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ワクチンは帯状疱疹の発症リスクを半減させる

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 米国で、保険加入会員対象のコホート研究を実施し、帯状疱疹ワクチン接種群と非接種群における、帯状疱疹発症リスクを比較したところ、ワクチン接種群ではリスクが55%低下することが分かりました。

Herpes Zoster Vaccine in Older Adults and the Risk of Subsequent Herpes Zoster Disease
Hung Fu Tseng, PhD, MPH, Ning Smith, PhD, Rafael Harpaz, MD, MPH, Stephanie R. Bialek, MD, MPH, Lina S. Sy, MPH, Steven J. Jacobsen, MD, PhD
JAMA. 2011;305(2):160-166. doi:10.1001/jama.2010.1983.

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

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●背景

 帯状疱疹は、潜在的に後根神経節に存続している水痘帯状疱疹ウイルスの再生により引き起こされる痛みのある水疱疹である。帯状疱疹の痛みは、しばしば人を無力にし、帯状疱疹後神経痛という合併症として、何カ月もあるいは何年も継続することさえありうる。米国では毎年約百万件の帯状疱疹発症が起こっているが、年齢や免疫抑制以外に、この症状に対する危険因子はよく知られていない。

 帯状疱疹予防研究(SPS)は、水痘帯状疱疹ウィルスの岡・メルク株から作られた弱毒性ワクチンの治験で、帯状疱疹既往歴、免疫抑制、参加を妨げるような健康状況のない60歳以上の38,546人が対象となった。SPSでは、帯状疱疹ワクチンが帯状疱疹を51%(P<0.001)、帯状疱疹後神経痛を67%(P<0.001)減少させたが、検査マーカーは予防は確認されなかったことを示した。続いて、ゾスタバックスが米国食品医薬品局(FDA)により2006年に承認され、米国疾病管理予防センター(CDC)の予防接種の実施に関する諮問委員会(Advisory Committee on Immunization Practices:ACIP)によって60歳以上の健康な人への接種が推奨された。

 SPSは、帯状疱疹ワクチンは理想的条件下においては機能するというワクチン効力のエビデンスは与えたが、ワクチンの恩恵が臨床診療の条件に対して一般化されうるのかどうかを示すためには、現場条件下でワクチン有効性を確認する必要がある。このことは、ワクチンが必要となる高齢者の医療的生理学的多様性を考慮するとともに、この弱毒性ワクチンに対する厳密な保管および取り扱い要件があることから、特に帯状疱疹ワクチンにとっては重要となる。さらに、ある大規模観察的研究が、ほとんどの無作為比較対照試験では実行しがたい重要な患者サブグループにおいてワクチンの恩恵探求を考慮に入れている。本報告は、60歳以上の地域居住成人における大規模観察的研究から、マネジドケア組織における帯状疱疹ワクチン接種後の帯状疱疹リスク評価を示すものである。

●方法

(1)設定
 研究は、南カリフォルニアのカイザーパーマネンテ(KPSC)(*1)会員対象に実施された。会員は、社会経済的に多様で、99%以上が地域に居住している。人口統計情報、受益情報、診断情報に関する患者データは、外来、救急部、病院からKPSC電子健康記録データベースに持ち込まれる。データベースは、入院の主要診断、2次的病院診断、外来や救急部診療での診断情報を提供する。会員が接種を受けたワクチンは、KPSCの内外を問わず、カイザーワクチン接種追跡システムに持ち込まれる。帯状疱疹ワクチンは、少額または無料でKPSC会員に提供された。

(2)対象者
 この後ろ向きコホート研究は2007年1月1日から2009年12月31日までのデータを含んでいる。2007年1月1日から2009年6月30日の間に、60歳以上で帯状疱疹ワクチン接種を受けたKPSC会員によってコホートは形成され、ワクチン接種日を指標日と称した。誕生日(±1年)に基づき、ワクチン接種コホートに対して非接種3対接種1の割合になるよう、無作為抽出会員が非接種コホートを形成した。非接種者には、組み合わせた接種者と同じ指標日が割り振られた。6カ月前までの間に帯状疱疹となった人は除外した。

 免疫不全状態の患者には帯状疱疹ワクチンは推奨できないことから、ワクチン接種群と非接種群で潜在的帯状疱疹リスク比較ができるように、そして帯状疱疹ワクチン接種によるリスク低下が国の推奨とSPSの環境で説明できるように、免疫不全状態の患者は除外した。免疫不全状態の人を、指標日1年以内から追跡調査終了までにヒト免疫不全ウィルス(HIV)、白血病、リンパ腫診断を受けた場合、指標日1年以内に免疫抑制剤投与を受けた場合と定義した。

(3)結果、サブグループ、共変数
 帯状疱疹および眼帯状疱疹は、研究期間中の病院、外来、救急部からの国際疾病分類第9版(ICD-9)コード番号によって定義された。性別・医療の利用・併存慢性疾患を含めワクチン接種と帯状疱疹リスクとに関連する因子を評価するため対象者を分類した。帯状疱疹ワクチン接種率と帯状疱疹リスクは、ともに人種によって異なるようだったため、自己申告による人種も分析に含めた。医療の利用は、指標日1年前以内の入院、または外来や救急部診療と定義した。慢性疾患は、指標日1年前以内の糖尿病、心疾患、肺疾患、腎臓疾患、肝臓疾患のうち一つ以上の診断を受けた場合と定義した。

(4)統計分析
 発生率は、帯状疱疹症例数を総人年数で除して算出した。年齢・性別・人種・併存慢性疾患での補正を加え、ハザード比を算出した。

●結果

(1)ワクチン接種群と非接種群
 本研究には、75,761人のワクチン接種群と227,283人のワクチン非接種群が含まれた。ワクチン非接種群と比較すると、接種群は、白人であり、女性、指標日12カ月前の外来診療回数はより多いが救急部診療と入院回数はより少ないという傾向があった。また、慢性疾患罹患率はより低かった。

(2)ワクチン接種群と非接種群における帯状疱疹
 研究において、5,434件の帯状疱疹症例が確認され、4,593件が外来、574件が救急部、267件が入院であった。ワクチン接種群では平均追跡調査期間が1.72年で総発生数は828件/130,415人年、非接種群では平均追跡調査期間が1.56年で総発生数は4,606件/355,659人年となり、1,000人年中の帯状疱疹発生率は、単変量解析ではそれぞれ6.4(信頼区間95% 5.9~6.8)と13.0(信頼区間95% 12.6~13.3)となった。

 ワクチン接種群と非接種群で比較すると、ワクチン接種は帯状疱疹リスク低下と関連があり、すべての因子で補正したハザード比は、0.45(信頼区間95% 0.42~0.48)となり、接種時年齢・性別・人種・慢性疾患の存在によって変わるものではなかった。帯状疱疹ワクチン接種群は、眼帯状疱疹リスクが0.37(信頼区間95% 0.23~0.61)、帯状疱疹というコード番号による入院リスクが0.35(信頼区間95% 0.24~0.51)と、いずれも非接種群と比較してリスク低下となった。

 2次分析において、免疫応答性定義をさらに限定し、コルチコステロイド(副腎皮質ステロイド)を、経口・注射・鼻内噴霧・吸入を含め、指標日の1年前以内に服用した記録を有する者を除外した。この補正によるハザード比は、0.46(信頼区間95% 0.43~0.49)となった。

●考察

 本研究データは、帯状疱疹ワクチンの治験であったSPSの結果を補完するものとなり、混成母集団と混成日常的診療から成る地域設定において、ワクチンは帯状疱疹リスク低下と関連あることを示すものである。さらに、ワクチン接種は眼帯状疱疹や潜在的に帯状疱疹に帰する入院のリスク低下にも関連あることを示している。また、潜在的利益は帯状疱疹ワクチン接種が推奨されるすべての年齢層に、そして慢性疾患を有する者にも及ぶものであることを示しているのだ。

 帯状疱疹ワクチンは近年承認されたものであり、予防の耐久性は、今後の研究で評価を受ける必要がある。しかしながら、このワクチンは、毎年国全体で何万もの帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛を予防する可能性を有している。成人に対するワクチンインフラが弱いことと、医師と患者との間にワクチンに対する深刻なバリアが存在することにより、今日まで、帯状疱疹ワクチン接種率は低いものとなっている。帯状疱疹ワクチン接種を求めている人たちが深刻な健康状況を経験するリスクを低下させることができるように、これらの問題に対する解決策を見出すことが必要となっている。

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