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電子タバコ、安全性は大丈夫?

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電子タバコ、って聞いたことありますか? このところ、米国では禁煙に役立つとして売り上げが急増している一方で、安全性やモラル上の懸念が高まっているようです。何が問題なのでしょうか。

大西睦子の健康論文ピックアップ86

大西睦子 内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。

大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。

「百害あって一利なし」とも言われるタバコ。タバコの煙には、7000以上の化学物質が含まれています。そのうち数百は有害であり、特に約70種類の化学物質について発がん性が懸念されています。

Chemicals in Tobacco Smoke
Center for Disease Control and Prevention (CDC)


紙巻タバコを燃やしたときに発生する煙は、大きく主流煙と副流煙※に分けられます。主流煙ではその主成分であるニコチンそのものの害が、副流煙では受動喫煙が特に問題とされ、がん予防の観点から禁煙が世界中(と言っても主に先進国ですが)で推進されてきました。世界保険機関(WHO)の報告によると、現在、タバコは、世界的ながんによる死亡原因の20%以上、肺がんによる死亡の約70%を占めています。

そんな中、米国を中心に禁煙に役立つとして推奨され、急速に消費量が増加しているのが、「電子タバコ」(electronic cigarette、e-cigarette)です。電子タバコって何でしょうか? 電子タバコであれば、ニコチンの問題も副流煙の問題も、解決できるのでしょうか?


電子タバコって何?

電子タバコは、見た目は普通の紙巻タバコによく似ていますが、マッチやライターで火をつける必要がありません。カートリッジ側を口で吸うと電源が入り、カートリッジ内の液体ニコチンが加熱されて気化し霧状になるので、その蒸気を吸い込んで吐き出します。遠目には紙巻タバコを吸っているようにも見えますが、何も燃えていないため臭いはありません。

なお、日本ではニコチン入りの電子タバコの製造・販売は薬事法で規制されています。つまり国産の電子タバコも売られてはいますが、カートリッジにはニコチンが含まれていないのです。一方、薬事法は個人がニコチン入り電子タバコ(あるいはカートリッジや液体)を海外から入手し嗜むことまでは規制していませんから、日本でも外国産を個人輸入して利用している人もいます。

電子タバコはこれまで、喫煙者が職場など喫煙禁止されている公共の場で使用できるものとして販売されてきました。電子タバコのメーカーはしばしば、紙巻タバコの代わりになるという触れ込みで電子タバコを売り込んでいますが、多くはその健康に対する影響や安全性を明確に示していません。また、電子タバコは禁煙の方法として推進されていますが、効果的であるという科学的証拠はありません。


減らないニコチンの影響

それどころか、米国食品医薬品局(FDA)や専門家は、電子タバコによる純度の高いニコチンの吸入に伴う副作用は十分に研究されておらず、不明な点が多いと懸念しています。FDAはまた、電子タバコに含まれる全化学成分を適切に開示していないメーカーが複数あり、カートリッジラベル記載のニコチン量は、カートリッジに入っている実際の量と一致しない場合があるため、品質管理についても懸念を持っています。電子タバコはそのイメージとは裏腹に、通常のタバコと同じくらい、あるいはそれ以上のニコチンを含むことがあるのです。

肺から血中に入ったニコチンが脳に達すると、集中力が高まり、気分が落ち着き、さらに快感や覚醒といった効果をもたらします。ところがニコチンは依存性が強いことでも知られます。依存状態に陥った人は、ニコチンが切れるとイライラ感や不安などの離脱症状(いわゆる禁断症状)を生じます。ニコチンの依存性は、ヘロインやコカイン、アルコール、カフェイン等よりも強いと言われるくらいです。

ニコチンだけではありません。2009年7月、FDAは、複数の電子タバコ製品を予備的に分析し、電子タバコのカートリッジには、発がん性物質(特定のニトロソアミン類など)や人体に有害な化学物質(溶剤や凍結防止剤に使われるジエチレングリコールなど)等、有毒化学物質が含まれていることを報告しました


"副蒸気"なら安全か

カリフォルニア大学サンフランシスコ校のスタントン・グランツ教授は2013年、電子タバコの蒸気に、発がん性物質や生殖毒性リスクを有する10の化学物質が同定されていると警告しています。

メーカーは、電子タバコは副流煙を発生しないため周囲の人々への健康上のリスクがないと主張します。確かに電子タバコは副流煙は生みませんが、副蒸気は発生します。副蒸気は単なる水蒸気であって無害だとメーカーは主張していますが、規制当局や専門家は電子タバコメーカーがその証明に必要な研究を行っていないことを批判しています。

実際、電子タバコの副蒸気は、人によっては目や鼻、喉への刺激、吐き気、呼吸への影響といった症状を引き起こすことが報告されています。電子タバコの反対派は、メーカーが子供や高齢者、特定の病状を持つ人々を含むすべての人にとって安全だと証明するまで、副蒸気にさらされるべきではないと主張しています。

先日サンディエゴで開催された米国癌学会(AMERICAN ASSOCIATION FOR CANCER RESEARCH;AACR)の学術総会で、カリフォルニア大学やボストン大学などの研究者が発表した研究成果が話題になり、科学雑誌「Nature」ウェブ版のNews&Comment欄でも紹介されました。

電子タバコの蒸気にさらされた培地中で増殖した気管支細胞は、紙タバコの煙にさらされた培地中で増殖した気管支細胞に非常によく似た、遺伝子の変異を示しました。明確な結論を引き出すにはさらなる研究が必要とされますが、この類似性は、電子タバコの蒸気ががんのリスクを高めることの潜在的指標と言えます。


若者や子供にはむしろ危険

米国では、子供や若者が口にする可能性についても問題になっています。電子タバコメーカーは、直接若者に販売しないように注意を促してもいます。ところが、電子タバコ用ニコチンカートリッジには、子供たちにとって魅力的なチョコレートやフルーツ、チューイングガムなどの風味が加えてあり、デザイン的にもスタイリッシュにできています。

米国の法律では、未成年は紙巻タバコを購入できません。厳密には州により異なりますが、18歳未満にはいかなる理由があっても販売できず、それ以上とする州もあります。見た目によっては当然のごとくIDの提示を求められ、自動販売機はありません。を買う際には年齢が18歳以上であることを証明しなければなりませんが一方、電子タバコにはこうした法律は適用されません。ですからインターネットでも販売でき、実際に売られているため、未成年者でも購入は簡単です。紙巻タバコより安い値段で売られているものもあり、若年層の使用が一気に広がっています。若者は、映画やテレビで自分の憧れのスターが電子タバコを吸う姿を見て、魅了されることがあります。

また、米国では子供たちの間で事故的なニコチン中毒の報告が激増しています。2011年以来、大人のニコチン中毒による死亡は、ニコチンを注射して自殺した1例だけです。ところが中毒センター(POISON CONTROL CENTER)に報告されるニコチン中毒の全国件数は、2013年には2012年に比べて300%に増加し、1351症例となりました。今年はさらに倍増するペースで増えています。例えば先日、オクラホマシティの2歳の少女が、親の液体ニコチンを小瓶1瓶飲んで嘔吐し、緊急治療室に運ばれました。液体ニコチンが消化管に入ると、タバコを吸って肺から取り入れるより迅速に体内に吸収されるため、はるかに危険なのです。


薬事法の規制しかないけれど...

こうした経緯や懸念から、海外では電子タバコ規制の動きが強まってきています。例えばフランスなどでは国の法律で、あるいは米国内でもニューヨークなど市の条例によって、電子タバコは禁煙場所で吸うことが禁止されました。

日本国内で生産された電子タバコ(カートリッジや補充液含む)を使用していれば、確かに健康被害はありません。しかし、個人輸入したニコチンを含む電子タバコ、そのカートリッジや補充液を使っていても、見た目には違いがわかりません。そもそも、国産のニコチンなしの電子タバコでも、禁煙場所で堂々と吸うことがモラルとして正しいのか、子供や若者への影響まで考えると甚だ疑問です。


以上から、電子タバコは従来の紙巻タバコと同様に取り扱い、未成年者への販売を禁止すべきと思います。個人輸入で海外のニコチン入り電子タバコをすでに利用されている方も、やはりタバコと同じように健康のためには量や頻度を抑えたり控えたりすることをお勧めします。


※主流煙は紙タバコのフィルターを通って本人が吸い込む煙で、神経毒作用や依存性のあるニコチンが一番の問題になります。副流煙はタバコの火のついた部分から直接立ちのぼっていく煙で、フィルターを通らないために主流煙の何倍もの有害物質が含まれるとされます。何より周囲の人が自分の意思によらない「受動喫煙」を強いられることも問題です。

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