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睡眠呼吸障害は認知症の要因
老齢女性においては、睡眠呼吸障害のある女性とない女性と比較すると、睡眠呼吸障害のある女性において認知障害発現リスクが高まったそうです。
川口利の論文抄訳
発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。
●背景
睡眠呼吸障害は、繰り返し覚醒することと断続的な低酸素血症が特徴であり、老齢人口の60%に影響を及ぼしている。高血圧、心臓血管疾患、糖尿病など、多くの病気が睡眠呼吸障害と関連している。認知障害も関連あるとされてきているが、研究の多くは横断的なもので、非具象的な尺度に依存していることから、関連の方向性を結論づけるには至っていない。一般老齢者において、睡眠呼吸障害が認知障害に先んずるのかどうかは不明確なままとなっている。睡眠呼吸障害・認知障害双方が老齢人口での有病率・罹患率の高さと関連しているとすると、睡眠呼吸障害と認知力の間に前向きな関連が存在するのか否かを確証することは重要となる。睡眠呼吸障害には有効な治療法が存在することから、特に重要と言える。さらには、関連性のメカニズムを調査することは、治療と予防の戦略を改善したり開発したりするうえでの糸口となり得るのである。睡眠の分断と低酸素という睡眠呼吸障害の特徴は、どちらも認知力に対して悪影響を与えるかもしれないが、どちらも大規模な縦断的研究において入念に調査されてきてはいない。我々は、睡眠呼吸障害が認知障害に先んずるというエビデンスを求めるために、そしてその関連を説明づけ得るメカニズムとして低酸素・睡眠分断・睡眠時間の評価を行うために、ポリソムノグラフィーを用いて客観的に睡眠呼吸障害を計測し、その後行った軽度認知障害や認知症の診断との関連を検証した。
●方法
(1)研究対象数
アメリカ合衆国4地域に居住する65歳以上で介助なしに歩くことのできる一般老齢女性を対象とした、Study of Osteoporotic Fractures(骨粗しょう症性骨折研究)というコホート研究登録者のうち、2002年1月から2004年4月の間に実施された8度目のクリニック訪問において、2カ所の臨床センターで2,732人を対象に補助的な研究であるStudy of Osteoporotic Fractures' Sleep and Cognition Study(骨粗しょう症性骨折研究、睡眠と認知力の研究)が開始された。この8度目のクリニック訪問を「睡眠と認知力研究」のベースラインとした。適格とされた女性461人が単独終夜ポリソムノグラフィー(睡眠ポリグラフ)検査を自宅で実施した。このうちの305人が2006年11月から2008年9月の間に9度目のクリニック訪問を実施し(フォローアップ中央値4.7年 範囲3.2年から6.2年)、一連の神経心理学的検査を受け、2008年9月から2009年8月の間で認知状態確定を受けた。305人中、4人は認知力に関するデータ不備のため、3人は認知障害と判定され除外された。睡眠ポリグラフと認知力評価とが揃った分析集団は、298人の女性となった。
(2)睡眠ポリグラフ
データは対象者の自宅で収集した。2部位の脳波図、両眼の電気眼球図、顎の筋電図、胸部腹部呼吸運動、気流(鼻と口の熱電対および鼻圧記録)、指のパルスオキシメーター、心電図、体位置、両側圧電センサーによる脚の動きが計測・記録された。睡眠ステージは標準とされる30秒間隔で評価した。10秒以上継続し、3%以上の酸素飽和度低下を伴った場合、無呼吸(完全なる気流停止)/低呼吸(30%超の気流減)と定義された。睡眠からの覚醒は3秒以上脳波周波数での急偏移が認められる場合とし、レム睡眠中の覚醒は顎の筋電図活動が増えた場合とした。
睡眠呼吸障害は無呼吸/低呼吸指数(睡眠時1時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数)によって測定され、15以上の場合を睡眠呼吸障害と記録した。
低酸素症の指標として用いられた変数は、酸素飽和度低下指数(睡眠時1時間あたり3%以上の酸素飽和度低下回数と定義し、1時間あたり15回以上または15回未満と記録)、酸素飽和状態での睡眠時間割合(酸素飽和度90%未満を睡眠時間の1%以上または1%未満と記録)、無呼吸/低呼吸の睡眠時間割合(3%超の酸素飽和度低下を三分位に記録)。
睡眠分断の変数としては、覚醒指数(睡眠時1時間あたりの覚醒回数)と睡眠開始後の目覚め状態時間数(両方とも三分位に記録)。
睡眠時間は、全体の睡眠時間数を測定し、三分位に記録。
(3)認知力評価
認知力全般の検査と遂行機能の検査は、8度目のベースラインクリニック訪問を含めて、すべての訪問時に実施された。およそ5年後のフォローアップ訪問では、「睡眠と認知力補助研究」に参加した女性に対して、5種類の検査からなる神経心理学的総合検査を実施した。いくつかの基準によって振り分け、認知障害傾向のある・なしを判定した。あるとされた人たちは、専門委員団によって臨床上の認知状態を判定された。ないとされた人たちは、認知力正常とみなされた。
(4)他の基準
調査対象者は、研究のためにクリニックを訪問するたびに、病歴に関するアンケートへ記入し、簡単な健康診断を受けた。年齢、人種、身長・体重、教育水準、喫煙の状態、糖尿病・高血圧・脳卒中の医師による診断の有無を混乱可能要素として考慮した。Geriatric Depression Scale(老年期うつ尺度)で6以上の数値が出た場合は、かなりのうつ症状とした。薬の服用については、抗うつ薬・ベンゾジアゼピン系薬・非ベンゾジアゼビン系抗不安剤を対象とした。
(5)統計分析
多変量ロジスティック回帰を用いて、睡眠呼吸障害と軽度認知障害や認知症の危険性との独立した関連を確定した。年齢・人種・BMI・教育水準・喫煙状況・糖尿病の有無・高血圧の有無・抗うつ薬やベンゾジアゼピン系薬または非ベンゾジアゼビン系抗不安剤の服用およびベースライン認知力得点との調整を加えた。た。さらに、低酸素症、呼吸障害、睡眠分断、睡眠時間を認知障害の予測指標とみなしてそれぞれ検証し、睡眠呼吸障害と認知障害の関係における基礎メカニズムを探った。
●結果
研究対象となった298人の平均年齢は82.3歳で、90.3%にあたる269人が白人であった。298人中の35.2%にあたる105人が、無呼吸/低呼吸指数が1時間あたり15回以上の睡眠呼吸障害分類に入った。
平均4.7年のフォローアップ期間後、35.9%にあたる107人が軽度認知障害または認知症を発現した。軽度認知障害が対象者298人中の20.1%にあたる60人で、認知症が15.8%にあたる47人であった。これらの女性は、ベースライン時認知力検査の得点がより低くかったが、他の特徴においては認知障害や認知症を発現しなかった人との差異は見られなかった。
睡眠呼吸障害のない193人の女性と睡眠呼吸障害のある105人を比較したところ、睡眠呼吸障害のある方がより軽度認知障害や認知症を発現しやすかった(ない31.1%60人に対してある44.8%47人、調整オッズ比*1は1.85、信頼区間95%、1.11~3.08)。
睡眠呼吸障害があることは、その後軽度認知障害または認知症になる可能性が増すことと関連があった(オッズ比1.80 信頼区間95% 1.10~2.93)。
年齢・人種・BMI指数・教育水準・喫煙・糖尿病の有無・高血圧の有無・抗うつ薬服用・ベンゾジアゼピン系薬服用・非ベンゾジアゼビン系抗不安剤服用での調整を加えても、結果は同様のものとなった(オッズ比1.85 信頼区間95% 1.11~3.08)。
ベースライン時認知力検査の得点による調整を加えると、関連性はより高まった(オッズ比2.36 信頼区間95% 1.34~4.13)。
さらに、低酸素症、呼吸障害、睡眠時間と軽度認知障害や認知症とのリスク関係を調査した。酸素飽和度低下指数が15以上、睡眠時間全体の7%を超える高いパーセントで無呼吸/低呼吸がある、という二つの低酸素症の尺度は、軽度認知障害や認知症のより高い発現と関連があった(酸素飽和度低下指数での調整オッズ比は1.71、信頼区間95%、1.04~2.83、睡眠時無呼吸/低呼吸での調整オッズ比は2.04、信頼区間95%、1.10~3.78)。
睡眠分断や睡眠時間の尺度である覚醒指数・睡眠開始後の目覚め状態時間数・睡眠時間の長さについては認知障害の危険性とは関連がなかった。