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健康長寿を呼ぶ運動 本当はどれくらい?

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

誰しも健康で長生きしたいもの。禁煙、食事、睡眠、そして運動が大事ですよね。とはいえ「よし、今日から毎日運動しよう」と思い立っても、なかなか続かないものです。そもそも、健康長寿のための運動って、何をどれくらい、やることなんでしょうか?

ロハス・メディカル専任編集委員 堀米香奈子(米ミシガン大学環境学修士)

 運動不足は、肥満やストレスの原因となり、生活習慣病をひき起こします。そこでこれまで、世界中で推奨すべき身体活動の量が検討され、示されてきました。

 国内では厚生労働省が今年3月に「健康づくりのための身体活動基準2013」を発表しています。身体活動・運動と生活習慣病との関係を示す内外の文献から生活習慣病予防のために必要な身体活動量、運動量の平均を求めて設定したものだそうです。

 健康維持に向けた身体活動の量を考えるにあたって考慮すべきとされるのが、身体活動の強度です。「メッツ」(METs)という単位とその考え方が、広く支持を得ています。

 身体活動の強さを「エネルギー消費量が、安静時の何倍に相当するか」で表したもので、椅子に座って安静にしている状態が1メッツ、酸素摂取量で言うと体重1kgあたり毎分3.5mlになります。例えば普通のスピードで歩くのは3メッツに相当します(表1)。
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 厚生労働省は、運動量の目標値を、「週に23メッツ・時の活発な(3メッツ以上)『身体活動(運動・生活活動)』、さらにそのうち4メッツ・時は活発な『運動』をすること」としました(表2)。
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 2011年2月からは企業などと連携し「健康寿命をのばそう! スマートライフプロジェクト」と称した生活習慣病予防の働きかけを行っています。その公式ウェブサイトでは、現代人は「平均1000歩、時間にして10分」歩行が足りていないとして、「苦しくない程度の早歩き」で「1日当たり男性9000歩、女性8000歩」歩くことを目標に掲げています。ただし、その根拠はサイト上に示されていません。

92-h3.jpg 一方、世界保健機関(WHO)は2010年、「健康のための身体活動に関する国際勧告」を刊行。三つの年齢群(5~17歳、18~64歳、65歳以上)ごとに、科学的根拠に基づいて推奨身体活動量を提示しています(表3)。

 厚労省の目標値に比べると控えめです。しかし、その控えめな「1週間に150分の運動」ですら、「日本や中国、台湾など東アジア諸国では、5分の1以下の人にしか実践されていない」との指摘もあります。

 ただし、台湾のウェン博士らが、健康な成人約41万6千人を対象に13年間の疫学調査を行ったところ、年齢等の区別なく、少しの身体活動でも、しないよりは死亡率が低下していました。この結果からウェン博士らは「1日15分、1週間に90分」の運動を推奨しています(『ランセット』誌、2011年)。

 このように身体活動量の目安は、統一性なく、時として科学的根拠が不明確なまま示されてきているのです。

どこまで科学的か

 これらの目標値について、東京都健康長寿医療センター研究所・老化制御研究チームの青栁幸利副部長は、こう疑問を投げかけます。

 「信頼度の高い複数の調査研究から平均値を出して目標値とするのは、確かに一般的なやり方です。が、元になっている疫学調査も、通常は対象者への事後的アンケートを手段としています。自分で後から思い出すわけですから、内容はどうしても曖昧になりますよね」。また介入研究であっても、「あまり根拠なく『中強度で何分間を何カ月』と目標設定し、やってみてたまたま得られた結果から結論を導く、といった手法がほとんど」とのこと。

 そう言われてみれば、従来提唱されてきた身体活動量の目安は、国内外を問わず、どこまで根拠があるか分からないものかもしれません。

歩く速さが肝心

 そんな中、青栁副部長は世界で初めて、「1日当たりの歩数」と「中強度以上の身体活動の積算時間」、そして「疾病等の健康リスク」との関係を明らかにしました。群馬県中之条町の65歳以上の高齢者約500人を、10年以上にわたって追跡調査してきた「中之条研究」です。

 同研究では2000年以来、高齢者の日常の身体活動を24時間、加速度センサー付きの活動量計を使ってモニターしてきました。4秒ごとに体の動きが記録されるので、例えば夜中のトイレ回数から頻尿や睡眠障害も把握でき、そこからうつ症状等まで推定できると言います。

 1日当たりの歩数に注目したのは、「速く歩ける高齢者は、全身の体力も将来の自立度も高い」ことを、中之条研究に先立って確認していたからです。

92-h4.jpg 中之条研究でも、歩行と疾病の因果関係が、はっきりと観察されました。表4の通り、大きく4段階に分けて見ることができます。1日4000歩が心の健康の最低ラインであることも分かりました。そして日々の歩行が7000歩に満たない人は、現状より毎日2000歩多く速足を心がけることで、一段階上の健康レベルを維持できるようになるのです。

 「鍵を握るのは、中強度の歩行です」と青栁副部長。「中強度とは、自分の最大の体力(最大酸素摂取量、全身持久力)の50%ということです。アメリカスポーツ医学会のガイドラインでは3~5.9メッツの運動を『中強度』としていますが、一般にお年寄りなら3メッツ程度、若い人なら4~5メッツ程度でしょうか。歩き方としては、適度に広い歩幅で人と会話が出来る程度の速足、それで多少息が上がるくらい、と考えてください。鼻歌が歌えるくらい楽だと効果は期待できません」。ある旅館の女将さんは職業柄、毎日1万歩以上歩いていたのに、転倒して骨折してしまったそうです。ゆっくりだと、いくら歩いても効果は上がらないんですね。

意識だけで変わる

 さらに興味深いのは、歩く時の「意識」が大事ということです。

 「ただ漫然と歩くより『歩くぞ』と気合を入れてから歩き出すほうが、足腰に力が入り、自然と歩調も速まって、高い運動強度になるんです。ちょっと最初に意識するだけで全然違うんですよ」と青栁副部長。

 運動心理学の分野では、覚醒レベルが高い(緊張している)ほど運動の効率(パフォーマンス)も高くなり、ただしあまりにも緊張が強すぎる場合は逆にパフォーマンスが落ちていくという「ヤーキーズ・ドットソンの法則」が知られています。どの程度の緊張状態が最適のパフォーマンスにつながるかは、動作の難易度によって異なり、簡単ならば緊張度が高いほど良く、複雑になるに従ってリラックスの重要性が増していきます。歩行のような単純動作は、気合十分で行うと良いパフォーマンスを得られることになります。

 先ほど出てきた「あと2000歩」も、意識するだけで達成が近づく数字のようです。英国での実験で、被験者の女性たちに最初は何も知らせずに歩数計を持たせて1週間計測を行い、翌週は持っていることを自覚させた上で計測したところ、特に運動を課したわけではないのに平均約2000歩、値が増えたのです(クレメス氏ら、2008年)。

 自分の生活・身体活動を客観的に把握できると、自ずと意識も変わってくるんですね。まずは、とにかく歩数計を携帯することから始めてもよいのかもしれません。そして、どうせなら「よし、歩くぞ」と意識して速足で。これくらいなら、続けられそうに思いませんか?

いつ歩くのがベスト?  一日のうちどのタイミングで歩くのが、健康維持・向上に良いのでしょうか。  一つは血糖値の観点から、早朝や食前より、ピークになる食後1~2時間の方が良さそうです。正常値へ戻す助けになるからです。実際、生活習慣病、特に糖尿病の予防や治療でも、そのように指導されます。空腹時に運動すると低血糖を招き、人によっては危険でさえあります。  もう一つは睡眠の観点から、夕方遅い時間帯が良さそうです。スムーズな入眠と熟睡感を得るには、深部体温を一気に下げることが大切です。寝る前に深部体温がある程度上がっていると、そこから生体の恒常性(ホメオスタシス)によって急激な深部体温低下が起きます。夕方遅い時間帯の運動は、寝る前まで深部体温の高い状態を保つことにつながります。
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