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何を食べればいいの? ~その2~
飽食日本、誰しもがダイエットに悩む贅沢な今日この頃ですが、だからこそ食べ物の質にこだわりたいですよね。では何を食べるべきか。そんな話の続きです。
大西睦子の健康論文ピックアップ43
大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。
ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。
さて、先週に引き続き、「何を食べればいいの?」その2です。
What Should I Eat?
The Nutrition Source /Harvard School of Public Health
前回は3大栄養素の話でしたね。まずはあらためてダイエット10か条をおさらいしておきましょう。
1) 質のいい炭水化物を選ぶ
2) いろいろな種類のタンパク質を食べる
3) ヘルシーなオイルを選ぶ
4) 食物繊維をたくさん食べる
5) さまざまな色(緑、黄、赤、橙)の野菜や果物を食べる
6) 減塩〜加工食品ではなく、フレッシュな素材がコツ!
7) カルシウムを摂取する
8) 何を飲むべきか考える
9) 適度な飲酒は健康的、でもあなたは違うかも
10) 総合ビタミン剤の活用
以上のうち、4)食物繊維、5)野菜・果物、そして)塩分が今回のトピックです。
4) 食物繊維をたくさん食べる
食物繊維は、体が消化できない炭水化物の一種です。でも消化されない食物繊維が、どうして大切なのでしょうか?実は、昔の栄養学では、食物繊維は、「食べ物のカス」とも言われ、必要な栄養素まで体外に出してしまうので、長い間「役立たず」と認識されていました。ところが栄養学が発展し、食物繊維は、心臓病、憩室炎※1、便秘や糖尿病のリスクを低下させる重要な働きがあることが分かったのです。
食物繊維には、不溶性と水溶性があります。水に溶けない不溶性食物繊維は、植物細胞の外側の細胞壁をつくっている成分で、保水性が高く、胃や腸で水を吸収して、数十倍にも膨らみます。ですから、満腹感が得られます。さらに腸を刺激し、ぜん動運動※2を活発にして排便を促進するため、便秘を解消します。また、体にとって有害物質を吸着し排泄します。一方、水溶性食物繊維は、植物細胞の内側の細胞質の中にある貯蔵物や分泌物です。水に溶けるとゲル状となり、食べ物に粘性を持たせます。そうすると、食べ物が胃や小腸を移動する時間が長くなり、糖分や脂質などの栄養素がゆっくり吸収されます。そのため、コレステロールの吸収が低下し、食後の血糖値の急激な上昇を防ぎます。さらに、水溶性食物繊維は腸内の善玉菌※3のエサとなり、腸内環境を整える働きがあります。
「日本人の食事摂取基準(2010年版)」では、一日あたり食物繊維摂取の目標量を、18歳以上の男性は19g以上、女性17g以上としています。1950年代は、日本人の平均食物繊維摂取量が、一日20gを超えていました。ところが最近は食生活の欧米化などに伴って食物繊維の摂取量が減り、一日約5~6gも足りないと言われています。特に、10〜40代でかなり摂取が少ないのが問題です。
もっと詳しく言えば、食物繊維の必要摂取量は、年齢、性別や一日のカロリー摂取量によって異なります。アメリカでは、成人女性は一般に一日20g以上、成人男性は一日38g以上摂取する必要があるとされていますが、カロリーでいうと1,000kcal当たり14gの摂取が推奨されています。例えば、一日2500カロリー摂取する方は、食物繊維を少なくとも35g、一日1700カロリー摂取する方は、食物繊維を24g摂取する必要があります。私たちは食物繊維をもっと積極的に摂取するべきなのです。
食物繊維を上手にとる方法には次のようなものがあります。
1:フルーツジュースを飲むより、果物を食べて下さい。果物そのもの方が、カロリーが低くて繊維がたくさん摂れます。
2:毎日の朝食に、新鮮な果物を取り入れて下さい。フレッシュな一日が始まりますよ。
3:主食に食物繊維入り全粒穀物※4をとり入れて下さい。全粒穀物に馴染みのない方は、最近では全粒穀物を使った新しい料理が色々考え出されていますので、そちらを是非試してみてください。すごく美味しいですよ。
4:豆を食べて下さい。豆は食物繊維、良質な炭水化物やタンパク質、他にも様々な栄養素を含む安くて美味しい食品です。
5) さまざまな色(緑、黄、赤、橙)の野菜や果物を食べる
野菜や果物には、ビタミン※5やミネラル※6、食物繊維が豊富に含まれていて、高血圧や心臓病、脳卒中のリスクを下げます。厚生労働省は、野菜を1日350g、特に緑黄色野菜はそのうち120g摂ることを推奨しています。2010年の国民健康・栄養調査によると、日本人の一日の野菜摂取量の全世代平均は268.1gで、20~40歳代では約7割しかとれていません。また、厚生労働省・農林水産省の推奨する食事バランスガイドでは、果物の摂取は、一日200g(みかん2個分、りんご1個分)が望ましいとされています。ところが、2004年の国民健康・栄養調査では日本人の果物摂取量は一日に約120gです。ですから私たちは、野菜や果物も、もっと積極的に摂取するべきなのです。
野菜や果物を上手に食べる方法には次のようなものがあります。
1:果物を、朝食やおやつに手軽に利用できるように、冷蔵庫や台所などの目につく場所に保管してください。
2:野菜を、毎日、毎回の食事で食べて下さい。その時、さまざまな色(緑、黄、赤、橙)の野菜でお皿の半分を埋めて下さい。ヘルシーオイル(オリーブオイルなど。前回記事も参照してくださいね)でドレッシングを作ってみたり、炒めたりして、お気に入りのメニューを増やしましょう。
3:旬の野菜や果物を取り入れて下さい。また、スーパーマーケットなどで新しいものを見つけたら、積極的に挑戦してみて下さい。 そのうちに、野菜や果物なしの生活はできなくなりますよ。
6) 減塩~加工食品ではなく、フレッシュな素材がコツ!
以前、塩分のトピック(子どもも塩分過剰に要注意https://robust-health.jp/article/preventive01/000127.php)でもお伝えしましたが、厚生労働省は、日本人成人の1日の塩分摂取の目標値は、男性は1日9g未満、女性は7.5g未満を推奨しています。日本高血圧学会ガイドラインでは、食塩摂取量は一日6g未満を勧めています。わが国では、味噌や醤油などの調味料、漬け物、ラーメンや蕎麦の汁などからの食塩摂取が多いことは、ご存知の方も多いと思います。
米国におけるナトリウムの最大摂取基準は1日2300mg(=食塩5.75g)ですが、平均的な米国人は、3.300mgのナトリウム、すなわち約8.4gの食塩を摂取していて、米国人の90%が塩分摂取過多と報告されています。欧米型の食生活のアメリカ人は、どんな食品から塩分をたくさん摂っているのでしょうか?
それについては先日、JAMA Internal Medicineに報告がありました。現在アメリカでは、加工食品やファーストフードからの塩分摂取が問題になっています。この報告では、2005年から2011年までに販売された402種類の加工食品と78のファーストフードに含まれる塩分を調べました。その結果、含有塩分の推移としては、加工食品は約3.5%の減少、ファーストフードは2.6%の増加が認められたものの、いずれ大きな変化はなく、依然として塩分過多でした。例えば、ベーコン100gには食塩が4.6g、ホットドックには2.4g含まれています。加工食品をつくるとき、塩分を高めにすると、食材の質が悪くても風味をごまかすことができるのです。さらに、塩分には依存性があります。一般に、もともと和食は塩分が多いので、私たち日本人は、加工食品やファーストフードの摂取には、十分な注意が必要です。
最近のテクノロジーの発展のおかげで、インターネットなどを通じて得られる情報の量とスピードは驚異的ですよね。それに対して、私たちの体の習性を変えるには時間がかかります。例えば、生活習慣を変えようと思って、ちょっと試しても即効性がなくて辞める、なんて経験はありませんか?1週間で3キロ痩せたといっても、体内の水分が失われただけだったりして、結局リバウンドしてしまったりします。せっかくやる気があっても、情報に振り回されて、時間や体力、精神力が失われても仕方がないですよね。時間がかかってもいいのです。新鮮な素材の食品を選んで、楽しく、一生続けられる健康的な食生活を身につけましょう!