 テレビに関しては、テレビを観ながら食べていると、より高カロリーな食べ物を食べる傾向にあることが報告されています。理由は、テレビを観ていると、胃から産生されるペプチドホルモン※8であるグレリン (ghrelin)※9 が分泌され、過食になるともいわれています。ただし、グレリンが食事と関係のない映像でも分泌されるかどうかは、まだわかっていません。

 こうした脳内報酬系の喜びを繰り返し感じていると、そのうちにこの環境因子と食べ物がつながった記憶を形成します。食べ物によって喜びを感じるだけでなく、食べ物とペアになった環境因子によって、喜びを期待するようになるのです。これは習慣的に繰り返せば繰り返すほど、その記憶は強くなり、食べる欲望が掻き立てられるようになります。つまり、日常的に睡眠不足の状態で食事をしたり、飲酒しながら、あるいはテレビを見ながら食事をしている人ほど、より食べることで脳内報酬系の喜びが強くなっていくのです。特に、飲酒しながら食事したり、テレビを見ながら食事をしている人は、アルコールやテレビそのものが食べる喜びの合図になります。こうした環境因子による食べる喜びの合図は、依存的な過食においても大きな役割を果たしていることが考えられます。

 一方、短時間睡眠から健康的な睡眠量に変えると、6年越しに見た時、体脂肪増加を少なく抑えられます。同じように、テレビを見る時間が1時間未満の子供たちは、体重減少、BMI値の低下、皮下脂肪減少、体脂肪減少が見られ、「過体重」に分類される子も少ないようです。また成人早期に飲酒量を減らすことは、後々、体重増加や腹部の肥満を弱めるのを助けることになります。

 これらの結果は、「ライフスタイルが食事量と体重増加に大きな役割を果たす」と自覚する大切さも教えてくれています。

 ダイエット中の方、これからダイエットを予定している方、食事と運動のスケジュールだけではなく、是非この情報を活用して、肥満を促す環境(obesogenic environment)を変えてみましょう!ということで、さっそく今日から、お酒は控えて、テレビも長時間観るのは止めて、ぐっすりと睡眠をとってみませんか?

1 |  2 
  • 患者と医療従事者の自律をサポートする医療と健康の院内情報誌 ロハス・メディカル
月別アーカイブ
サイト内検索