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グルテンフリーダイエット、みんなやるべき?
この頃日本のメディアでも取り上げ始めた「グルテンフリーダイエット」。グルテンの摂取を控えることが肥満解消につながる、というものです。それって本当でしょうか?グルテンは摂らないほうがよいということ?だったら、太っていない健康な人でも、気を付けたほうがいいのでしょうか?
大西睦子の健康論文ピックアップ64
大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。
ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。
米国では最近、「グルテンフリーダイエット」と呼ばれるダイエットが大人気です。直訳すると、「グルテン抜き食」。多くの著名人に「グルテンフリーダイエットで減量成功」などとメディアで紹介され、大きな話題になっています。ところがこのグルテンフリーダイエット、実は一般の方への健康のメリットについて、科学的には明らかなエビデンスがありません。それどころか、グルテンの健康へのメリットを失う可能性も指摘されています。
グルテンフリーダイエットを取り入れる前に、「本当に自分に必要なのか」、冷静な判断が必要です。昨年、グルテンフリーダイエットに関する報告がありましたのでご紹介させていただきます。
グルテンって何?
グルテンは、小麦やライ麦、大麦などの穀物に含まれているタンパク質です。詳しくは、小麦粉等にはグリアジンとグルテニンという2種類のタンパク質が含まれていて、水を加えてよくこねると両たんぱく質が絡み合って、粘りや弾力性のあるグルテンになります。小麦粉は、グルテンの量が多いものから、強力粉、中力粉、そして薄力粉と呼ばれます。粘りが強く出る強力粉は焼いたときによく膨らむのでパンやピザなどに、キメ細かくさっくり仕上がる薄力粉はクッキーやケーキ生地、天ぷらの衣などに最適なのです。
グルテンに関係する疾患とグルテンフリーダイエット
グルテンを摂取することで、セリアック病やグルテン感受性、小麦アレルギーなどが引き起こされる場合があります。
セリアック病は、グルテンによって引き起こされる自己免疫疾患※1です。グルテン摂取後、小腸の粘膜に炎症が起こり、栄養の吸収が阻害されます。その結果、腹部膨満感、腹痛、下痢や便秘、栄養失調、鉄欠乏性貧血※2、疲労、骨粗しょう症※3など、さまざまな臨床症状をきたします。有病率は約1%と言われ、遺伝的な要因が大きいとされています。徹底したグルテンフリーダイエットにより、消化器がんなどの発生率が低くなることが報告されていますので、グルテンフリーダイエットは、セリアック病の方には確立された治療法と言えます。
グルテン感受性(あるいは非セリアックグルテン不耐症、nonceliac gluten intolerance)は、グルテンに対する過剰な免疫反応が生じるもの。セリアック病とは違って自己免疫疾患ではないものの、遺伝的要因に影響されやすいのが特徴です。一般的な症状は、ガス、腹部膨満感、下痢などの胃腸障害、疲労や頭痛など様々で(多くはセリアック病に類似)、多くはグルテンフリーダイエットで改善します。
小麦アレルギーはグルテンに限定されず小麦そのものにアレルギー※4反応を示すものです。有病率は、欧米諸国で約0.1%と推定されています。小麦アレルギーと診断された場合、小麦の摂取を避けます。
グルテンフリーダイエットはまた、自閉症スペクトラム(autism spectrum disorders、ASD)※5の方々に症状改善目的で利用されていると言います。ところが、ASDに対するグルテンフリーダイエットの有効性を支持する決定的なデータは存在しません。米国小児科学会は、ASDの一次治療としてグルテンフリーダイエットを支持していません。
その他、グルテンフリーダイエットで全身性エリテマトーデス※6や疱疹状皮膚炎※7、過敏性腸症候群※8、関節リウマチ※9、1型糖尿病※10、甲状腺炎※11、および乾癬※12が改善するという報告もあります。
グルテンフリーダイエットと減量:本当に効果はあるの?
人気のグルテンフリーダイエットですが、セリアック病やグルテン感受性の方以外で、減量の効果を支持する報告はありません。一方、セリアック病の方に関しては、グルテンフリーダイエットの効果として体重変化を報告した多くの研究があります。ただ、グルテンフリーダイエットは、必ずしも低エネルギーを意味しないことに注意する必要があります。また、グルテンフリーの小麦粉等もありますが、そうしたグルテンフリー食品の中には、グルテン含有の同じよりも高カロリーなものもあります。さらに、グルテンフリーのダイエット食品の中には、全粒穀物より繊維が少ないものがあります。全粒穀物を摂取するよりかえって太ってしまうことも懸念されるのです。
小麦と胃腸の健康
小麦は、米国で最もよく消費される穀物で、典型的な食事中のフラクトオリゴ糖※13イヌリン※14の約70%〜78%を占めています。
グルテンの含まれている小麦などの穀物には、グルテンそのものの健康への長所だけではなく、フラクトオリゴ糖やイヌリンなどによる利点もあります。オリゴ糖やイヌリンは、腸内細菌のバランスを整える働きを持っています。食事と腸内細菌の相互作用は大腸の健康に重要で、ある種のがん、炎症状態、および心血管疾患を予防することが報告されています。
小麦由来の難消化性炭水化物※15は、食後の血糖及びインスリン※16の増加を抑え、空腹時の血中(血清)中性脂肪※17を減らし、さらに体重を減らすことが報告されています。フラクトオリゴ糖は、免疫状態、脂質代謝、およびビタミン・ミネラル吸収を改善することが示されています。
ですから、厳格なグルテンフリーダイエットは逆に、健康に悪影響を及ぼす可能性があるのです。事実、最近の研究では、グルテンフリーダイエットで有益な腸内細菌が減少する可能性が示唆されています。
グルテンと健康
グルテン自体が、セリアック病やグルテン感受性でない高脂血症の方の食事療法にとって、有益であることも報告されています。成人の高脂血症の方24人に2週間、小麦グルテンの消費を増加させたところ、13%で血清中の中性脂肪が減少しました。さらに、グルテンは、血圧調節や免疫システムに重要な役割を果たしていることも示唆されています。
結論
グルテンフリーダイエットは、セリアック病またはグルテン感受性を持つ方には、有効なダイエット法です。また、乾癬、関節リウマチ、1型糖尿病および他の慢性自己免疫疾患の方に有益である可能性があります。ですが、健常な人の減量効果を支持するデータはありません。実際、グルテンフリーの焼き菓子などは、脂肪と総カロリーが高くなることがあります。そればかりか、腸内細菌、血圧調節、免疫システムなどに、かえって悪影響を与える可能性も示唆されています。グルテンフリーダイエットが必要であるかは、個々の体質や健康状態と相談しながら、慎重に考える必要がありますね。