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「オキシトシン」で浮気を防止できる?

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 皆さん、「浮気防止スプレー」と聞いて、どうですか? どうせ漫画の世界の話でしょ、と思ってしまいますよね。でも、その可能性を感じさせる研究が、大真面目に行われているそうなのです・・・。

大西睦子の健康論文ピックアップ17

大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。

 オキシトシンは9個のアミノ酸からなるペプチドホルモン※1で、脳の視床下部※2で合成され、下垂体後葉※3から分泌されます。オキシトシンは中枢神経で神経伝達物質として働き、末梢組織では母乳の分泌や分娩時の子宮収縮を促すホルモンとして作用します。(オキシトシンは、ギリシャ語で、「quick birth」を意味します)

 哺乳類は、自己防衛反応によって、知らない相手を拒否する本能があります。そういった反応に対して、「愛のホルモン」とも呼ばれるオキシトシンは、他人への恐れを減らし、信頼や愛情を高めるために重要な働きをします。さらに最近では、オキシトシンと自閉症※4の関係も注目されています。したがって、オキシトシンは、親子、男女間や仲間など、人間同士の結びつきを強め、社会全体の活動がよりうまく機能するよう貢献します。

 私たちの日常生活では、「社会的な距離」によって、男女は一定の距離を保っています。親密な関係にある相手だけが、パーソナルスペース※5に入ることができます。それ以外の他人がパーソナルスペースに侵入すると、私たちは不快感を感じます。ドイツのボン大学、René Hurle­mann博士らは、オキシトシンが社会的な関係を促し、男女間の距離を近くするという仮説(要するに、男性が見知らぬ魅力的な女性と遭遇した時、オキシトシンは、その女性と危険な関係を持つように刺激するだろう、という仮説)を立てて検証し、11月14日号の雑誌 The Journal of Neuroscienceに結果を報告しました。

Dirk Scheele, Nadine Striepens, Onur Güntürkün, Sandra Deutschländer, Wolfgang Maier, Keith M. Kendrick, and René Hurlemann,
Oxytocin Modulates Social Distance between Males and Females
The Journal of Neuroscience,
14 November 2012, 32(46): 16074-16079;
doi: 10.1523/JNEUROSCI.2755-12.2012

 驚いたことに、予想に反して結果は仮説と正反対だったのです。さて、何か起こったのでしょうか?

 被験者は計86人の異性愛者の成人男性で、2つの無作為プラセボ試験※6が施行されました。

実験1

 57人の異性愛者の成人男性(平均年齢25歳)を被験者とし、オキシトシンの鼻スプレー投与群とプラセボ群に分けました。57人のうち27人は独身男性で、30人は安定した一夫一妻のパートナーを持つ男性でした。実験のため、魅力的な女性を準備します。対象者はスプレー投与45分後に、魅力的な女性から60cmの距離に立ち、その後女性に近づいたり離れたりします。研究者はその間、被験者にとっての、女性との理想的な距離感を調査します。

 結果、オキシトシンの鼻スプレーを投与したパートナーを持つ男性被験者は、投与しなかった男性や独身男性に比べて、魅力的な女性との理想的な距離を、より遠くに保ちました(被験者は平均68−79cmが理想的距離、投与しなかった男性や独身男性は平均54−61cmが理想的距離)。女性の代わりに男性を立たせても、このような結果は得られませんでした。なお、オキシトシンはアイコンタクトがあると分泌が増えることが分かっています。しかし、魅力的な女性がアイコンタクトを続けても視線をそらしても、どの群も理想的な距離は変わりませんでした。

実験2

 29人の異性愛者の成人男性(平均年齢25歳)を被験者とし、オキシトシンの鼻スプレー投与群(14人)とプラセボ群(15人)に分けました。被験者に性的に魅力的な女性の写真を見せ、被験者はその写真にズームインして、より近づくことができます。

 結果、オキシトシンは一夫一妻のパートナーを持つ男性だけを刺激し、明らかに反応が遅くなり、ゆっくり写真に近づいたのです。これは独身男性には見られませんでした。

 過去の研究で、オキシトシンが、草原ハカタネズミの一夫一妻のカップルをつくる鍵となるホルモンであることが報告されています。今回の研究で、オキシトシンは人間においても、男性が他の女性に関心を抱くことを妨げ、忠実な一夫一婦制の関係を促す役割があることが示唆されました。

 以上から、オキシトシンは、「忠実な愛のホルモン」と分かりました。といっても、オキシトシンによって、パートナーを持つ男性が魅力のある女性から逃げていったわけではなく、独身男性より15cm後方を好んだだけですし、この実験で、浮気の誘惑までは測定されていません。さらにオキシトシンの長期的な効果も分かりません。

 さて、男性の浮気防止にオキシトシンの鼻スプレーは本当に効果があるのでしょうか? 皆さん、どう思いますか?

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