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睡眠のリテラシー13

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

高橋正也 独立行政法人労働安全衛生研究所作業条件適応研究グループ上席研究員

 今年の3月11日は決して忘れられない日になりました。地震や津波などの被害にあわれた方々は本当に大変でしたでしょうし、今も、これからも様々な困難に立ち向かわざるを得ない状況ではないでしょうか。

 地震の直後、1週間後、1カ月後、半年後と時間の経過に伴って、現地そして各地の状況は変わっています。震災の後、現地には一度しか訪れていないため、ほとんどの情報は報道からしか手に入りません。少しでも明るい情報を聞くと、心が楽になります。しかし、現実には多くの難題があって、それを整理し、解決していくには相当の労力が必要と思われます。

 震災からの地域の再生と創造には道路や交通機関などのインフラを整えなければなりません。一方、再生と創造の主人公となる現地の人々には健康な心身が不可欠です。健康という点から見れば、最も重要なインフラは睡眠と考えられます。いわば、"気力と体力の源"です。

 自然災害が起こると、多くの方が体育館などの避難所で生活しなければなりません。大きな災害の後ではそもそも寝つきが悪くなったり、ぐっすり眠れなくなったりするのが普通です。避難所では他の方の話し声や物音は遮れませんし、寒さや固い床などの物理的な不快さも加わります。このような環境ではさらに眠りは悪くなります。

 しばらくして、仮設住宅に移れると、避難所にあるような睡眠を乱す要因は少なくなります。とはいえ、なじみのない場所、現在の生活や将来に対する不安や心配事、さらに余震などをなくすことはできません。

 避難所であれ仮設住宅であれ、被災者の方々は安眠しにくい状況にあります。結果として、血圧が高くなるなど身体的な問題、怒りっぽさやイライラなど精神的な問題につながりやすくなります。不眠が慢性化すると、自殺という最悪の結末を迎える危険性も出てきます。この悲劇は必ず避けなければなりません。

 睡眠に関わる問題を少なくし、できるだけよい睡眠をとるには、いくつかの心がけが大切になります。一つ目は毎朝ほぼ同じ時刻に起きることです。朝の光は体内時計の調子を良くする第一条件であるからです。二つ目は昼間に外に出ることです。活動的に昼間を過ごすと、夜になって眠りにうまく移れますし、ぐっすり眠れます。

 昼間の過ごし方は単に外出でもよいのですが、例えば地域の復興のための活動などであれば、その意義はもっと高くなります。しかも、その活動によって収入を得ることができれば、なおさら望ましいでしょう。このように、昼間の生活の改善は睡眠、健康、そして収入にも有利になる可能性があります。実際にはそれほど簡単にはいかないかもしれませんが、よい睡眠が再生と創造の基本になるのは確かです。

 次回は被災からの再生・復興を支援する人々の眠りについて述べます。

たかはし・まさや●1990年東京学芸大学教育学部卒業。以来、仕事のスケジュールと睡眠問題に関する研究に従事。2001年、米国ハーバード大学医学部留学。

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