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男性ホルモンとメタボの関係

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 米国のFramingham Heart Studyコホートで、男性ホルモンのテストステロンおよび性ホルモン結合グロブリン(SHBG)とメタボリックシンドロームリスクとの関連を調査したところ、SHBGにはメタボリックシンドロームリスクとの関連があること、テストステロンそのものとの関係は微妙であることが分かりました。

Sex Hormone-Binding Globulin, but Not Testosterone, Is Associated Prospectively and Independently With Incident Metabolic Syndrome in Men
The Framingham Heart Study
Shalender Bhasin, MD, Guneet K. Jasjua, PHD, Michael Pencina, PHD, Ralph D'Agostino, Sr., PHD, Andrea D. Coviello, MD, MS, Ramachandran S. Vasan, MD, and Thomas G. Travison, PHD
Diabetes Care. 2011 November; 34(11): 2464-2470.
Published online 2011 October 15. doi: 10.2337/dc11-0888

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 過去の疫学的研究は、男性で総テストステロン濃度が低いことはメタボリックシンドロームリスクを高めると報告してきている。血中テストステロン濃度も、インスリン抵抗性・内臓脂肪症・高血圧・脂質異常症などメタボリックシンドロームの独立した構成要素と関連づけられてきている。これら疫学的観察は、テストステロン不全がメタボリックシンドロームに寄与し、アンドロゲン(男性ホルモン)不全の診断評価とテストステロン補充療法がメタボリックシンドロームの男性において必要であるかもしれないとの推測へと導く。

 血中テストステロンは、部分的に性ホルモン結合グロブリン(sex hormone binding globulin = SHBG)と強い親和力で結び付けられており、テストステロン濃度はSHBG濃度と強く関係している。SHBG濃度も、男性におけるメタボリックシンドロームリスクと関連づけられてきている。しかしながら、総テストステロンとメタボリックシンドロームの間で観察された関連が、テストステロンの独立した影響を反映するのか、主としてSHBGの影響を反映するのかは分からない。遊離テストステロンとメタボリックシンドロームの関係は一致を見ておらず弱いものとなっており、SHBGが総テストステロンとメタボリックシンドロームの間の明らかな関係における主要な決定要因かもしれないことを示している。

 この問題は治療上の含みを有しており、もしテストステロン濃度の低いことがメタボリックシンドロームの原因として関係あるなら、テストステロン濃度の低い男性に対するテストステロン補充療法がメタボリックシンドローム予防または改善にとって期待されるかもしれないのだ。一方、仮説を立てたように、もしSHBGが総テストステロンとメタボリックシンドロームの間の主要な決定要因だとすると、メタボリックシンドロームリスク同様に、肥満やインスリン抵抗性など、SHBGを整える治療可能な因子に努力が直接向けられるべきである。

 本研究では、SHBG同様に、総テストステロンおよび遊離テストステロンとメタボリックシンドロームの関係を、Framingham Heart Study(FHS)における地域住民男性対象に横断的調査をし、これらの関連を検証標本において確認するものである。さらに、これらのホルモンとメタボリックシンドローム発生との関連を縦断的に評価した。先行する研究では、低い値については正確性を欠く免疫測定法でテストステロン濃度を測定していた。本研究においては、最も高い精度と特定性を有する方法である、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法により測定を実施した。メタボリックシンドロームとテストステロン濃度に独立して影響を与える因子、BMI・喫煙・インスリン感受性指数(HOMA-IR)により補正を加え分析を行った。さらに、SHBGで補正した後にテストステロン濃度がメタボリックシンドロームと関連あるのかどうかも測定した。本研究では、総テストステロンとメタボリックシンドロームの間の明らかな関係は、メタボリックシンドロームとSHBGの関連により大部分決定されるとの仮説を立てた。

●方法

(1)対象者
 1998~2001年に実施された7回目のFramingham Offspring Study(*1)検査に参加した男性1,625人を横断的分析の適格者とした。検証標本は、Offspringコホートの子どもたちであるGeneration Three Cohortの1回目の検査に参加した1,912人とした。前立腺がんのためテストステロンまたはアンドロゲン除去療法を受けた男性、またはテストステロンデータやメタボリックシンドローム定義のための必要データに不備のある者は除外され、訓練標本の横断的分析の標本は1,407人、検証標本は1,887人となった。

 ホルモン濃度がメタボリックシンドローム発生と関連あるかどうかを測定するため、7回目検査でホルモン測定を受けた横断標本の男性たちが、平均して6.6年後(2005~2008年)の8回目検査で調査された。7回目または8回目の検査において、前立腺がんのためテストステロンまたはアンドロゲン除去療法を受けていた男性、またはテストステロンデータやメタボリックシンドローム定義のための必要データに不備のある者は除外された。7回目検査でメタボリックシンドロームであると報告した男性668人も除外した。よって、618人が7回目検査時のホルモン濃度と8回目検査時のメタボリックシンドローム発生との関連を前向きに調査するために有効となった。

(2)ホルモン測定
 総テストステロンとSHBG濃度は、横断標本群は7回目検査において、検証標本群は1回目検査において測定された。1晩絶食後に午前7:00~9:00にサンプルが採取され、-80℃で保存された。総テストステロンは、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法により測定した。SHBG濃度は、蛍光免疫測定法により測定された。遊離テストステロンは、総テストステロンとSHBGから算出された。

(3)メタボリックシンドローム
 成人治療パネル3(ATP Ⅲ)区分に基づき以下のうち三つが存在すればメタボリックシンドロームと定義した。
1 腹囲 40インチ(102cm)超
2 HDL-C値 40mg/dL未満
3 トリグリセリド値 150mg/dL以上
4 血圧 130/85mmHg以上、または抗高血圧治療を受けている
5 空腹時血糖値 100mg/dL以上

(4)他の変数
1 HOMA-IR
2 過去1年に喫煙したと報告した場合は、喫煙者として分類
3 高感度C反応性蛋白質

(5)統計分析
 性ホルモンとメタボリックシンドロームの横断的関連が多重ロジスティック回帰により分析され、モデルは、テストステロン濃度と有意な関連があることから年齢と喫煙により補正された。総テストステロンとメタボリックシンドロームの関連がSHBGにより影響を受けるのかどうかを測定するため、SHBGでの補正を加えた。追加モデルでは、BMIとHOMA-IRが順次補正に加えられた。

 7回目検査時の性ホルモン濃度と7回目検査時にメタボリックシンドロームではなかった男性の8回目検査時のメタボリックシンドローム発生との関係を調べるため、年齢と喫煙で補正した多重ロジスティック回帰を用いた。追加モデルとして、7回目検査時の総テストステロンおよび遊離テストステロンと8回目検査時のメタボリックシンドローム発生との関連を調べるため、年齢・喫煙・SHBG・BMI・HOMA-IRで順次補正し、分析した。

●結果

(1)ベースライン時特性
 横断標本群の平均年齢は61.1歳で、総テストステロン濃度は586ng/dL標準偏差±227、遊離テストステロン濃度87pg/mL標準偏差±32、SHBG濃度58nmol/L標準偏差±27となった。47.5%がベースライン時にメタボリックシンドローム、51.8%が腹部肥満、57.3%が空腹時血糖値100mg/dL以上、61.4%が高血圧、33.1%が高トリグリセリド血症、36.0%が低HDL-Cだった。

 対して、検証標本群は、平均してより若く、平均年齢は40.3歳、より高い総テストステロン濃度と遊離テストステロン濃度で、メタボリックシンドローム有病率がより低く、それぞれのメタボリックシンドローム構成要素においてもより割合が低くなっていた。

 7回目検査でメタボリックシンドロームであった男性は縦断的分析から除外されたため、縦断的分析に使用された標本は、心血管疾患・高血圧・腹部肥満・空腹時血糖異常・高トリグリセリド血症・低HDL-C傾向はより低いものとなった。

(2)横断的分析
 横断標本群の横断的分析においては、年齢および喫煙で補正を加えると、遊離テストステロン濃度同様に総テストステロン濃度もメタボリックシンドロームリスクと有意に負の方向に関連があり、総テストステロン濃度の方が遊離テストステロン濃度よりも強い関連を示した。標準偏差が1減ると、総テストステロン濃度では83%メタボリックシンドローム傾向が高くなり、遊離テストステロン濃度では25%高くなった。総テストステロンが最低四分位に属する男性は、最高四分位に属する男性よりも4.5倍の確率でメタボリックシンドローム傾向となった(P<0.0001)。遊離テストステロンが最低四分位に属する男性は、最高四分位に属する男性よりも1.9倍の確率でメタボリックシンドローム傾向となった(P<0.0001)。

 年齢と喫煙に加え、総テストステロン濃度と遊離テストステロン濃度は、SHBG・BMI・HOMA-IR・高感度C反応性蛋白質とも関連があった。SHBG濃度も、年齢・喫煙・BMI・HOMA-IRとの関係があった。それ故に、感度分析において、年齢と喫煙に加え、順次これらの共変数で補正を加えた。総テストステロンと遊離テストステロンのメタボリックシンドロームリスクとの関連は、順次SHBGとBMIで補正を加えると弱まり、年齢・喫煙・SHBG・BMI・HOMA-IRで同時に補正を加えると実質的に弱められた。遊離テストステロンは、BMIとHOMA-IRを補正に加えた時点でもはやメタボリックシンドローム傾向とは有意な関連は見られなくなった。

 SHBG濃度は、メタボリックシンドロームリスクと有意に負の方向に関連があり、SHBGの標準偏差が1減ると、年齢と喫煙で補正を加えたモデルにおいて78%メタボリックシンドローム傾向の確率が高くなった。SHBGが最低四分位に属する男性は、最高四分位に属する男性よりも、ほぼ5倍の確率でメタボリックシンドローム傾向となった。総テストステロンや遊離テストステロンと異なり、SHBGとメタボリックシンドロームリスクとの関連は、年齢・喫煙・テストステロン・BMI・HOMA-IRで補正後も存続した。

(3)検証分析
 横断標本群による横断的分析の結果は、検証標本群による検証分析で確認された。第3世代の総テストステロンおよび遊離テストステロン濃度は、年齢と喫煙で補正を加えたモデルにおいて、メタボリックシンドロームになる確率と負の方向に関連があり、この関連は、補正にSHBGを加えると弱まり、BMIとHOMA-IRを加えるとさらに弱まった。遊離テストステロンは、年齢・喫煙・BMI・HOMA-IRで補正を加えると、メタボリックシンドロームとの関連は有意とはならなかった。

(4)縦断的分析
 総テストステロンや遊離テストステロン濃度を連続変数とみなすか四分位での分類とみなすかによらず、横断標本群の8回目検査において、7回目検査時の総テストステロンも遊離テストステロンもメタボリックシンドロームとは有意な関連とならなかった。7回目検査時のSHBGのみが、8回目検査時のメタボリックシンドローム発生と有意な関連となった。SHBGとメタボリックシンドローム発生の関連は、年齢・喫煙・BMI・HOMA-IRで補正を加えても有意なままであった。SHBG濃度がより低い四分位に属する男性は、補正に総テストステロン・BMI・HOMA-IRを加えた後でも、最高四分位に属する男性よりも漸次メタボリックシンドローム発生リスクがより高くなった。

(5)SHBGとメタボリックシンドローム構成要素との関連
 SHBG濃度は、横断標本群においても検証標本群においても、全体的に腹部肥満と高トリグリセリドが他の要素よりも強い関連とはなったが、個々のメタボリックシンドローム構成要素と有意な関連となった。年齢・BMI・HOMA-IRで補正を加えると、SHBGとメタボリックシンドローム構成要素との関連は弱まった。

●考察

 本研究での分析は、テストステロンではなくSHBGが、メタボリックシンドローム発生に対する独立予測因子であることを明らかにしている。既に発表されている多くのデータと矛盾することなく、本研究での横断的分析も、総テストステロンおよび遊離テストステロンとメタボリックシンドローム傾向との有意な関連を明らかにした。しかしながら、総テストステロンおよびSHBGの方が、遊離テストステロンよりもメタボリックシンドローム傾向との関連が強かった。さらに、総テストステロンとメタボリックシンドロームの横断的関連は、SHBG・年齢・BMI・インスリン感受性で補正を加えたモデルにおいては、実質的に弱まった。同様に、遊離テストステロンとメタボリックシンドロームとの関連も、年齢・BMI・インスリン感受性で補正を加えた時点で有意ではなくなった。縦断的分析においては、総テストステロンも遊離テストステロンも、メタボリックシンドローム発生と有意な関連とはならなかった。SHBGのみが、テストステロン濃度とは独立して、横断的分析においても縦断的分析においてもメタボリックシンドロームリスクと有意な関連となった。

 SHBGは、糖尿病発症や骨折リスクと関連があると報告されてきている。SHBG遺伝子の多型性も糖尿病と関連づけられてきている。これらの観察結果は、本研究からのデータと照らし合わせ、糖尿病やメタボリックシンドロームのような代謝疾患の独立予測因子としてSHBGの重要性を強調するものである。

 本研究での多変量分析は、先行する研究報告に矛盾することなく、年齢とBMIがSHBG、総テストステロン、遊離テストステロンの血中濃度同様、独立的にメタボリックシンドロームリスクに影響を与えることを示している。SHBG濃度は、総テストステロンおよび遊離テストステロン濃度同様に、メタボリックシンドロームリスクと独立した関連にある。本研究分析では、テストステロンよりは年齢・BMI・インスリン感受性がメタボリックシンドロームリスクの独立した病理生理学的決定要因かもしれないことを示しており、このうち、BMIとインスリン感受性は潜在的に変更可能な危険因子である。インスリンは、肝臓のSHBG産生を抑制することが知られている。年齢・BMI・インスリン感受性が、独立してSHBG・テストステロン・代謝リスクに影響を与えている可能性がある。これらの関連にいくつか見られる共直線性と双方向性により慎重を期すべきではあるが、全体としては、本研究分析からテストステロンとメタボリックシンドローム発生との独立した前向きな関係は明らかにはなっていない。

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