全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。

何を食べればいいの? ~その1~

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ダイエット、アンチエイジング、そして美容、体に関する話題や悩みは多種多様で尽きることがありません。でも、そもそも「体は何から出来ているのか」を考えれば、つまるところ「何を食べるべきか」という問題に行き当たります。すべての基本である「健康な体」をつくる食事と栄養の基本をおさえておきましょう。

大西睦子の健康論文ピックアップ42

大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。

近年の健康ブームで、食に関してもいろいろな情報が流れています。例えばこのところ流行の炭水化物ダイエットもしかりですよね。「友達に本当に痩せるって薦められたけど、心筋梗塞の危険もあるって噂も聞いたし、本当に大丈夫なのかな」、なんて疑問を感じていらっしゃる方もいるのでは? それに、海外から栄養に関する新しい研究報告があっても、日本の食文化にそのまま当てはめるのが難しいこともありますね。


例えば、「トマトソースを使った料理は、リコピンが吸収されやすいため前立腺ガンのリスクを下げる」「シリアルからの食物繊維の摂取は、心筋梗塞のリスクを下げる」という研究報告があります。米国では、朝食にシリアルを、ランチや夕食にトマトソースを使ったパスタやピサを食べる習慣の人がかなり多く、この研究結果は、とても身近なものです。私もアメリカに来た当初、スーパーマーケットで扱っているシリアルやトマトソースの種類と量、そして安さに、本当に驚かされました。もちろん、今日の日本では様々な食品を手に入れることができますから、シリアルもトマトソースも食生活に取り入れていらっしゃる方は多いと思います。ただ、食生活に占める割合は、欧米とは大きく違います。私たち日本人にとっては、醤油、味噌や白米のほうがずっと身近で大切な食材ですよね。


また、とにかくダイエットを始めようと思っても、具体的にどうしようか悩んでいる方も多いと思います。私も実際、肥満大国と言われるアメリカでの生活を始めたとき、「何を食べるべきなの?」って正直戸惑いました。そんな時、自分の研究を通じて、ハーバード公衆衛生大学院(Harvard School of Public Health)などが推進しているダイエットの情報を知り、「なるほど、これはすごくシンプルでわかりやすい!」と納得しました。


そこで今回は基本に戻って、みなさんと一緒に食生活とダイエットに関して考えたいと思います。基本が理解できれば、あとは嗜好や季節に応じて好きなようにアレンジできますし、海外に移動しても、その土地の素材で健康的な食生活を楽しむことができますよ!

What Should I Eat?
The Nutrition Source /Harvard School of Public Health


ところで、一日に必要な摂取カロリーは、年齢、性別や活動量などによって異なりますが、理想的な栄養バランスは、炭水化物:タンパク質:脂質=[50-60]:[15-20]:[20-25]と言われています。といっても最近は、割合だけではなく、それぞれの栄養素の質が重要視されています。これを踏まえ、ダイエットのポイントは次の10か条になります。

1) 質のいい炭水化物を選ぶ
2) いろいろな種類のタンパク質を食べる
3) ヘルシーなオイルを選ぶ
4) 食物繊維をたくさん食べる
5) さまざまな色(緑、黄、赤、橙)の野菜や果物を食べる
6) 減塩〜加工食品ではなく、フレッシュな素材がコツ!
7) カルシウムを摂取する
8) 何を飲むべきか考える
9) 適度な飲酒は健康的、でもあなたは違うかも
10) 総合ビタミン剤の活用


今回は、1)から3)の三大栄養素についてご説明します。


1)質のいい炭水化物を選ぶ

炭水化物は、私たちの体のエネルギー源で、生命維持に欠かせない栄養素です。食事から炭水化物を抜くことは推奨できません。質のいい炭水化物、特に、全粒穀物(whole grains)を取り入れて下さい。全粒穀物とは、玄米、全粒小麦、雑穀など、未精製の穀物のことです。精製の過程で失われるビタミンやミネラル、食物繊維などの栄養素を豊富に含みます。白米、砂糖、小麦粉など、精製された炭水化物は血糖値を急激に上げますが、全粒穀物は食物繊維を含むため、血糖値の上昇は緩やかで、急激なインスリン※1の分泌が抑えられ、満腹感が持続します。さらに、総コレステロール※2、悪玉(LDL)コレステロール※3、中性脂肪※4などを下げる働きもあります。全粒穀物の摂取によって、心臓病、2型糖尿病※5、肥満や大腸がんのリスクを減らすことが報告されています。全粒穀物の必要量は年齢や性別、活動量で異なりますが、2010年のアメリカの食生活指針(Dietary Guidelines for Americans)では、穀物の半分以上を未精製の穀物で摂取するように推奨しています。具体的には、成人は全粒穀物を1日あたり少なくとも3〜5サービング()は食べるように指導されています。子供でも、2〜3サービング以上は摂取を薦めています。1サービングの全粒穀物は、約16g(大さじ1杯半)。玄米、オートミールなど調理した状態なら半カップ、100%全粒粉パン1切れ分です。


2)いろいろな種類のタンパク質を食べる

タンパク質は、私たちの体を作るのに非常に重要な栄養素です。豆類、ナッツなど植物性タンパク質を多く含む食品は、同時に、食物繊維、ビタミンやミネラルなどの栄養素が豊富です。一方、肉、魚、牛乳や卵などに含まれる動物性タンパク質には、私たちが体内で作ることができない必須アミノ酸※6が豊富に含まれ、植物性タンパク質に比べて、体が利用しやすいという利点があります。ですから、タンパク質は、植物性と動物性の両方をバランスよく摂取することが重要なポイントになります。ただし、動物性タンパク質は、飽和脂肪酸(後述)やコレステロールが多く含まれるので、食べ過ぎには注意が必要です。特に、加工肉や赤身肉の食べ過ぎると、心血管疾患やがんによる死亡率が増加することが報告されていますので注意が必要です。


3)ヘルシーなオイルを選ぶ

脂質は、私たちにとって、細胞膜やホルモンを作るための材料となり、主要なエネルギー源として貯蓄され、とても重要な栄養素です。脂肪酸は脂質をつくっている成分で、その科学的構造から、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の2つに分類できます。


飽和脂肪酸はバターやラードなど、肉類や乳製品の動物性脂肪に多く含まれていて、常温では固体で存在するため体の中でも固まりやすく、しかも中性脂肪やコレステロールを増加させる作用があるため、血中に増えすぎると動脈硬化※7の原因となります。不飽和脂肪酸は、魚類や植物油に多く含まれ、常温では液状で存在します。エネルギー源や身体の構成成分となるほか、血中の中性脂肪やコレステロールの量の調節を助ける働きがあります。


不飽和脂肪酸は、さらに一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸の2種類に分類されます。一価不飽和脂肪酸は、オリーブ油に多く含まれるオレイン酸がその代表で、悪玉コレステロールを減らす働きがあります。


最近注目の多価不飽和脂肪酸は、体の中で合成できないため食べ物からとらなければならない必須脂肪酸です。多価不飽和脂肪酸は、魚の油に多く含まれるIPA(イコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)、えごま油やなたね油などに含まれるα-リノレン酸を代表とするオメガ3系脂肪酸が、細胞膜の材料となり、中性脂肪を減らし、善玉(HDL)コレステロール※8を増やすことで知られています。一方、大豆油やコーン油など一般的な植物油に多く含まれるリノール酸を代表とするオメガ6系脂肪酸も、体に必須で悪玉コレステロールを減らしますが、反面、摂りすぎると善玉コレステロールも減少させてしまいます。オメガ3系と6系の摂取バランスは[1:2]~[1:4]程度が適切であると言われ、伝統的な日本人の食事ではこれが保たれていましたが、昨今の欧米型の食生活でオメガ6系の摂りすぎが問題になっています。


また、トランス脂肪酸は、常温で液体の植物性油に水素添加をして人工的に製造された固形の油です。マーガリン、ファーストフード、インスタント食品などに含まれていますが、虚血性心疾患や認知機能の低下のリスクが懸念されています。


以上から、脂質については、魚(サケやマグロなど)、クルミ、そしてキャノーラ油など、オメガ3系脂肪酸の豊富な食品を、毎日の少なくとも1品は食べてください。また、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の多い食品を避けましょう。


ダイエットを考えるとき、カロリーを気にされる方が多いと思います。もちろん、必要摂取カロリーは把握するべきだと思いますが、これからは、カロリーだけではなく(*「カロリーって何?」参照)、もっと栄養素、内容と質に注目して下さい。習慣を変えることは大変ですが、例えば、バターをオリーブ油に変える、朝食にサラダを一品加えるなど、小さな変化で構いません。知らないうちに、それが習慣になってきて、大きな変化を起こします。毎日、厳しい食事制限や完璧なダイエットをする必要はありません。ダイエットの長期的な目標は、健康的な食事を楽しみ、生活習慣病などのリスクを減らして、イキイキと人生を送ることですから。

*以下もあわせてお読みください。
「カロリーって何?」

1 |  2 
  • 患者と医療従事者の自律をサポートする医療と健康の院内情報誌 ロハス・メディカル
月別アーカイブ
サイト内検索