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うつ病 田口むつみさん(30歳)

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

*このコーナーでは、日本慢性疾患セルフマネジメント協会が行っているワークショップ(WS)を受講した患者さんたちの体験談をご紹介しています。同協会の連絡先は、03-5449-2317
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 田口さんは、つい最近仕事を辞めました。会社は慰留してくれましたが、焦らずまずきちんと病気を治そうと、WSを経て思えるようになっていました。

 留学と専門学校で学んだ英語を生かして貿易関係の仕事をしたいと思っていた田口さんでしたが、就職氷河期に当たってしまったこともあって、希望の職種に就くまでに営業販売職1年、派遣社員3年、その間に資格専門学校に通って通関士の資格を取得、と苦労しました。
 念願かなって入社した海産物を買い付ける商社では、オーストラリアに出張に行かせてもらうこともあり、楽しくやり甲斐を持って働いていました。しかし、10カ月ほど経った時に直属の上司が突如辞職して部署が解体されるなど状況が一変。同時に祖父が他界しました。そのショックに耐えて仕事をし続けたことが影響したのか、気づけば、だるい、頭がくらくらする、朝起きられないという状態になり、辞めざるを得なくなりました。気持ちの問題と思っていましたが、ひょっとすると既にうつ病を発症しかけていたのかもしれません。
 チャーター船で貨物輸出を代行する会社に転職したら元気が戻ってきて、現地とのやりとりから荷主向けの営業まで何でもやりました。
 しかし1年ほど経ったころ、過呼吸が出ました。直後に前の商社の同僚からセルフマネジメントのワークショップ(WS)に誘われました。その日にできないことは次に回せばよいという問題解決法に目からウロコの落ちるような思いがしたり、苦手な人がいて当然、その人にどう対処するのかというコミュニケーション法に「これは仕事でも使える」と思ったりしました。
 ただ、そうこうしているうち08年11月ごろから、何をしても楽しくない、疲れやすい、人と話をしたくない、ちょっとした判断ができない、朝起きられないという状態になってきました。
 その時も自分が怠けているだけと必死に心に鞭を当てていましたが、翌09年の8月に過呼吸発作も重なって、ついに出社できなくなりました。ふと目にとまった刃物で「死ねたら楽になるかな」と考えている自分に気づき、ようやく近所の心療内科を受診したのでした。
 その日のうちに「うつ病」と診断され、休職しての投薬治療が始まりました。頭が朦朧としていて、病名が他人事のようでした。幸いに薬がよく効き、3カ月ほど経ったころ、ようやく自分は病気なんだと自覚しました。

話をしたら自分が見えた

 以前からファッションに興味があってよく雑誌を読んでいたのに、そのころは何か情報に接するだけで不安になってしまい、人と会うことはおろか、テレビを見ることすらできずに、ただ寝ていました。
 そんな中で9月から2回目のWSが始まりました。ダウンする前の7月に、やはり元同僚に誘われて申し込んでいたものでした。自分が病人だとは思っていませんでしたが、前回いろいろと発見があって、でも細かいことは忘れてしまっていたので、再チャレンジしようと思ったのでした。
 第一週目の会場へ行くのが本当に大変でした。しかし参加者たちに自分の症状を話した時、ふっと気が楽になるのを感じました。客観的に自分の置かれている状況が見えてきて、病気を受け入れられるようになったのでした。
 この時に教わって最も役に立ったのは気を紛らわせる方法だったと言います。眠れない起きられないという症状に神経が集中して追い詰められるところを、深刻にならずに済みました。同じ方法を使って過呼吸発作も起こさず済むようになりました。
 田口さんの病気を会社も理解して、治るまで休んでいてよいと言ってくれました。しかし、心苦しいのが半分、焦って再発しないようにきっちり治すことが大事だなと思えたのが半分で、今年1月に退職しました。冷静に考えを切り替えられ、うつ病の進行も抑えられたのは、間違いなくセルフマネジメントプログラムのお陰だったと振り返ります。
 そうこうするうち、段々とまた服装に関心が向くようになり、日々の生活の中にも楽しいと思えることが出てきました。
 11月から、調子の良い時はセルフマネジメントの事務局まで出かけて、ボランティアで手伝うようになりました。家にずっといても考えが同じところをグルグル回って不健康。かといって自分から積極的に何かをする気にもならないので、ちょうど良いリハビリになっているそうです。

ワンポイントアドバイス(近藤房恵・米サミュエルメリット大学准教授) 慢性の病気をもっていると、痛みややっかいな症状があったり、眠りにくかったりと、日常生活に支障を感じることがあります。こういう時に「短時間の気を紛らわせる方法」を活用することができます。この方法は、心が一度にふたつのことには集中できないという原理を利用して、やっかいな症状や事柄に向きそうな気持ちを意図的に別のことに集中させていく方法です。いくつかのやり方を学びそれを試してみます。さらに、長時間使える気を紛らわせる方法についても話し合います。ワークショップでは、講義を聴くだけではなく、お互いの体験を話し合ったり、学んだ方法を試したりして楽しく学んでいきます。
  • 患者と医療従事者の自律をサポートする医療と健康の院内情報誌 ロハス・メディカル
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