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果糖が強く結ぶ? 異性化糖と糖尿病

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

大西睦子

ハーバード大学リサーチフェロー
医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンに。

 連載3回目で、トウモロコシなどのでん粉を酵素処理して生産される異性化糖をご紹介しました。主に清涼飲料水に用いられ、食品表示では「ブドウ糖果糖液糖」(果糖含有率50%未満)、「果糖ブドウ糖液糖」(果糖含有率50~90%)となっているシロップです。

 異性化糖は日本で開発され、1970年代、キューバ革命以降の砂糖不足に悩んでいた米国に導入されました。米国政府は砂糖の代替物に育てるべく、農家に膨大な助成金を支払い、トウモロコシの生産を奨励しました。最近では遺伝子組み換え技術で、より安く大量にトウモロコシを生産できるようになっています。

 その結果、トウモロコシは現在、米国人が普通に食べるあらゆる食品に使われるようになりました。コーンで育った牛肉のハンバーガーとコーン油で揚げたポテトを食べ、異性化糖入りのコーラを飲むといった具合です。さらに、歯磨き粉、スーパーの袋、Tシャツ、バイオ燃料などなど、様々な工業製品もトウモロコシから作られています。もはやトウモロコシは単なる穀物ではありません。

有病率が高くなる

 さて米国は最近、メキシコなど様々な国へ異性化糖を大量に輸出し始め、全世界的に広がりつつあります。一方で、ヨーロッパの国々などは、あまり異性化糖を使用していません。
 このような国による違いに着目した論文が昨年11月、Global Public Health誌に掲載されました。南カリフォルニア大学の研究者らが、43カ国で公開されている平均の糖質、異性化糖、総カロリーなどの摂取量と2型糖尿病の関係を解析したところ、異性化糖を多く消費する国は有病率が高いというのです。

90-o.jpg 異性化糖消費量の少ない国と多い国を比べると、肥満、全カロリー摂取量、全糖質摂取量や他の甘い物の摂取量はほぼ同じなのに、糖尿病有病率は国際糖尿病連合のデータで6.4%対7.7%、GBMRF(公衆衛生に関する研究者・開業医の世界的ネットワーク)のデータでも6.9%対8.2%と、後者の方が有意に高くなりました。僅か1%程度と思うかもしれませんが、日本に当てはめれば患者数120万人以上の極めて大きな差です。

 ちなみに日本の異性化糖摂取量は9番目でした。砂糖摂取は他の国に比べて少ないのが特徴で、要注意です(表参照)。

異なる空腹感の抑え方

 これまでも多くの研究者が、動物実験やヒトの研究から、肥満、糖尿病、メタボリック症候群など、異性化糖の健康への害を報告しています。

 なぜ異性化糖には、このような作用が見られるのでしょうか。JAMA誌1月2日号に「果糖とブドウ糖を摂取した後の空腹感や満腹感の違い」という注目すべき論文が掲載されました。

 過去にもラットの実験で、果糖を脳に注入すると食べ物を探し始め、ブドウ糖だと食べ物の摂取は減ることが観察されてきました。

 ブドウ糖を摂取すると、インスリン分泌や血糖値が上昇すると共に、食欲を抑えるGLP−1というホルモンの分泌が増加し、逆に食欲を刺激するグレリンというホルモンの分泌は低くなります。この作用があるために、ブドウ糖を摂取すると、食べ物を欲しなくなります。ところが果糖は、インスリン分泌刺激が弱く、血糖値も直接的には上げません。GLP−1の分泌も増えず、グレリン産生を抑制しません。結果、果糖を摂っても満腹感が得られず、空腹感も減らず、食べ過ぎる可能性があると考えられています。

 ただ糖を摂取した時にヒトの脳で本当にそのような反応が起きているのかは、今まで確かめられていませんでした。

 今回の論文に記述された研究では、イェール大学の研究者たちが、健康な成人ボランティア20人(平均年齢31歳)を対象に脳機能イメージング法(fMRI)を利用して、ブドウ糖と果糖の摂取後の食欲に関連する脳の活性化の違いを調べました。

 対象者は、チェリー味の果糖液かブドウ糖液300Kcal分をそれぞれ別の日に飲み(先入観や思い込みを防ぐため、飲む順序は無作為に割り当て)、各糖液摂取の前後に画像検査で視床下部の局所的な血流量の変化を測定しました。さらに、糖液を飲む前と飲んだ後10分おきに65分後まで、血液検査を行いました。また、それぞれの糖液摂取後の空腹感、満足感についての質問に答えました。

 結果、摂食中枢と満腹中枢が存在する脳視床下部の血流は、ブドウ糖の摂取後15分以内に減少したのに対し、果糖では減少が認められませんでした。以後すべての時点で、ブドウ糖の方が果糖より視床下部の血流が減りました。ブドウ糖の摂取後は食欲が減少したのに、果糖では食欲が減少しなかったことを意味します。一方、ブドウ糖摂取後に、脳報酬系の機能的な結合が増加し、満腹感は増加しました。果糖でこのような反応は起こりませんでした。血中ホルモンの値も、食欲や満腹感の変化に対応する結果でした。

 今回の報告で、ブドウ糖を摂取すると空腹感が減って満足感を得られるのに対して、果糖では空腹感が減らず満腹感を得にくいことが、改めて裏付けられました。

 私たちは普段、果物や野菜など自然な食品と異性化糖の二つから果糖を摂取しています。前者は、ビタミンやミネラルなどの栄養素も豊富に含まれ、また食物繊維などの作用でゆっくり吸収されます。対して後者は、大量の果糖だけを一気に吸収してしまい、しかも摂り過ぎる可能性があるということになります。

 異性化糖の摂取量と2型糖尿病の有病率が相関したのは、この辺りに原因がありそうです。

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