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高齢者の歩行速度は余命と関係する

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 普通に歩いた時の速度が、高齢者では5年生存可能性や10年生存可能性と関連あることが分かりました。秒速0.1メートル速いだけでも大きな意味があるようです。

Gait Speed and Survival in Older Adults
Stephanie Studenski, MD, MPH, Subashan Perera, PhD, Kushang Patel, PhD, Caterina Rosano, MD, PhD, Kimberly Faulkner, PhD, Marco Inzitari, MD, PhD, Jennifer Brach, PhD, Julie Chandler, PhD, Peggy Cawthon, PhD, Elizabeth Barrett Connor, MD, Michael Nevitt, PhD, Marjolein Visser, PhD, Stephen Kritchevsky, PhD, Stefania Badinelli, MD, Tamara Harris, MD, Anne B. Newman, MD, Jane Cauley, PhD, Luigi Ferrucci, MD, PhD, Jack Guralnik, MD, PhD
JAMA. 2011;305(1):50-58. doi:10.1001/jama.2010.1923.
 

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 老齢者において人生の残余年数というのは様々であり、医師は看護の目的や治療方針の評価において平均余命を考慮するべきである。しかしながら、生存というのは健康や機能的能力にも影響を受けるため、年齢と性別のみに基づく平均余命は限られた情報を提供することになる。個人データソースから開発されたモデルも存在するが、健康と機能を組み込んだうえで平均余命を予測する確立した研究法は存在しない。疫学的コホート研究においては、老齢者の歩行速度が生存と関連あることが示されており、歩行速度は健康状態や機能状態を反映することが示されている。歩行速度は、老齢者の健康な状態を潜在的に表す有用な臨床指標として勧められてきている。本研究の目的は、老齢者における歩行速度と生存の関連を評価し、年齢と性別での補正後、歩行速度がどの程度生存の変動性を説明するのかを測定することである。

●方法

(1)全般的方法
 9コホート研究から対象者の個人データを用いた。ベースライン時データは1986年から2000年の間に収集されたものである。それぞれの研究は、ベースライン時の歩行速度に関するデータを有する400人以上の老齢者で構成されており、最低5年間の生存について観察した。本研究での分析は、2009年と2010年に実施されたものである。

(2)対象者
 すべての研究が地域居住の老齢者を対象としているが、研究目的等は様々である。本研究においては、ベースライン時の歩行速度データを有する65歳以上の老齢者を対象者に絞った。

(3)計測
 歩行速度はメートルでの距離と秒での時間によって計測された。すべての研究において、立ち位置からスタートして普通のスピードで歩くよう指示されていた。歩行距離は8フィートから6メートルまでに分かれていたので、計算式により4メートル歩行速度を算出した。可能な場合は、快適な範囲で可能な限り速く歩く速度とShort Physical Performance Battery(SPPB)(*1)に関するデータも入手した。個々人の生存については、National Death Index(*2)やそれぞれの研究の追跡調査を含めた、研究ごとの観察方法を用いた。歩行速度測定ベースライン時から死亡までの時間は日数によって計算された。5年生存状況は、対象者の95%以上で確認された。

 追加変数として、年齢・性別・人種および民族(白人・黒人・ヒスパニック・それ以外を本人の申告により)、身長(cm)、体重(kg)、BMI(25未満・25以上30未満・30超)、喫煙状況(全くなし・過去に喫煙・現在喫煙)、移動補助具の使用(なし・杖・歩行器)、収縮期血圧、自己申告健康状態(excellent・very good・good・fair・poor)、前年の入院歴(ある・ない)、医師の診断による病状(がん、関節炎、糖尿病、心臓病についてある・ない)を含めた。

 食事・排泄・整容・移動・入浴・更衣のいずれかができない、または他人の助けが必要であるという報告に基づき、日常生活動作(ADLs)への依存度を二分変数にした。ADLsが自分でできる人については、買物、食事の支度、負担の大きな家事が健康や身体状況によって困難である、または依存しているという報告に基づいて、身の回り以外の日常生活動作(instrumental ADLs)についての困難度を二分変数にした。対象者は、次の3グループに分類された。
1 ADLs依存
2 instrumental ADLs困難
3 自立

 身体活動データは6研究から収集できたが、時間枠や項目にはバラツキがあった。2研究においては、Physical Activity Scale for the Elderly(PASE)(*3)を用いていたので、スコア100で二分した。研究間で適度に一致している他の変数について操作定義を作った。身長・体重・BMI・収縮期血圧に関しては一致していた。前年に入院歴があるかどうかはだいたいにおいて自己申告に基づいており、慢性病については医師の診断に基づく自己申告であった。心臓病には、狭心症・冠状動脈不全・心臓発作・心不全を含めた。

(4)統計分析
 歩行速度は0.2m/sごとに最低を0.4 m/s未満、最高を1.4 m/s以上とした。歩行速度と生存の関連評価のために、ベースライン時年齢で補正を加え歩行速度0.1m/sの差に対応させた。身長・性別・人種・BMI・喫煙歴・収縮期血圧・病状・前年入院歴・自己申告健康状態によって補正を加え、繰り返し分析を実施した。初期段階での死亡の影響調査のため、歩行速度計測1年以内の死亡を除いての分析、年齢(65~74歳、75~84歳、85歳以上)・性別・人種・自己申告健康状態・喫煙歴・BMI・身体機能状況・移動補助具使用・前年入院歴・病状報告(がん・関節炎・糖尿病・心臓病)による層別サブグループ分析も実施した。

 年齢・性別・歩行速度に基づき簡易で臨床使用可能な生存可能性評価をするため、性ごとに年齢・歩行速度・両者合わせたものを応答変数として、5年生存・10年生存に二分した。生存中間値推定のため、死亡までの時間を応答変数として、継続的予測因子として年齢・歩行速度・両者合わせたものを組み入れた。候補となる変数の中での生存予測可能性比較、歩行速度が他の臨床尺度よりも生存予測精度を上げるのかどうかを確認するため、5年生存と10年生存を応答変数とし、独立変数として様々な因子を組み合わせた。


●結果

 9研究からの対象者総計は34,485人となった。ほとんどの研究は男性と女性両方を対象としていたが、男性のみ対象、女性のみ対象が1研究ずつあり、全体としては女性の割合が59.6%であった。年齢幅は多様で、85歳以上が1,765人含まれていた。歩行速度も0.4m/s未満(1,274人)から1.4m/s(1,491人)までまちまちであった。追跡期間の長さは6年から21年までで、対象者の平均追跡期間は12.2年となった。全研究を通して、17,528人の死亡を数えた。

 研究間の一貫性を評価するため、死亡リスクは歩行速度が0.1m/s上がるごとに評価され、年齢で補正を加えた各研究のハザード比は0.83から0.94となり、すべて有意であった(P<0.001)。3分類した身体機能状況について、歩行速度が0.1m/s上がるごとのハザード比は、自立が0.92(P=0.005)、instrumental ADLs困難が0.92(P<0.001)、ADLs依存は0.94(P=0.02)だった。サブグループにおけるハザード比は、身体機能状況によるものを除いて、すべてが0.81から0.92の間にあり、有意であった(P<0.002)。

 歩行速度が0.1m/s上がるごとの生存に関する全体のハザード比は0.88(信頼区間95% 0.87~0.90 P<0.001)となった。性別・BMI・喫煙状況・収縮期血圧・病状・前年入院歴・自己申告健康状況で補正を加えても結果は変わらなかった(全体のハザード比0.90 信頼区間95% 0.89~0.91 P<0.001)。

 全研究のデータを用いて、性別ごとの5年生存、10年生存表を作成した。歩行速度は男女ともにすべての年齢層において生存可能性の差と関連があったが、特に75歳以上の年齢において情報価値が高くなっている。男性では、85歳における5年生存可能性は歩行速度0.2m/sの0.3から1.6m/sの0.88、75歳における10年生存可能性は0.18から0.86で、女性では、5年生存可能性は高齢に至るまで0.5より大きな値となっているが、10年生存可能性は75歳で0.34から0.92、80歳で0.22から0.86となっている。

 さらに、性別・年齢・歩行速度に基づく平均余命年数中間値を推定した。65~74歳では男性12.6年、女性16.8年、75~84歳では男性7.9年、女性10.5年、85歳以上では男性4.6年、女性6.4年となった。どの性別でも年齢でも、歩行速度が速いほど余命年数が高くなり、歩行速度約0.8m/sが男女ともにほとんどの年齢における余命中央値となった。歩行速度が1.0m/s以上の場合は、年齢や性別のみによって予測されるよりも一貫して長く生存することが示された。

 また、年齢・性別・歩行速度に基づいて予測される生存期間は、年齢・性別・移動補助具使用・自己申告身体機能状況に基づく予測、年齢・性別・慢性病・収縮期血圧・BMI・前年入院歴に基づく予測とほぼ一致することが判った。

●考察

 歩行速度が生存予測につながるのは、歩くことはエネルギー・動きの調節・体支持を要し、心臓・肺・循環系・神経系・筋骨格系を含む多様な器官系の働きを要するからである。歩行速度が落ちることは、器官の損傷とエネルギー負担が大きいことを反映する。歩行速度は、簡易で手の届きやすい指標である。なぜなら、その多くが生存に影響を与える多様な器官系の分かっている障害と認識されていない障害を統合するからである。さらに、移動性が減少するということは身体活動の減少と健康や生存に直接影響を及ぼす失調を引き起こすのである。

 本研究においては、年齢と性別での予測余命中央値は約0.8m/sのところにあった。おそらく、1.0m/s以上であれば余命平均値を上回るであろうし、1.2m/sを超えれば並外れた余命ということになるのかもしれないが、この関係を確認するためにはさらなる研究が必要となろう。

 歩行速度は、臨床的にはどのように利用される可能性があるだろうか。6点挙げておきたい。
1 予防的介入適格者となり得る5年生存・10年生存の可能性が高い老齢者を識別するのに役に立つ可能性。
2 歩行速度が0.6m/sよりも遅く早く亡くなるリスクの高い老齢者を識別し、健康や生存に対する潜在的変更可能リスクに的を絞って検査することに利用される可能性。
3 歩行速度が0.5m/sなので健康や機能状態が良くないだろうというように家庭医が老齢者の特徴を見極める、コミュニケーション促進材料になる可能性。
4 歩行速度が落ちたということは新たな健康問題を抱えたと考えられ評価が必要というような時間の経過に従って観察される可能性。
5 外科手術や化学療法のリスクを階層化するのに利用される可能性。
6 医療的や行動的介入が歩行速度への効果で評価され、歩行速度を高める介入が機能・健康・寿命向上につながるかどうかを確定するための因果関係評価に利用される可能性。

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