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兄弟姉妹が心血管疾患を起こしたら、自分も要注意
中年の成人では、兄弟姉妹に心臓血管疾患の既往がある場合、本人の心臓血管疾患リスクも高くなることが分かりました。親に若年期の既往がある場合よりも、危険度は高いそうです。
Sibling Cardiovascular Disease as a Risk Factor for Cardiovascular Disease in Middle-aged Adults
Joanne M. Murabito, MD, ScM, Michael J. Pencina, PhD, Byung-Ho Nam, PhD, Ralph B. D'Agostino, PhD, Thomas J. Wang, MD, Donald Lloyd-Jones, MD, ScM, Peter W. F. Wilson, MD, Christopher J. O'Donnell, MD, MPH
JAMA. 2005;294(24):3117-3123. doi:10.1001/jama.294.24.3117.
川口利の論文抄訳
発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。
●背景
両親や兄弟姉妹に心臓血管疾患(CVD)の既往がある場合、当人のCVDリスクも上がると推定されている。本研究では、中年成人のコホートにおいて、兄弟姉妹のCVD発現が、独立して前向きに対象者のCVD発現を予測するのか確定しようとした。さらに、親のCVDと兄弟姉妹のCVDの影響を検証しようとした。
●方法
(1)対象者および定義
1971年に5歳から70歳まで5,124人の男女が、前向き疫学的コホート研究であるFramingham Offspring Study(*1)に登録した。このコホートには、一つ前のコホートFramingham Studyにいた家族の構成員が3,498人含まれていた。研究開始から約4年に1度追跡調査検査を受けた。
8年間の追跡期間を伴う4回の検査データが蓄積された。1971~1975年に検査1、1979~1982年に検査2、1987~1990年に検査4、1995~1998年9月2日に検査6が行われ、最終検査コホートの追跡調査は2004年に終了した。最初と2回目の検査間隔が8年あったので、4回の検査後の追跡調査期間の長さを同等にするため、8年間でのCVD発現を検証することとした。
CVDには、狭心症・冠状動脈不全・心筋梗塞・脳卒中または一過性脳虚血発作・間欠性跛行(*2)・冠動脈性心疾患死・CVD死を含むものとした。すべてのCVDは、事前に知らされている基準に則して3名の調査委員団によって判定された。
Framingham Studyの家族構成員で30歳以上の対象者は、誰か1人兄弟姉妹がFramingham Offspring Studyに登録していること、検査時にCVDを発症していないことを条件に、4検査どれにおいても適格とされた。また、兄弟姉妹にCVD既往者のいない家族から無作為に1人の兄弟姉妹を除外して、兄弟姉妹にCVD既往者のいる家族と比較可能な構成とした。最終的な研究標本は、2,475人(うち男性が1,188人)となり、兄弟姉妹にCVD既往者のいる家族からの対象者で973検査、CVD既往者のいない家族からの対象者で4,506検査を実施した。
サブグループとして、両親が最初のFraminghamコホートに登録していた場合には、親の早発CVDについてもデータ収集した。親の早発CVDの定義は、いずれかの検査以前に父親の場合は55歳以前、母親の場合は65歳以前に発現したものとした。
危険因子は各回の検査で測定された。
1 BMI値
2 高血圧(収縮期血圧140以上で拡張期血圧90以上、降圧薬の使用)
3 現在喫煙(検査前1年間に1日あたり1本以上のタバコを吸った場合)
4 空腹時採血による総コレステロール値対HDLコレステロール値の比率
5 糖尿病(空腹時血糖値が126mg/dL以上、インスリンや経口血糖降下薬の使用)
(2)統計分析
補正なし分析、年齢と性別による補正分析、他の要素も含めた補正分析を実施した。年齢や血圧に兄弟姉妹のCVD既往との有意な相互作用があるとされたので、48歳以下と48歳超、高血圧あり・なしの層別分析を実施した。また、親の早発CVDとの関連を分析したほか、第一度近親者(親と兄弟姉妹)のCVDとの関連を親の早発CVDのみ、兄弟姉妹のCVD既往のみ、両方を合わせた場合で検証した。
●結果
ほとんどの兄弟姉妹のCVDは早期に発生していた。4回の検査での平均年齢は、48.2、48.7、50.7、53.6歳となった。兄弟姉妹にCVD既往がない群と比較すると、CVDがある群では対象者の年齢がより高く(CVD既往のない群平均年齢47歳対ある群平均年齢57歳)、喫煙を除くすべての危険因子をより多く抱えていた。
追跡期間中に329件のCVDが発生し、兄弟姉妹にCVD既往のない群で223件/34,110人年、ある群で106件/6943人年であったが、ない群が6.54件/1,000人年であるのに対して、ある群では15.27件/1,000人年となった。
兄弟姉妹にCVD既往のあることは、8年間で対象者がCVDになるリスク増加と有意に関連し、年齢と性別補正のオッズ比は1.55(信頼区間95% 1.19~2.03)だった。危険因子で補正後のオッズ比も1.45(信頼区間95% 1.10~1.91)と、その傾向は変わらなかった。兄弟姉妹にCVD既往があることの寄与危険度は27.4%だった。
次に、48歳以下・48歳超、高血圧あり・なしの層別モデル検証を行った。兄弟姉妹にCVD既往があることの影響は若い方のグループおよび高血圧のないグループで強かったが、統計的に有意ということではなかった。兄弟姉妹のCVD発生年齢を考慮に入れると、兄弟姉妹の早発CVDのみが有意となり、早発CVDのオッズ比が1.58(信頼区間95% 1.18~2.12)であるのに対して、早発ではないCVDのオッズ比は1.04(信頼区間95% 0.61~1.77)となったのだが、兄弟姉妹がCVD既往者である群での973検査中、早発ではない家族からの検査数は180であった。
両親とも研究コホートにいた対象者に絞って親のCVDの影響も調べた。すべての危険因子と親の早発CVDでの補正を加えても、兄弟姉妹にCVDがあることが付随するCVD予測因子となる有意性は高く、オッズ比1.56(信頼区間95% 1.11~2.18)であった。兄弟姉妹にCVD既往があることの方が親の早発CVDよりリスクが高くなり、親の早発CVDのみのオッズ比が1.45(信頼区間 95% 1.02~2.05)であったのに対して、兄弟姉妹にCVD既往があることのみのオッズ比は1.99(信頼区間 95% 1.32~3.00)、両方合わせてのオッズ比は1.53(信頼区間 95% 0.93~2.51)となった。対象者の年齢で見ると、30歳以上59歳未満の対象者は兄弟姉妹にCVD既往があると有意に高いCVD発現率となったが、60歳以上の場合は兄弟姉妹にCVD既往がない群との有意差はなかった。
●考察
ここまでの研究結果から、兄弟姉妹にCVD既往があることは、本人がCVDを発症しやすいことの有効な指標となることが言える。過去に、双子のうちの片方が若くして冠動脈性心疾患死となった場合、残った方の死亡リスクも高くなるという研究があったが、本研究は双子ではない兄弟姉妹を検証し、兄弟姉妹のCVDが早発であり、リスクにさらされている者が年齢的に若いとCVD発症のリスクも高いということを確証し、過去の重要な研究に成果を上乗せしたことになる。
本研究で考慮した危険因子の他に遺伝的危険因子の存在もCVDにかかりやすいことへの影響を及ぼしているかもしれない。子宮内や幼児期における環境、遺伝的背景を共有していることとの関連があるのかもしれない。