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血管には自ら守る仕組み その働きを邪魔しない
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大人が受けたい今どきの保健理科10
吉田のりまき
薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰
血管には、自らの健康を保とうとする仕組みがあります。それを邪魔せず傷つけないことが大切です。
劣化は予防できる
血管の病気は、ホースや水道管に喩えて説明されることが多いようです。汚れが溜まり、詰まって流れにくくなる状態をイメージしやすくなるからでしょう。また、ホースがだんだん硬くなって亀裂が入ることや、水道管が腐食してもろくなり破裂することも、動脈硬化、脳梗塞、脳卒中等に関連づけやすいからだと思います。
しかし、この喩えだけでは、血管もただただ老化する一方で、どうにもならないと思ってしまう人もいることでしょう。確かに血管は加齢によって老化しますが、ホースや水道管と違って自らを修復する機能も備わっています。悪い生活習慣が原因で、血管に負担をかけて劣化させていることの方が問題です。劣化によって起きる動脈硬化は予防できるのです。
残念ながら学校教育では、これらのことを教わりません。中学理科で出てくるのは、血液の成分や血球の働き、動脈と静脈の違いくらいで、動脈硬化の予防と関連づけるには少々無理があります。
一方、保健では、血管が詰まったり破裂したりすることを小学高学年で学びます。しかし、理科の勉強ではないので、血管の構造や機能と絡めて疾患を教わるわけではありません。それゆえ、動脈硬化を予防するためには、必要な知識や情報を自分で積極的に得るしかないのです。
一番内側の層がカギ
動脈は、全身に酸素や栄養を送る重要な働きをしています。心臓から血液が送り出される時、動脈にかかる圧力は結構な大きさになります。
その圧力や繰り返される収縮・拡張に耐えている動脈は、図1のように三つの層から成り立っています。内側から順に、内膜、中膜、外膜となります。
外膜は血管壁を守るカバーのようなものです。中膜は厚く、収縮や拡張ができるように、筋肉と弾性繊維があります。内膜の最も内側を一層の細胞が覆っています。「血管内皮細胞」と呼ばれるものです。
この血管内皮細胞は、不要な物が内膜に入らないよう防御しています。また、流れている血球やコレステロールが壁に粘着したり凝集したりして血液の流れを悪くしないようにしています。さらには、血管の収縮や拡張の調整をしています。
血管内皮細胞が傷むと、これらの機能が低下します。自分では防ぎようがない加齢のような原因もありますが、もっと大きな原因は運動不足や肥満、喫煙、高血圧や糖尿病といったものによって血管にストレスがかかることです。
摂取過多による不要なコレステロールが血管内を流れても、健康時なら通過して行きます。しかし、不健康で血管にダメージがあると、血管内にコレステロールが留まってしまい、やがて血管が狭くなっていきます。
ちなみにコレステロールが溜まっていく時は、図2Aではなく、図2Bのようになります。図2Bは小学校の教科書に掲載されていたものをさらに簡素化しています。
血管内皮細胞の機能が低下すると、血液中の悪玉コレステロールが内膜に入り込んでしまうのです。それを処理するために、白血球も内膜に入ってきて、悪玉コレステロールを取り込みます。白血球は役目を終えると死んでしまうのですが、コレステロールや脂肪等がそのまま内膜に残り、お粥のような柔らかい状態で内膜が厚くなっていきます。
図2AとBはほんの少しの違いかもしれませんが、Bは血管内皮細胞を越えてコレステロールが内膜に入っているので病的と言えます。
動脈硬化を予防するには、とにかくBの図の状態にならないようにすることが大切です。そのためには、血管内皮細胞の機能が落ちないよう、血管にストレスを与えない生活習慣を心がけることが大切になります。