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健康に気を使えば心不全リスクは下がる

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健康的な生活様式と生涯における心不全リスクの間には大いなる関連のあることが分かりました。

Relation Between Modifiable Lifestyle Factors and Lifetime Risk of Heart Failure
Luc Djoussé, MD, ScD, MPH, Jane A. Driver, MD, MPH, J. Michael Gaziano, MD, MPH
JAMA. 2009;302(4):394-400. doi:10.1001/jama.2009.1062.

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

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●背景
 米国においては、毎年550,000件の心不全が発生し、大きな公衆衛生問題となっており、高齢者における入院の主因となっている。医療的・外科的処置が進歩しているにもかかわらず、心不全発症後の死亡率は高いままで、20%~50%となっている。心不全の大部分は、先立つ冠動脈性心疾患や高血圧によって説明づけられるもので、冠動脈性心疾患や高血圧の予測因子が心不全リスクに影響を与えているかもしれないということを示している。

 公衆衛生活動において生涯リスクという概念は重要であり、他の理由で亡くなるまでの余生においてある病気を発症するリスクと定義できる。40歳の人のうち5人に1人が残りの生涯において心不全を発症すると推定されている。したがって、心不全の第1次予防に焦点を当てることは重要である。心不全の予測因子いくつかは、変更可能な生活様式要素に影響を受けるかもしれない。例えば、健康体重を維持すること、喫煙しないこと、定期的に運動に取り組むこと、健康的な食事を摂ることは、冠状動脈不全・糖尿病・高血圧を含めて心不全の危険因子に対してよい影響を与えるということが示されてきている。しかしながら、健康的な生活様式要素にこだわることが生涯における心不全リスクを下げるのかどうかは明確になっていない。健康的な生活習慣の生涯リスクに対する有益な影響を示すことは、潜在的な医療的・公衆衛生的意味を持っているのである。

 生活様式要素と健康上の結果を慎重に前向きに収集し、20年以上の追跡期間を伴ったことで、Physicians' Health Study (PHS) I(*1)がこれらの重要な疑問に取り組む独自の機会を提供してくれた。本研究は、変更可能な生活様式要素と余生における心不全リスクとの関連を、男性大規模コホートにおいて前向きに評価するものである。

●方法

(1)対象者
 PHS 1の22,071人中、生活様式要素情報に不備のあった1,145人、ベースライン時に心不全のあった25人、100歳を超えてから心不全が起こった1人を除き、20,900人を対象者とした。

(2)心不全発症の確認
 心不全を含むエンドポイントの確認は、追跡期間中のアンケート調査を用いて実施した。各対象者に対して、初年は6カ月に1回、以降は年に1回アンケート調査が郵送され、心不全を含めて、新たな結果発生に関する情報提供が行われた。心不全と死亡について2008年2月までに確認されたものを本研究で使用した。

(3)生活様式要素および他の要素評価
 心血管疾患リスクに影響を与えることが示されてきている変更可能な生活様式要素である、脂肪症・喫煙・運動・アルコール摂取・食生活に焦点を当てた。ベースライン時に、各対象者は、以下の情報を提供した。
1 喫煙(一度もない・過去にあり・現在あり)
2 運動-汗をかくくらい精力的に運動するのはどのくらいの頻度か?(めったにない/全くない・月に1~3回・週に1回・週に2~4回・週に5~6回・毎日)
3 アルコール摂取(めったにない/全くない・月に1~3杯・週に1杯・週に2~4杯・週に5~6杯・毎日・日に2杯以上)
4 過去1年間朝食に摂取したシリアル(めったにない/全くない・月に1~3人前・週に1人前・週に2~4人前・週に5~6人前・毎日・日に2人前以上)
5 過去1年間摂取したフルーツと野菜(めったにない/全くない・月に1~3人前・週に1人前・週に2~4人前・週に5~6人前・毎日・日に2人前以上)

 このコホートでは、繰り返し情報収集が行われた。
1 体重(8~13年目)
2 喫煙(2・5・12年目)
3 運動(3・9年目)
4 朝食時シリアル摂取(1・2・4・6・8・10年目)
5 フルーツと野菜摂取(2・4・6・8・10年目)

(4)生活様式グループの定義
 健康的生活様式要素と心不全生涯リスクの関連を調査するため、それぞれの生活様式危険因子を2分化した。
1 標準体重BMI25未満、と、体重超過または肥満BMI25以上
2 喫煙したことがない、と、喫煙したことがある
3 定期的に運動(週に5回以上)、と、まれにするまたは全くしない(週に5回未満)
4 適度な飲酒 週に5杯以上、と、週に5杯未満
5 朝食時シリアル摂取 週に1人前以上、と、全くなし
6 フルーツと野菜摂取 日に4人前以上、と、4人前未満

 各対象者は、最低0から最高6までの健康的生活様式要素点を有したが、5は397人、6は32人しかいなかったため、安定的推定値を得る目的で上位3分類を崩し、4以上というグループ設定にした。したがって、対象者は、望ましい生活様式要素の数によって、0・1・2・3・4以上の5群に分類された。

(5)統計分析
 98歳を超えて生存した人はほとんどいなかったので、生涯リスクは98歳までの間で計算した。生涯リスクは、年齢別にそれぞれの指標年齢である40歳・50歳・60歳・70歳・80歳に分けて算出した。

●結果

(1)対象者の特徴
 平均22.4年間の追跡調査期間中に5.7%1,200件の新たな心不全発症があり、23.9%4,999件の死亡が確認された。ベースライン時の健康的生活様式要素の数による分類は、以下のとおりであった。
1 0の対象者1,199人
2 1の対象者4,414人
3 2の対象者6,922人
4 3の対象者5,747人
5 4以上の対象者2,618人

(2)心不全生涯リスク
 全体として、心不全生涯リスクは40歳時に13.8%(信頼区間 95% 12.9~14.7%)となり50歳時13.8%(信頼区間 95% 12.8~14.8%)、60歳時13.8%(信頼区間 95% 12.8~14.8%)、70歳時13.1%(信頼区間 95% 12.1~14.1%)と、そのまま変わらなかったが、80歳時では10.6%(信頼区間 95% 9.4~11.7%)となった。高血圧の人と高血圧ではない人で比較すると、予想通り、高血圧の人の方が2~4%心不全生涯リスクが高くなった。

(3)生活様式要素と心不全生涯リスク
 標準体重、喫煙しないこと、定期的な運動、適度なアルコール摂取、朝食時シリアル摂取、フルーツと野菜の摂取は、独立して心不全生涯リスク低下と関連があった。健康的生活様式要素の数と心不全生涯リスクとの間には、負の段階的相関があった。例えば、望ましい生活様式要素に全くこだわっていない群では心不全生涯リスクがおよそ5人に1人の割合、21.2%(信頼区間 95% 16.8~25.6%)であったのに対し、健康的生活様式要素4以上の群では10人に1人の割合、10.1%(信頼区間 95% 7.9~12.3%)であった。

●考察

 健康な男性医師で構成された本コホートにおいては、心不全生涯リスクが40歳時・50歳時・60歳時・70歳時で7人に1人の割合であることが分かった。教育レベルや社会経済的状況が均一であるということはあるが、それでも健康的生活様式が心不全生涯リスクと関連あることを特筆する。

 変更可能な生活様式要素が心不全生涯リスクに与える影響を大規模コホートで検証したのは本研究が最初であり、健康的生活様式要素にこだわらなければ心不全生涯リスクは22%になるということは注目に値する。健康的生活様式要素にこだわる男性において心不全生涯リスクが低かったという結果は、予防戦略の中にこれらの行動を組み入れることが個人においても集団においても必要となるということである。

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