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どうして夜中に食べたくなるの?

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連休中はつい夜更かしをしてしまったという方、「夜遅くまで起きていて、ついつい夜食やお菓子に手が伸びてしまった」なんてことはありませんでしたか?それって実は、単に「夕食から時間が経ったせいでお腹がすいた」というだけではないようなのです・・・。

大西睦子の健康論文ピックアッ40

大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。


「夜寝る前に食べると太る」ってよく聞きますよね?でも、わかっているけど、ポテトチップス、チョコレートやラーメンなど、塩辛いもの、甘いものや高カロリーなものをついつい食べてしまいます。


それで悩んでいるのはあなただけではありません。一般的に私たち人間は誰しも、午前中にはあまり空腹を感じません。ある調査では、欧米人の平均的な朝食は、1日のカロリーの16〜18%と報告されています。また、朝食を食べない人も多くいます。睡眠という長い絶食の後なのに、なぜ朝は食欲がないのでしょうか?どうしてこってりとした食べ物は、朝からは食べたいと思わないのでしょうか?一方、夕食は1日の最大の食事で、1日のカロリーの35〜36%を摂取します。


私たちの体の中には、概日リズム(Circadian rhythmサーカディアン・リズム)※1という体内時計があります。その時計が、体温、血圧やホルモンなどのリズムを整えていて、その体内時計が乱れてくると、不眠、疲労、糖尿病や、高血圧などが起こります。深夜の食欲増と朝の食欲不振にも、その原因として体内時計が関わっていることが、ハーバード大学とオレゴンの研究者らによって雑誌『Obesity』に報告されましたので、ご紹介させていただきます。

Scheer FA, Morris CJ, Shea SA.
The internal circadian clock increases hunger and appetite in the evening independent of food intake and other behaviors.
Obesity (Silver Spring). 2013 Mar;21(3):421-3.
doi: 10.1002/oby.20351.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23456944


実験では、Forced desynchrony実験 (強制脱同調実験)と呼ばれる手法が用いられました。Forced desynchrony実験とは、被験者に24時間周期とはかけ離れた睡眠覚醒リズム(例えば20時間周期や28時間周期)で生活してもらう実験です。生体時計は24時間から大きく離れた生活習慣には同調できないため、この実験中でも生体時計は約24時間の周期で持続します。この生活を多くは20日ほど続け、その間にさまざまな現象を持続的に記録することで、現象が体内時計に依存しているのか、それとも睡眠覚醒リズムに依存しているのか明らかにできるものです。(参考:『実験医学』羊土社)


今回の研究の被験者は、太っていない健康な成人12人(男性6人、女性6人、年齢20〜42歳)で、13日間非常に薄明かりの実験室に滞在し、20時間サイクルで食欲や食べ物の好みを評価しました。食欲や概日周期に影響する行動や環境要因(例えば食事、睡眠、活動、姿勢、室内温度、光)はすべてコントロールされています。


その結果、体内時計は空腹感を制御していることが判明しました。具体的には、午前8時には空腹を感じず、午後8時が最も空腹感が強まりました。さらに、 甘いもの、果物、でんぷん質、肉類や塩辛い食品を食べたくなる欲求も同じリズムでした。ところが、野菜においては、同じような食欲のリズムは認められませんでした。概日リズムは、特に高エネルギー食品の欲求を調節しているのです。


おそらく、私たちの祖先は、長期間の食糧不足を経験し、夜中に食べてエネルギーを保存する体のシステムを作ったのでしょう。ところが、あふれる食と運動不足が問題の今日では、夜にたくさん食べる人、特に高カロリー食品や飲料の摂取は、太り過ぎまたは肥満を導きます。


それでは、この深夜の食欲をどうすれば減らすことができるのでしょうか?いくつか秘訣をお伝えします。

1) 朝:
起きたら、まず日光を浴びてください。体内時計がリセットされます。光の情報を目から受け取り、「メラトニン」という睡眠を促すホルモンが、朝日を浴びてから約14~16時間後に分泌されます。そのために、朝7時に起きると夜の9~11頃に眠くなってくるのです。睡眠は健康維持に大切です。また、朝20分くらいの運動をしてみてください。規則的な朝の運動が脂肪を燃焼させることが報告されています。

2) 睡眠:
1日6〜8時間が最適です。睡眠不足は、食欲刺激ホルモンの増加、食欲抑制ホルモンの低下などを促し、肥満の原因となります。

3) 食事:
起床後1時間以内に、朝食はしっかり食べて、夕食はできれば夜8時までに終わらせてください。8時以降に夕食や間食をすると、太りやすいことが報告されています。朝食と昼食は、炭水化物に偏りがちですが、タンパク質をしっかり摂取して下さい。タンパク質は、私たちの体の構成成分になり、エネルギー源としての重要な役割を果たしています。また、夕食に食物繊維を摂取すると、満腹感を得て深夜の空腹感が減ります。

4) 深夜のおやつ:
どうしても食べたくなったら、新鮮な野菜や果物を使った食物繊維の多い食品にして下さい。

5) 油の選択:
オメガ3系不飽和脂肪酸を多く含む魚などから、ヘルシーなオイルを摂取しましょう。

6) コーヒー:
午後の4時くらいまでにして下さい。そうすると、朝1杯のコーヒーで劇的に目覚めます。

7) 習慣:
夜中にテレビを見ながらスナックを食べる習慣をやめましょう。明日の準備をし、光を避けて、早めに眠りにつきましょう。疲労の回復、老化防止などに効果がある成長ホルモンがよく分泌されるのは、夜10時~深夜2時であることが知られています。


●以下の記事も、ぜひ併せてお読みください

睡眠のリテラシー3

体内時計乱れて太る 魚で正常に戻るかも


※1・・・動物、植物、菌類、藻類などほとんどの生物に存在している約24時間周期で変動する生理現象。厳密な意味では内在的に形成されるものだが、光や温度、食事など外界からの刺激によって修正される。

※2・・・成長ホルモン(growth hormone、GH)は脳下垂体前葉のGH分泌細胞から分泌されるホルモンで、ヒト成長ホルモンは特に hGH(human GH)と呼ぶ。成長に関する作用と代謝をコントロールする作用がある。とくに代謝に関する作用としては、炭水化物やタンパク質、脂質の代謝を促進したり、血糖値上昇させたりカルシウム濃度などを一定に保ち、体内の恒常性を維持する作用、またエネルギー不足の状態の時には、脂肪組織から脂肪酸を放出させる作用などがある。

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