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大改正でも弥縫策 問題多く積み残し

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

~ 改正予防接種法4月から施行 ~
(シリーズ どうなってるの予防接種!?)

この国会で予防接種法が改正されました。旧法と比べ、非常に多くの点で改良が加えられており、厚生労働省担当者の尽力がしのばれます。でも残念ながら、改正が必要になった原因そのものは手着かずで残り、パンドラの箱も開いてしまいました。

 今回の改正作業は、2009年12月に厚生科学審議会傘下の感染症分科会に予防接種部会が新設され、厚生労働省の上田博三健康局長(当時)が「不退転の決意で大改正に取り組んでいく」と述べたところから始まっています。

 医師でもある当時の足立信也・厚労大臣政務官は、世界と比べてワクチン政策が20年遅れている、との認識を示していました。あれから3年3カ月、遅れはどこまで取り戻せたのでしょう。

満たされない大前提

 今回の改正で、厚労大臣が予防接種基本計画を策定すること、そのために厚労大臣は厚生科学審議会の意見を聴かなければならないこと、医師や医療機関は「副反応」を厚労大臣へ報告しなければならないこと、新たにヒブ、小児用肺炎球菌、HPV(子宮頸がん)に対する3種類のワクチンを定期接種化すること、などが定められました。

 小児用ワクチンが定期接種化すれば、原則として無料で接種できるようになるというのが、これまで暗黙の了解でした。しかし、武蔵野市や府中市など一部の自治体は4月から自己負担1割の徴収を始めました。金額は小さいとは言え、全国どこでも原則無料という大前提が崩れたことになります。居住地や家庭の経済格差が命の格差につながりかねない状況へ、パンドラの箱が、ついに開いてしまったのです。

 長男がヒブ感染による細菌性髄膜炎になったことをきっかけに子どもを守るための活動をするようになった+Action for Chidrenの高畑紀一代表は3月の時点で、こういう事態が起きることを懸念していました。

 講師として招かれた3月6日の国会議員勉強会で「世界標準のワクチンを打てること、国内に暮らすすべての子どもが接種の機会を等しく保障されることの2点は予防接種制度として絶対に外せない大前提だが、今回の法改正では満たされない」と述べています。

 高畑氏が指摘したのは、予防接種部会で扱いを検討していた世界標準の承認済みワクチン5種(水痘、おたふく、B型肝炎、成人用肺炎球菌、ロタ)が定期接種化されずに残ってしまったこと、世界標準の5種混合ワクチンや6種混合ワクチンが未承認であること、自治体の財政力に左右される制度で機会均等が危ういことでした。

 この最後の機会均等に関する懸念が現実化してしまったことになります。

財務・総務に届かない

 この勉強会で高畑氏は、①予防接種制度に関するプレイヤーが多い②すべてのプレイヤーに対して権限を持つ評価検討組織がない③安定的な財源確保がされていない、という三つの構造的課題も指摘しました。

 プレイヤーが多いとは、定期接種ワクチンの決定など制度設計しているのは厚生労働省だけれど、実際に予防接種事業を実施するのは市区町村、費用を拠出しているのは市区町村と財務省+総務省(交付税)というように権限と責任にズレのある状態を指します。

 特に費用拠出の問題は本質的で、厚生科学審議会がどのような議論を行い、厚労大臣がどのような基本計画を立てたとしても、厚生科学審議会の権限の及ばない財務省と総務省が同意しない限り、お金のかかる制度変更はできないわけです。今回の法改正前にも、財務大臣、総務大臣、厚労大臣の3大臣が折衝して合意文書を交わしています。そうした状況は法改正後も全く変わっていません。

 今回は3大臣折衝の結果、定期接種にかかる費用のうち9割相当分が市町村へ交付されることになりました。これまで3割程度分しか交付されていなかったので、大きな前進でした。しかし、交付金総額自体は減っていること、その使い道は市町村の自由であること、財政的に豊かな不交付団体にはそもそも交付金がなく9割相当分も自前で負担しないといけないこと、法律上は被接種者から費用徴収してもよい規定になっていること、という複数の理由があって、費用徴収に踏み切る自治体が出てくるのでないか、と高畑氏は懸念していたのです。

健康保険を使えば解決

 実は高畑氏が指摘した構造的課題を一気に解決する方法があります。

 予防接種を健康保険の給付対象とすることです。そうすれば話は厚労省だけでほぼ完結し、自治体の財政力に影響されなくなります。また、多くのワクチンが、接種にかかる費用以上に病気の治療にかかる医療費を減らすので、新たに財源を用意する必要がありません。

 同じく勉強会で講師を務めた松平隆光・日本小児科医会会長も「地方に任せるのでなく、国がやる事業と認識してほしい」「予防接種の社会保険適用をぜひご検討いただきたい。財源確保の面から見ると一番安定的。医療費が削減されるのだから導入の理屈は立つし、従業員が急に休むことも減って雇用主の理解も得られるだろう」と述べました。

 松平会長はさらに「健康保険に入れば年間に必要なワクチンの量が確定し、無駄なワクチンを作らなくて済むようになるので、メーカーも価格を下げてくれるはず」とのメリットも挙げました。

 このコーナーの始まったきっかけが、不活化ポリオワクチンの国内価格が米CDC購入価格の5倍以上とあまりに高額で驚いたことだったのを思い出してください。確かにあの時、メーカーであるサノフィパスツール社のトマ・トリオンフ社長は「状況が変われば価格の変更もあり得る」と会見で述べていました。

 保険適用にもし障害があるとすれば、予防接種の厚労省内の所管が今回の法改正など一連の流れの中で健康局に集約化されたのに対して、健康保険を所管するのは保険局という、役所の縦割りの問題くらいです。世界標準のワクチンを接種できない、機会均等を保障されない、という子どもたちに降りかかっている不利益に目をつぶる理由には全くなりません。

 このように見てくると今回の法改正は、健康局としては間違いなく抜本的なのだけれど、国全体としては弥縫策にしかならなかったということが分かります。

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