全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。
睡眠のリテラシー36
※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。
高橋正也 独立行政法人労働安全衛生研究所作業条件適応研究グループ上席研究員
快眠を得るには起きている時の充実が大切です。特に、寝る前の過ごし方はカギになります。リラックスしながら、身体が睡眠モードに切り替わるのを静かに待つのがよいでしょう。
独り暮らしであれば別ですが、同居人がいる場合はその方と安眠を楽しめます。しかし、不眠を一緒に苦しむこともなきにしもあらずです。寝る前や横になった直後に始まった夫婦喧嘩は最悪です。その晩の熟眠はあきらめた方がよいでしょう。もしかしたら、翌朝は朝食をとらずに出勤せざるを得ないかもしれません。
のべ69組のカップルを対象に、睡眠とお互いの間の諍いとの関連を調べる研究が米国で行われました。カップルは実験室に招かれ、両者の間にある揉め事について協議するよう求められます。例えば「家事の分担に偏りがある」、「2人で決めた約束をどちらかが守らない」などが話し合われるのでしょう。
さらに、話題に上ったトラブルをどうすれば解決できるかについても議論するよう教示されました。一連の議論が終わった後、話し合いの中で感じた自分の気持ち、相手の気持ち、トラブルの解決の程度が1人ずつ別々に問われました。
前夜の睡眠との関連を調べたところ、自分が前の晩によく眠っていないと、相手の気持ちをしっかり読み取れなくなりました。これはおおよそ見当がつきます。
不思議なことに、自分の睡眠が悪い時には、相手もこちらの気持ちを察するのが鈍くなりました。つまり、自分の睡眠が不調であると、自分も相手もお互いの気持ちを理解するのが難しくなると言えます。これは「一挙両損」です。
カップル間の揉め事が果たしてどのくらい解決されたかをみると、片方だけが良い睡眠をとっていても効果はありませんでした。2人ともに睡眠が良好であると、解決に至りやすくなることが分かりました。
これらの結果は自分の精神状態や2人の関係の良し悪しなどに左右されている可能性があります。そこで、そのような影響を統計的に除いてみましたが、結果に変わりはありませんでした。
自分の睡眠のあり方が自分はもとより、相手にも影響を与え、2人の間にあるトラブルの解消にまで関わるというのは、とても興味深いことです。まさに「人は1人では生きていない」ことを実感させます。言われてみれば当たり前ですが、日々の生活に追われると、ときに忘れがちになります。
よく眠っていないと、相手の表情や振る舞いに表れる気持ちをキャッチしにくくなるばかりか、自分のこともうまく(相手に分かりやすく)伝えられなくなるのでしょう。そうなると、お互いの間のズレが大きくなって、イライラしたり、がっかりしたりします。カップルには様々なトラブルがつきものです。それをできるだけ早く解消する秘訣は、2人で一緒にぐっすり眠ることのようです。