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母親の気分障害や不安障害は子どもへの影響が大きい

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 カナダでセカンダリー・スクールの生徒を追跡調査したところ、母親に気分障害や不安障害があると、子どもにも同じような障害が出やすく、特に母親対娘でリスクが高まることが分かりました。

The association between parental history of diagnosed mood/anxiety disorders and psychiatric symptoms and disorders in young adult offspring
Nancy CP Low, Erika Dugas, Evelyn Constantin, Igor Karp, Daniel Rodriguez and Jennifer O'Loughlin
BMC Psychiatry 2012, 12:188 doi:10.1186/1471-244X-12-188
Published: 5 November 2012

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 親に気分障害や不安障害の病歴があることは、子どもにおけるこれらの障害発現に対する最も強力で最も一貫した危険因子である。先行する研究では、母親と父親のどちらの障害がより強く子どもに影響するのかや非臨床的標本において関連が存在するのかどうかについては一致を見ていない。本研究においては、大規模集団ベースの標本を用い、母親や父親に気分障害(および/または)不安障害の病歴があることが、子どもにおいて気分障害(および/または)不安障害、あるいは特定の不安障害症状に対するリスクを高めるのかどうかを調査した。

●方法

(1)対象者
 データは、カナダのモントリオールにある10のセカンダリー・スクール7年生全クラスから1999~2000年に募集された恣意的標本1,293人による前向きコホート研究である、「10代におけるニコチン依存症研究」(NDIT)から引き出された。セカンダリー・スクールの7~11年生の間、3カ月に1回教室で自己申告式アンケートが実施され、5年間で20調査が行われた。2007~2008年、対象者が平均年齢20.4歳の時点で、21周期目調査として実施された自己申告式郵送アンケーから880人の対象者データが収集された。加えて、2009~2010年に、母親への自己報告式郵送アンケート(597人)、父親への自己報告式郵送アンケート(478人)、NDIT対象者についてのデータ収集のためどちらかの親によって記入がされた自己報告式郵送アンケート(647人)において、親からのデータが収集された。

 本研究は、21周期目調査を完了し、親が親対象自己申告式アンケートに回答したNDIT対象者(以下、子どもという)に関する分析とする。一つは子どもと母親の自己申告データ(以下、母親データベースという)、もう一つは子どもと父親の自己申告データ(以下、父親データベースという)の二つのデータセットを用意した。母親データベースはデータ不備のない564人、父親データベースはデータ不備のない454人で構成された。

(2)研究における変数
 以下の要素を考慮に入れた。

1 子どもに関する社会人口統計学的データとして、年齢・性別・家で最もよく話す言語(フランス語・その他)・母親の教育水準(大学通学した・しなかった)・世帯年収(30,000ドル未満・30,000~99,999ドル・100,000ドル以上)・カナダ生まれか(はい・いいえ)

2 親対象アンケートにおける、母親や父親の精神障害診断の有無データ。以下の質問がされた。
これまでに医療従事者から以下のいずれかの診断を受けたことがありますか?
①不安障害(恐怖症・強迫性障害・パニック発作・全般性不安障害)
②うつ病
③双極性障害
④分娩後うつ病(母親のみ)
医療従事者による診断を受けたことがあると書いた親からは診断時年齢データを収集。多変量解析においては、不安障害、うつ病、双極性障害、分娩後うつ病を「不安障害または気分障害」という単変数としてまとめた。

3 21周期目調査アンケートにおける、子どもの精神障害診断の有無データ。以下の質問がされた。
これまでに医療従事者が以下のいずれかの診断を下したことがありますか?
①気分障害(うつ病・双極性障害)
②不安障害(恐怖症・社会的状況に対する恐れ・強迫性障害・パニック障害・全般的不安障害)
医療従事者による診断を受けたことがあると書いた子どもからは診断時年齢データを収集。

4 子どもの生涯でのパニック障害・全般的不安障害・社交恐怖の不安症状について、21周期調査において総合国際診断面接スクリーニング質問を用いて評価した。内容は以下のとおりである。
パニック障害の症状 今までに以下のいずれかになったことがありますか?
①不意にとてもおびえたり、心配になったり、不安になったりした時に恐怖やパニックの発作が起きる
②不意にめまいがしたり、とても不快になったり、息切れがしたり、むかついたり、心が叩きつけられるような感じがしたか、あるいは、理性を失うかもしれない、死んでしまうかもしれない、気が狂うかもしれないと考えた時発作が起きる
全般的不安障害の症状 今までに以下のいずれかになったことがありますか?
①心配性になった時(同じ問題に対して他人よりも物事に関してずっと心配になった時)
②ほとんどの日々不安だったり心配だったりする時が6カ月以上継続した時期
③同じ問題に対して他人よりもずっと神経質になったり不安になったりした時
社交恐怖の症状 今までに以下のいずれかになったことがありますか?
①新たに人に会うこと、パーティーに行くこと、デートに出かけることがとても怖かったり本当に気が引けると感じたりした時
②スピーチをしたり、クラスで話をしたりなど、集団の前で何かしなければならなかった時にとても怖かったり不快だと感じたりした時
子どもたちがこれまでに症状があったと書いた場合は症状の開始時年齢データを収集。
不安サブタイプの症状一つ以上に対して「ある」と回答した子供たちは、そのサブタイプに対してスクリーニング陽性と分類された。

(3)データ分析
 母親の病歴または父親の病歴と、子どもの不安障害診断・子どもの気分障害診断・子どものパニック障害症状・子どもの全般的不安障害症状・子どもの社交恐怖症状の五つの二値結果変数(ある・ない)との独立した関連を、母親の教育水準と子どもの性別で調整した多変量ロジスティック回帰モデルでそれぞれ分析した。
 二次分析として、親のうつ病歴・双極性障害歴・不安障害歴をそれぞれ別の曝露として研究した。父親の病歴モデルでは、子どもと一緒に住んでいる期間と父親の病歴の相互作用も分析した。

●結果

 母親と父親の平均年齢は、親対象自己申告式アンケートに記入した時点でそれぞれ52歳(標準偏差7)と54歳(標準偏差7)だった。双極性障害では同じ割合であったが、父親と比較して、母親の方が気分障害と不安障害の両方において診断を受けた割合が高かった。23%の母親が気分障害または不安障害の診断を受けていたのに対して、父親の方は12%だった。また、5%の母親が両方の障害診断を受けていたのに対して、父親に関しては2%であった。

 同様に、子どもに関しても、女性が気分障害または不安障害の診断をうけていた割合で12%となり、統計的に有意な高さが見られたのに対し、男性の方では6%だった。男性・女性ともに子どもでもっとも頻繁に現れた不安サブタイプは、社交恐怖の症状だった。性別差による統計的有意性の認められなかった社交恐怖の症状を除くと、それぞれの不安サブタイプに対して子どもでも女性の方が男性よりも高い割合で申告があった。

 母親が気分障害(および/または)不安障害の診断を受けていたことは、子どもの気分障害でオッズ比が2.2(信頼区間95% 1.1~4.5)、不安障害で4.0(信頼区間95% 2.1~7.8)多く診断を受けていた。母親の病歴は、子どもにおける社交恐怖傾向についてもオッズ比2.2(信頼区間95% 1.2~4.0)と統計的に有意な関連が見られた。

 父親の病歴は、子どもの精神衛生に関する結果とはいずれにおいても統計的に有意な関連は見られなかった。父親と一緒に生活している期間(平均20年、標準偏差4)と父親の気分障害(および/または)不安障害との間に統計的に有意な関連は存在しなかった。

●考察

 本研究結果は、気分障害および不安障害の家族的クラスタリングに関して進行中の研究の重要性を強調するものである。遺伝子伝達・育児行動・抑うつ的子育て環境を含む母親の病歴と子どもの障害の関連における概念的に信用に足る仕組みの調査にもかかわらず、最近の評論ではこのような仕組みは関連の変化をほとんど説明していないとしている。このことは、親の病歴・育児行動・家族環境を同時に調査する研究へとつながってきている。さらに最近の研究では、母親の病歴と子どもの障害の関連における食い違いをよりよく説明するかもしれない他の因子について、意識の高い育児・子どもとともに問題解決課題に対する間の前向きな母親の行動・回避型葛藤解消アプローチの利用・子どもの前向きな対処能力・批判的感情表出によって特徴づけられる家族環境を含め、議論している。

 本研究では、父親ではなく、母親の気分障害(および/または)不安障害が子どもの気分障害や不安障害と関連していた。成人のうつ病は慢性的で再発する病気であるので、子どもに対する潜在的影響に警戒し続けることが必要となる。臨床的には、うつ病の成人を治療する際に子どもの症状スクリーニングが重要となり、同様に子どもを治療する際には母親の障害スクリーニングが重要となる。子どもと親両方の障害を効果的に治療することが、両者が治療される際に起こる最適な結果により示されてきている。さらなる研究が、正確なタイミングと子どもに最も大きな否定的影響を与える母親の障害の特質を確かめることに焦点を当てるべきである。高リスクの子どもたちにおける抑うつ障害や不安障害の自然経過のさらなる詳細描写が、いつ・どの症状が最初に現れるのかを決めるのに役立つかもしれず、個人と家族の両方により時を得た介入へと導くことになるかもしれないのである。

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