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睡眠のリテラシー5
※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。
高橋正也 独立行政法人労働安全衛生研究所作業条件適応研究グループ上席研究員
病気やけがはいつ起こるか、だれにもわかりません。だからこそ、医師や看護師など病院のスタッフは患者さんが何時に来ても、同じように高いレベルで診療や手術が行えるよう、万全の準備をしています。とてもありがたいことです。
しかし、彼らも生身の人間で、労働者でもあります。一生懸命働けば、疲れて、眠くなるのは当然です。その後、睡眠と休養を充分にとり、疲労が完全に回復してから、また病院に来られるとよいですが、現実にはそうならない時が少なくありません。
若手の医師は医療現場では貴重な労働力です。そして、昼も夜もずっと患者さんを診ることが一人前の医師になるための"教育"とも言われています。実際、ある日の朝に出勤してから、病院を出られるのは翌日の昼過ぎになることもしばあります。最近は、医師不足のため、中堅の医師ですら、このような長時間勤務を行わざるを得ない状況も増えています。
これまでの回でお伝えしたとおり、しっかり働くには充分な睡眠が必要です。朝起きてから16時間ほど経つと、体内時計からは、「眠りなさい」という指令が出されます。にもかかわらず、働き続けなければならないわけですから、相当の負担になります。
その結末は望ましいものではありません。疲労や睡魔と戦いながら診療を行った結果、ミスを犯してしまった例はいくつも起きています。また、とても優秀で、患者さんからの信頼も厚かった医師が働きすぎで燃え尽きてしまい、最後には病院の屋上から飛び降りてしまった悲しい例もあります。あるいは、当直がきついために、覚醒剤に手を出してしまった医師もいなくはありません。
これらの事例について、個人を責めるだけではらちが明きません。医師であれば、医療過誤を起こしたい人はいないでしょうし、薬剤を違法に使いたい人もいないはずです。であっても、わが国だけではなく、諸外国でも同じような事例が生じています。では、対応の秘訣はあるでしょうか。
まずは管理者を含めて、病院の関係者がスリープ・リテラシーを高める必要があるでしょう。提供する医療サービスの質を保つのは医師だけでなく、病院にも責任があります。気合いと根性では、眠気や疲労に勝つことはできません。
あまりに長く働くのは健康に有害であると、既に認められています。働き過ぎの判定基準も当局から示されています(例、残業や休日の労働時間が2~6カ月平均して1カ月当たり80 時間を超える)。医療現場という特殊性を考慮しなければなりませんが、こうした基準を無視したままでは、医療者にとっても、患者さんにとってもマイナスになります。
よい睡眠、健康な心身があって、はじめてよい医療が行えることを今一度、確認すべきでしょう。
たかはし・まさや●1990年東京学芸大学教育学部卒業。以来、仕事のスケジュールと睡眠問題に関する研究に従事。2001年、米国ハーバード大学医学部留学。