全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。
マルチビタミン剤が、男性のがんを少し減らす
「マルチビタミン」あるいは「サプリメント」という言葉、今ではかなり耳慣れたものになっていますよね。でも実際には、多くの人が「なんとなく体にいいかも」という程度の認識ではないでしょうか。今回、がん予防効果が科学的に示されたようです。(それにしても"少し"というタイトル、とても正直ですね)
大西睦子の健康論文ピックアップ14
大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。
ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。
↓↓↓当サイトを広く知っていただくため、ブログランキングに参加しました。応援クリックよろしくお願いします。
私たちが生きていくために、必要な5大栄養素ってご存知ですか? 3大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質)に、「ビタミン」と「ミネラル」を加えたものが5大栄養素です。3大栄養素は、私たちの体のエネルギーになり、私たちの体を作ります。「ビタミン」は、3大栄養素が円滑に働くようにサポートします。「ミネラル」は、多くのビタミンが作用するために必要であり、体の機能の維持や調整に欠かせない栄養素です。
最近、ファストフードや加工食品の摂取が増えて、不足しがちなビタミンやミネラルなどの栄養補給を補充する目的で、サプリメントの需要が増えています。米国成人の少なくとも3分の1はサプリメントを摂取していて、日本でも摂取量が増えています。こうして「健康食品」と認識されがちなサプリメントですが、過剰摂取による健康への害や副作用などの問題もあります。
ただ、マルチビタミン剤(総合ビタミン剤)の投与とがんの発症や死亡率の関係について、長期にわたる観察研究の報告はこれまでありませんでした。それが先週、「長期間にわたって毎日マルチビタミン剤の服用を続けると、がんの発症が少し減る」ことを、ハーバード大学の研究者らがJAMA(米国医師会雑誌)上で報告しました。
Multivitamins in the Prevention of Cancer in Men: The Physicians' Health Study II Randomized Controlled Trial.
1.Gaziano J, Sesso HD, Christen WG, et al.
JAMA, 2012; DOI: 10.1001/jama.2012.14641
試験開始時に50歳以上の米国男性医師14,641人を対象に、Physicians' Health Study (PHS)Ⅱと呼ばれる大規模な無作為二重盲検試験※1による追跡調査が行われました。この試験は、がんや心血管疾患、眼科疾患の予防と認知機能に対するビタミン剤のリスク(危険)とベネフィット(利益)のバランスを評価するために行われたものです。対象者は、1997年から2011年6月1日までの約11年間、ビタミン剤かプラセボ※1のいずれかを投与され、メラノーマ※2以外の皮膚がんを除いた全がん発症と、さらに前立腺がんや大腸がんなど個々のがんの発症について解析されました。投与されたビタミン剤は、以下の通りです。
・マルチビタミン(商品名Centrum Silver;ビタミンA, B6, B12, D, カルシウム, ルテイン、リコピンを含有)を毎日
・ビタミンE(400 IU)を隔日
・ビタミンC(500 mg)を毎日
・ベータカロチン(50 mg)を隔日
なお、上記のうちベータカロチンは2003年に投与が中止され、ビタミンCとEは2007年8月1日に計画通り投与が終了しましたが、がんや心血管疾患との関連性は認められませんでした。
結果としては、投与期間中に2,669人ががん(前立腺がん1,373人、大腸がん210人、重複あり)を発症しました。追跡期間中には合計2,757人(18.8%)が死亡、そのうち859名(5.9%)はがんによるものでした。
マルチビタミン剤を内服した男性では、新たながんの発症が統計的に有意に8%減り、上皮性腫瘍※3も同程度のリスク低下が認められました。しかし、こうした効果は、試験開始時にがんの病歴があった1,312名の男性に限られ、がんの病歴がない男性ではあまり効果が認められませんでした。また、がんの部位ごとに解析すると、前立腺がん、結腸がん、直腸がん、肺がん、膀胱がんのリスクに対しては、マルチビタミン剤は影響を与えませんでした。さらに、マルチビタミン剤により新たながんの発症が減少したにもかかわらず、がんによる死亡者は有意な減少が認められませんでした。
以上の結果から、マルチビタミン剤のがんに対する予防効果が期待されます。しかしながら、今回は対象者がかなり健康な男性のグループに限られていたため、同じことが他の人々に適用できるかは明確ではありません。さらに別のタイプのマルチビタミン剤では、異なる結果をもたらす可能性もあります。
米国癌学会疫学研究プログラムの副会長Susan M. Gapstur博士は、次のようなコメントを出しています。「この臨床試験は非常によく設計され、毎日のマルチビタミン剤の内服が50歳以上の非喫煙男性のがんリスクを多少減らすことを明らかにしました。ただし、これはあくまで研究の一つであって、今回の結果を確固たる結論と判断する前に、今後、同じような結果が他の研究や他の集団でも再現できるか。女性や喫煙者でどうかはわかりません。さらなる研究が必要です」
これまでにも、1種類または複数のビタミン剤の長期にわたる服用で、がんを予防できるかどうか調べた大規模無作為化試験は、あるにはありました。しかし、ほとんどは、「ビタミン剤の内服によって、プラセボを摂取した人よりもがんになる可能性が低くなることはなかった」という結論に至っています。ビタミン剤を服用している人のほうがより多くのがんを発症したケースも複数報告されています。がん予防のためのビタミンとミネラルの補給が混合されている研究もありました。また、いくつかの研究では、個々の栄養素の有害性が示されています。
今回の研究で使用したマルチビタミン剤は、以前の研究で使用されたものよりも、少ない用量でより豊富な栄養素を含んでいます。これまでアメリカ癌学会は、健康的な食事からの栄養摂取を推奨してきました。サプリメントを摂る場合も、バランスのとれたマルチビタミン/ミネラル剤であること、また、ほとんどの栄養素について一日必要量以上に摂取しないよう推奨しています。今回の研究結果は、そのガイドラインへの新たな追加情報となると考えられます。
ただ、それでもやはりがんの予防に一番重要なのは、野菜や果物を豊富に含むバランスのいい食事、そして適度な運動と禁煙でしょう。