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国の予算編成過程を息子のおねだりに例えてみた

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先週末、国の来年度の概算要求総額が約101兆円に上るというニュースがありました。医療や介護を管轄する厚生労働省は31兆4298億円、2017年度当初予算比2.4%増とのこと。

ただ実際のところ、ニュースの内容がピンとこないという人も多いと思います。金額が大き過ぎるし、それよりもバターが原材料値上げで割高になったという話の方がよっぽど我がことのように感じられたりします。

しかし、国の予算は私たちの生活に直結していますから、お財布に直接響きます。そもそも概算要求って何? という方のために、厚労省周りを取材していた筆者が予算編成の仕組みも合わせて簡単に説明します。

分かりやすくするために、うちの息子(2歳)がおもちゃをねだるプロセスに例えてみます(2歳なのでこんなに戦略的ではありませんが、話を分かりやすくするためなのでご容赦ください。以下青字)。


ロハス・メディカル論説委員 熊田梨恵

以下、黒字が国の予算編成のプロセス
青字が我が家の息子によるおねだりのプロセス


国には厚生労働省や経済産業省、農林水産省など様々な行政分野を管轄する省庁があり、様々な制度やサービスを動かしています。彼らのお財布の中身は多くが税金(国債などそれ以外のものもあります)ですから、好きな時に勝手に使えるわけではありません。どうしているかというと、来年度に使いたいお金をあらかじめ予算案として作っておき、税金を出している国民の代表機関である国会を通して承認を受けることで、初めて使えるようになるのです。それまでのプロセスがちょっと複雑です。

・息子は目新しいものが好きなので、新しいおもちゃを見かけるとほしがります。しかし、お金を払うのは両親ですから、ほしいものを好きに買えるわけではありません。両親のどちらかが「これは息子のために必要だな」と認め、片方の了承も得て、初めておもちゃを買えるわけです。それには交渉のプロセスがあります。

まず、大体6月ごろから各省庁内で予算を作るための準備を始めます。そして毎年お盆過ぎのこの時期に「来年度、この分野はこれぐらい使いそうだ」という大体の予算案を作ります。これが今回報道されいてる概算要求です。大枠の見積もりとでも言いましょうか。

概算要求...各省 (大臣) が財務省 (大臣) に対して行う翌年度の歳入歳出予算,繰越明許費および国庫債務負担行為の見積りをいう。各省内の各部局からの積上げ作業の結果として作成され,毎年8月 31日までに財務大臣に送付しなければならない (財政法 17,予算決算及び会計令8) 。(コトバンクより

・息子は「アンパンマンのドラム」がほしい(約3000円)と心の中で決めます。

(画像はAmazonから)

各省庁は概算要求を8月31日までに財務省に提出します。

・おもちゃ売り場で母親に「これがほしい」と伝えます。


次に、財務省は提出されてきた概算要求を査定します。各省庁は概算要求の内容を説明し、財務省からの質問に答えます。概算要求通りの額が通ることはほぼありません。各省庁の要求を丸呑みしていたら国家財政が破綻します。財務省の査定は厳しいです。

・母親がチェックを入れます。母親としても息子の要求通りにおもちゃを買っていては家計が破綻します。
母「なんでこれがいるの?」
息子「叩いて遊ぶのが好きだから」
母「今、音楽の鳴るキーボード持ってるでしょ?」
息子「あれじゃ『叩く』楽しさがないんだよ。自分でリズムを作りたいんだ」
母「あんたブロックとか他にもおもちゃ持ってるじゃない」
息子「僕はリズムを自分で叩いて楽しみだいんだ! 今は音楽がやりたいんだ! 将来音楽家になるかもしれないでしょ」
母「(将来のためか...)じゃあもうちょっと安いのはないの?」
息子「仕方ない...、もう少し安い太鼓のでもいいよ」。
息子はある時は情熱的に、ある時は泣いて訴え、ようやく安い太鼓のおもちゃで妥協しました。

(画像はAmazonから)


大体12月中頃に、財務省で予算案の原案が作られます。

同じ頃与党が税制改正大綱をまとめます。早い話が次年度の税制についての変更内容で、所得税や消費税、法人税、相続税などについての増税、減税など、課税対象や個々の税率の変更などが細かく決められています。日々の生活に直結するものばかりです。税金は予算と直結しますから、予算案に反映されてきます。

税制改正大綱...翌年の日本の税制のあり方を網羅的にまとめた方針。景気や雇用情勢、財政健全化などを総合的に考慮し、税制改革の内容を細かく定めたものであり、政府・与党が毎年秋口から12月中旬頃にまとめ発表する。これにより翌年の国・地方自治体の税収見込みが立ち、国民生活や企業の事業計画などにも大きな影響を与える。この大綱に従い、翌年1月に行われる通常国会に税制改正関連法案が提出される。(コトバンクより

・母親は定価に消費税を入れて計算します。

そして毎年12月下旬に、最終調整された予算を財務大臣が閣議に提出。閣議決定されます。

・母「1500円か...。それならなんとか出せるかな...。じゃあお父さんが『OK』と言ったらいいよ」
息子「何とか頼むよ、お母さん」

次は年明けに、国民の代表機関である国会に予算案が提出され、審議されます。

・帰宅後、母親は父親に「1500円の太鼓のおもちゃが欲しいんだって。どうしようか?」と尋ねます。

衆参両院で過半数で可決すれば、ここでようやく予算成立となります。

・父「母ちゃんがいいって言ってるならいいんじゃないの」

成立後、各省庁はその予算に従って次年度4月から仕事を進めます。

・翌日、息子は晴れて太鼓のおもちゃをゲットしました。


国の場合は税金ですし、金額も高額で関わる人も多いのでプロセスが複雑になり、時間もかかります。しかしこんな風に、家庭でも似たようなプロセスを経ていると思います。

しかし家庭と違うのは、うちの場合では
母「あんた、買ったのに結局太鼓で遊んでないじゃないの!! もう買わないからね!」
息子「違うよ、遊んでるって」

と、息子が買ったおもちゃでちゃんと遊んでいるかどうか、母親の私による厳しいチェックが行われていますが、国の場合はそういうチェックはほぼありません。予算は取ったもの勝ち、ともいえると思います。結果として、予算が効果的に使われているものとムダ金になっているものが混在してきます。

こういうところを国民は監視していかなければいけないのですが、国会や国会議員も普段の生活からはなかなか遠く感じてしまうところもあると思います。

この話「社会保障の見直しはもはや避けられない」もぜひ読んでいただきたいです。(ロハス・メディカル2014年6月号より)

少しでも予算編成に興味を持ってもらい、自分事としてニュースを見てもらえたら幸いです!

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