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2035年になっても医師不足は解消しない

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 日本の東京大学医科学研究所の研究チームが、2010年と2035年予測による医師数や医師あたりの負担、地域格差等の比較をしたところ、医師数そのものは増加するものの、医師不足解消にはほど遠いとの結論に至りました。

Forecasting Japan's Physician Shortage in 2035 as the First Full-fledged Aged Society
Koichiro Yuji, Seiya Imoto, Rui Yamaguchi, Tomoko Matsumura, Naoko Murashige, Yuko Kodama, Satoru Minayo, Kohzoh Imai, Masahiro Kami
PLOS ONE

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 先進国では急速な高齢化が進んでいる。日本の合計特殊出生率は2009年に1.37であり、平均寿命は男性77.1歳、女性84.4歳である。2010年の総人口のうち65歳以上の高齢者が占める割合は2010年の23.1%から2035年には38.7%となり、先進国で最高となる。

 日本の人口1,000名あたり医師数は2010年に2.15であるがこれはOECD加盟先進国の平均(3.00)を大きく下回る。高齢化に伴う医療需要増加により、日本の医師不足が、将来においてより大きな問題になりそうである。

 日本政府は、医師の供給を厳しく制限しており、日本の医学部は定員に上限を課している。その結果として、特に産婦人科などの医師の不足が社会問題として現れてきている。医師の患者診察拒否や患者の他病院へのたらい回しが社会的関心を引いてきた。医学部への入学は、2008年から2011年までに16%、1,221人増えてきている。日本政府は、人口1,000人あたりの医師数は将来において増加するだろうと予測している。しかしながら、日本医師会や何人かの研究者たちは、医師数の増加は将来には医師過剰をまねく、医師偏在を解決するべきであると警告している。

 これらの予測はいくつかの問題と関連がある。第一に、医師の過重労働は考慮されてきていないということである。日本の医師は、平均週あたり70.6時間勤務しており、20歳代後半で85時間、60歳代で48時間となっている。医師の過重労働による極度の疲労・突然死・自殺が報じられてきた。患者の安全と医師の健康からいうと、労働時間を制限することが重要である。ヨーロッパでは、EUの労働時間指令により、若手医師の労働時間は2009年から48時間に制限されている。米国では、卒後医学教育認可評議会が2003年に職務時間制限を実施し、患者の安全・レジデントの安全・教育の改善に貢献している。第二に、性別や年齢構成の変化は、医師の労働時間を議論する際に考慮されてきていないということである。女性実働医の数は、1965年に10,218人(9.3%)、2008年に51,997人(18.1%)であった。女性医師は、同僚男性よりも勤務時間が短く、20歳代後半で男性85時間に対して78時間、60歳代で男性48時間に対して40時間である。日本の医師に対する供給と需要は、実際の医師の労働力人口や患者/医師の年齢構造に基づいて予想されてきてはいない。高齢人口は、先進国共通の問題で、日本は将来の医療システムのモデルとなりそうである。医師の供給と医療ニーズのバランス予想のため、本研究では、2010年から2035年までの日本の人口・死亡者数・医師数シミュレーションを実施した。

●方法

 国立社会保障・人口問題研究所の日本の将来人口推計に基づき、2010年から2035年までの人口変化を、全国および47都道府県5年ごとでシミュレーションした。5年間累計の死亡者数推計は生命表に基づき算出した。

 年齢および性別層による医師数は、2008年の厚生労働省の医師・歯科医師・薬剤師調査データに基づきシミュレーションした。実働医を75歳以下と定義し、2010年から2035年の人口1,000人あたりの実働医数を算出した。実働医勤務時間推定のため、厚生労働省による性別と年齢でのデータを参照し、1週間あたり、20歳代後半男性は85時間、女性は78時間、60歳代後半男性は48時間、女性は40時間とした。医師数シミュレーションのため、新たな登録医数も考慮に入れた。

 実働医師あたりの死亡者数と実働医師勤務時間あたりの死亡者数という二つの指標を測定した。日本人の78.6%は病院で死亡するので、死亡者数は実際の医療需要を反映している。指標は、全人口・74歳以下人口・75歳以上人口について推測した。境界を75歳に設定したのは、健康な状態での平均余命(HALE:病気および/または怪我により完全に健康な状態ではなく生きる年数を考慮することにより完全に健康な状態で生きると予測される平均年数)は76年(男性73年、女性78歳)であることによる。長期介護が必要になる人の割合は、75歳を超えると爆発的に増加している。

 2010年から2035年のこれらの指標における連続的変化を算出し、研究期間を通して指標の水準を維持するために必要な新たな必要医師数を推測した。さらに、47都道府県別に指標の連続変化を算出した。

●結果

(1)人口1,000人あたりの実働医師数
 人口1,000人あたりの医師数は、2010年の2.00から2035年には3.14に増加し、2010年のOECD加盟国平均の3.00に到達する。総医師数は、271,897人から397,290人へと46%増加するが、総実働医師数は、254,126人から347,103人へと37%の増加になる。60歳以上の医師数は55,375人(医師全体の20%)から141,711人(同36%)へと155%増加となるが、60歳以下の医師数は216,522人から255,579人へと18%増加にとどまる。男性医師数は222,784人から297,483人へと34%増加し、女性医師数は49,113人から99,807人へとに103%増加となる。

(2)人口1,000人あたりの実働医師勤務時間
 人口1,000人あたりの実働医師勤務時間は、2010年の139.2時間から2035年には209.8時間へと51%増加する。仮に勤務時間規定が実施され、2035年に医師の勤務時間が週あたり60時間に限定されると、人口1,000人あたりの実働医師勤務時間は178.2時間で2010年の139.2時間と比較して28%増、48時間に限定されると147.7時間で6%増になると予測される。

(3)実働医師あたりの死亡者数指標
 人口数は、2010年の127,176,445人から110,679, 406人へと13%減少する。5年間累計の死亡者数は、2010年の5,881,151人から2035年には8,336,263人へと42%増加する。75歳以上の死亡者数は、3,529,540人から6,650,448人へと88%増加し、74歳以下の死亡者数は、2,351,611人から1,685,815人へと28%減少する。実働医師あたりの死亡者数は、2010年から2035年の間に23.1人から24.0人へと4%増加し、75歳以上の実働医師あたりの死亡者数は、13.9人から19.2人へと38%増加、74歳以下の実働医師あたりの死亡者数は9.2人から4.8人へと48%減少する。

(4)実働医師勤務時間あたりの死亡者数指標
 2010年と2035年における、実働医師勤務時間100時間あたりの死亡者数は、それぞれ0.128人と0.138人となり、2010年と比較して2035年には8%増加することとなる。しかしながら、仮に勤務時間が週あたり60時間に限定されると27%増の0.162人、48時間に限定されると53%増の0.196人となる。

(5)医師の地理的分布
 2010年と2035年の地域不均衡を予測すると、2010年では実働医師あたりの死亡者数が最も低いのが東京都で最も高いのは青森県だったが、2035年には最も低いのが東京都で最も高いのは埼玉県となる。地方と都市の不平等に加え、東京周辺の人口集中地域で2035年の指標が著しく高くなると予測される。実働医師あたりの死亡者数を2010年と2035年で比較すると、差異の増加割合は、都道府県人口と相関関係があることが分かる。

 都道府県別の解析では、人口1,000人あたり医師数は2035年に大きく増加するものの、西高東低の傾向を有する。医師あたりの死亡者数指標、医師勤務時間あたりの死亡者数指標では、医師増員にもかかわらず指標の改善は見られない。指標悪化は、埼玉・千葉・神奈川・愛知・大阪などの人口集中地域で著しく、西高東低の傾向を有する。医師過重労働を加味したシミュレーションでは、労働時間を欧州並の週48時間に制限した場合、将来的には医師定員数の50%増が必要だと試算される。

●考察

 現状の医師数増員でも各種指標は改善せず、絶対的不足が継続すると予測される。2035年には高齢死亡者数が激増し、医療需要がさらに増大することが懸念される。人口あたりの医師数はOECD平均に達するものの、人口減少と高齢医師・女性医師増加の影響が大であり、医師増員の効果は限定的である。2010年に20%だった60歳以上の実働医師が2035年には35%に達し、老人医師が高齢者を診療する老老医療社会が到来する。2010年に15%だった女性医師は2035年に27%に達すると予測され、今後増加する女性医師の就労支援のためには、医師過重労働の改善が不可欠であると考えられる。

 本研究では、初めて医師の実働時間に基づく将来の医師供給をシミュレーションした。日本政府による過去における医師供給予測は、医師の絶対数にのみ基づくもので、医師の高齢化や女性医師の増加を考慮に入れていない。医師の勤務時間あたりの死亡者数指標によれば、2035年に2010年の水準を取り戻すには8%の医師数増加で済むが、仮に勤務時間が48時間に限定されれば53%へと跳ね上がることになる。患者の安全と医師の健康に基づくと、勤務時間規定の実施傾向を将来の労働力予測に組み入れるべきである。

 医療の技術革新は、医療需要に大きな影響を与える。医療の進歩に伴い、必要とされる医師数は増加するであろう。日本において典型的なのは、産科医と小児科医で、出生数は1973年の2,091,983人から2010年の1,071,304人へと減少しており、一方で産科医と小児科医の深刻な不足が近年報道されている。これらのことは、医療の進歩が医師需要に影響を与えることを示している。

 地域偏在は悪化し、東西格差の拡大・人口集中地域の指標悪化が顕著となる。地域偏在の解消のために、医学部定員のさらなる増員や医学部新設は、有効な方策の一つと考えられる。高齢化社会における医師不足は、2035年には顕著なものとなると予測され、医師の年齢や性別構成の変化は労働力に対しての弊害となる。医師数を増加させ、労働条件を改善し、医師の不十分な分布を解決するための戦略が喫緊の課題となるのである。

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