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大腸検診、男性は女性より10歳若く40代から
オーストリアで大腸内視鏡検査被験者4万人以上のデータをまとめたところ、男性は女性より10年早くリスクが高くなり、40代になったら検査を受け始めた方がよさそうということが分かりました。
Sex-Specific Prevalence of Adenomas, Advanced Adenomas, and Colorectal Cancer in Individuals Undergoing Screening Colonoscopy
Monika Ferlitsch, MD, Karoline Reinhart, MD, Sibylle Pramhas, MD, Caspar Wiener, MD, Orsolya Gal, MD, Christina Bannert, MD, Michaela Hassler, Karin Kozbial, Daniela Dunkler, PhD, Michael Trauner, MD, Werner Weiss, MD
JAMA. 2011;306(12):1352-1358. doi:10.1001/jama.2011.1362.
川口利の論文抄訳
発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。
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●背景
大腸内視鏡検査の目的は、線腫と進行性線腫を見つけ、取り除くことである。60歳代で大腸がんの罹患率が高まることから、米国をはじめ多くの国と同様にオーストリアで大腸内視鏡検査が勧められるのは男女とも50歳からとなっている。進行性線腫から大腸がんへの遷移率は男女ともに同じであるが、進行性線腫と大腸がんの罹患率は女性より男性が高くなっており(進行性線腫は男性8%対女性4.3%、大腸がんは男性1.4%対女性0.6%)、40歳代の男性に多数の線腫が存在している結果とも言える。ある一定の期間に有害事象の発生を防ぐためにスクリーニングする必要がある人数(number needed to screen:NNS)が40代男性と50代女性の進行性線腫において同じことから、大腸内視鏡検査を始めるべき年齢は性別で異なると言う研究者もいる。また、55歳以上を対象としたある研究においては、大腸がんの発症と大腸がんによる死亡は、男性で起こる4~8年後に女性で起こるとしている。しかしながら、スクリーニングの勧めを男女で変えるということは実際にはされておらず、最適年齢については十分に探られてはいないのである。
2007年に、Quality Management for Colon Cancer Preventionと銘打つ国家プロジェクトが始まり、オーストリアにおける大腸内視鏡検査の質と記録に関する標準を定め、管理することとなった。本研究の目的は、線腫・進行性線腫・大腸がんの発見率を高め、大腸がんによる死亡率を低下させるため、男女それぞれにおいて、どの年齢で大腸内視鏡検査を開始するのが最も適当であるかを調査することである。
●方法
(1)検査医
オーストリアにおいては、2005年に大腸内視鏡検査が確立したことから、国内で異なった質標準や賠償策が採用され、標準的ガイドラインが欠如しており、2007年に三つの団体が共同でCertificate of Quality for Screening Colonoscopyという大規模国家プロジェクトを立ち上げた。経験豊かな内視鏡医が、ガイドラインにより定められた検査前・検査中・検査後に関する様々な質標準に準拠していれば応募可能で、認定後は毎年、監督下で200回以上の大腸内視鏡検査と50回以上のポリープ切除術を、個人で100回の大腸内視鏡検査と10回のポリープ切除術を実施しなくてはならない。
(2)研究手順
225の内視鏡部門から応募があり、本研究に参加した。50~79歳のオーストリア人口の1.68%にあたる44,350人に対して2007年11月から2010年12月の間に実施された大腸内視鏡検査のデータが使われた。被験者は50~100歳であれば適格とされたが、家族に既往歴があるとか大腸がんへの恐れを持っているとかにより検査を受けた30~49歳の若い人たちのデータも入手した。大腸内視鏡検査結果および病理組織学的分析を含めてすべてのデータが記録され、被験者の医療記録とともに研究データベースに転送された。
線腫は、以下のような場合には進行性と判断した。高度異形成・絨毛状・管状絨毛性といった病理組織学的特徴がある、それの組み合わさったもの、管状線腫の場合は直径が10mm以上のもの。
●結果
(1)対象者
44,350人の被験者中、女性が51.0%にあたる22,598人、男性が49.0%にあたる21,752人となった。四分位範囲(*1)での中間値年齢は、女性が60.7歳で男性は60.6歳であった。
(2)鎮静剤、盲腸挿管、事故症状
ミダゾラム、プロポフォール、両方の組み合わせが、86.8%にあたる38,474件で大腸内視鏡検査中の鎮静剤として使われた。盲腸到達率は95.6%にあたる42,414人の被験者となった。臨床的に関連する事故は111人の被験者で起こり、スネアによるポリープ摘出中の穿孔が3件含まれている。大腸内視鏡検査および関連事故による死者は報告されていない。事故割合は、女性0.11%48人に対して男性0.15%63人、心肺関連は鎮静剤使用割合が女性の方が高かったことから、男性の2倍の件数生じた。出血は男性の方に多かった。心肺関連の症状は、50~60歳代では0.05%であったが、70~80歳代では0.25%と、年齢とともに増加した。
(3)検査結果
ポリープが見つかったのは34.4%にあたる15,267人、結腸がんが0.4%で162人、直腸がんが0.2%で92人、他の問題が3.6%で1,600人、異状の見つからなかった人は61.4%で27,212人となった。肉眼で確認できたものは、それぞれ男性の方が割合が高かった。大腸内視鏡でポリープが確認された箇所は、近位結腸のみ20.5%で3,163件、S状結腸または直腸55%で8,510件、遠位結腸と近位結腸24.5%3,792件であった。ポリープ切除術は12,215人に対して行われた。
(4)病理組織学的分析
被験者の16.3%にあたる7,231人が過形成性ポリープ、19.7%8,743人が線腫、0.5%217人が高度上皮内悪性新生物、1.1%491人が癌腫、2%889人はそれ以外の異状であった。男女で比較すると以下のようになる。
1 過形成性ポリープ 男性18.3%3,990人、女性14.3%3,241人
2 線腫 男性24.9%5,407人、女性14.8%3,336人
3 高度上皮内悪性新生物 男性0.7%147人、女性0.3%70人
4 癌腫 男性1.5%326人、女性0.7%165人
線腫のうち進行性線腫と分類されたのは2,781件で、管状絨毛性線腫1,960件、管状で1cmより大きいものが546件、高度異形成が217件、58件が絨毛状であった。
(5)線腫有病率とNNS
男性の線腫有病率は24.9%、女性は14.8%であった。男女で比較すると、補正なしでのオッズ比は1.9(信頼区間 95% 1.8~2.0 P=0.001)なった。50~54歳の男性有病率は18.5%で、同世代の女性での有病率10.7%よりも大きく、65~69歳女性における有病率17.9%とほぼ同じであった。すべての被験者から線腫を見つけるためのNNSは5.1、男性では4.0、女性では6.7であった。50~54歳女性では、NNSは同世代の男性の2倍近くになっており、女性9.3に対して男性5.4であった。45~49歳男性のNNS5.9は、女性60~64歳の6.0とほぼ同じになった。
(6)進行性線腫有病率とNNS
進行性線腫有病率は、男性が女性のほぼ2倍となっており、男性8.0%に対して女性4.7%となった。男性は女性と比較して有意に高い進行性線腫発見リスクがあり、補正なしでのオッズ比は1.8(信頼区間 95% 1.6~1.9 P<0.001)となった。50~54歳男性での進行性線腫有病率は同世代女性とは異なっており、男性5.0%に対して女性は2.9%となり、匹敵する有病率は女性においては10年後の60~64歳で5.1%となった。45~49歳男性の有病率は55~59歳女性の有病率とほぼ同じで、3.8%に対して3.9%であった。進行性線腫を見つけるためのNNSは全体では15.9で、女性は21.5、男性は12.6であった。50~54歳では、女性34.0に対して男性20.0で、45~49歳男性のNNS26.1は55~59歳女性の26.0とほぼ同じであった。
(7)大腸がん有病率とNNS
男性は女性よりも2倍高い大腸がんリスクを抱えており、補正なしでのオッズ比は2.1(信頼区間 95% 1.7~2.5 P<0.001)となった。大腸がん有病率も男性が女性よりも2倍高く、男性1.5%に対して女性0.7%であった。55~59歳男性の有病率1.3%は、65~69歳女性の1.2%とほぼ同じで、女性が65~69歳で大腸がん有病率が高くなるのに対して、男性では10年若い55~59歳で有病率が高くなった。大腸がんを見つけるためのNNSは全体で90.9、男性で66.7であるのに対して女性では137.0となった。55~59歳男性の75.0は、女性での10年後65~69歳の81.8とほぼ同じであった。
●考察
本研究において、年齢と性別に特化して、線腫・進行性線腫・大腸がん有病率を調べたところ、すべての年齢層において、女性より男性の方に有意に高い割合で病変の現れることが分かり、男性という性別が大腸がんの独立危険因子を構成しており、大腸内視鏡検査が推奨される性別による年齢を新たに考える必要があるということになった。
最初に異状が現れてから悪性病変になるのには約10年の年月がかかる。50~59歳で大腸がん診断数が増えるのは、40歳代に存在した線腫からの遷移影響かもしれない。ほとんどの国家的ガイドラインは、男女ともに60歳代に大腸がんリスクが高まることから、大腸がんのスクリーニングプログラムを標準リスクとなる50歳までに始めることを推奨しているが、過去数十年の間に大腸がんの疫学における性別差が増してきていることが分かっており、このような仮定は両方の性別に有効とは思えないのである。大腸がん発症率と死亡率は女性よりも男性が高く、リスクレベルが同じになるのには年齢にして4~8年の差があるというかなりのエビデンスが存在している。男性においては、50歳よりも前から大腸内視鏡検査を始めることが重要となるかもしれない。