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メディアの情報 どこまで正しい?
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たとえ話です。富士山に数えきれないほど登ったことのあるAさんと、数回だけ登ったことのあるBさん、そして登ったことのないCさんがいます。
個人のキャラクターを考慮に入れないとすると、富士登山の魅力を最も上手に伝えられるのは、Aさんと思われます。Cさんは論外ですし、Aさんなら、Bさんの知らなかった、あるいは気づかなかったような細かい話をすることもできるはずです。
しかし現実にはキャラクターに違いがあるので、Cさんが聴き上手、話し上手で、しかもサービス精神旺盛だった場合、Aさんから細かい話を色々と聴いて、さも自分で見てきたかのように、登った経験のない人々に面白く話せる可能性はあります。
ただし、その話をBさんが聞いて面白いと思うかは微妙です。
何しろCさん登ったことがないわけですから、面白い話そのものを聴き取るだけでなく、その話が一体どこでどういう状況で起きたことなのか、全体の中でどういう位置づけになるのか、常にAさんに確認しないと、枝葉の話を核心であるかのように勘違いしてしまう可能性が高いのです。そして、そのまま誰かに話してしまうかもしれません。
経験者のBさんがその話を聴けば、たしかにそういう所もあるんだね、でも他にも大事な所はあるよね、とCさんの話を相対化できることでしょう。でも未経験者が、Cさんの話だけで富士登山の想像をしてしまったら、現実とかけ離れたものになるに違いありません。行ってみてビックリ。百聞は一見に如かずだなと実感するはずです。
現在のマスメディアは、このCさんに、かなり近いものがあります。経験したことはないんだけれど、大勢が直接話を聴くことは難しいAさんの所へ行って、代わって大勢へ伝えるようなことをしています。
必ず存在する取捨選択と編集
Cさんのような素人が報じているんだということに多くの人が気づかないのは、表面上はAさんのような専門家が登場したりコメントしたりしているからです。
しかし現実には、世の中に無数にある出来事の中から何を報じるか選ぶのも、その出来事にまつわる情報の中から何を抽出して示すか(専門家として誰を登場させるか)選ぶのも、一般的に主導権はメディア側にあります。
もちろん、取材される側が主体性を持って関与している場合はありますし、メディア側にBさんのような素地を持つ人が入っている場合もありますし、メディア側が素人ながら枝葉ではなく核心・幹をきちんと抽出している場合もあります(それが社会一般で考えられているジャーナリスト像でしょう)。しかし、枝葉を面白おかしく伝えているだけという例も少なくありません。残念なことに、その情報が枝葉なのか幹なのか見分けるのは、受け手側に素地がないと困難です。
医療の場合、特に体系立たない枝葉の情報を報じられていることが多いかもしれません。
よく報じられるのは、有名人ががんになったとか、数十年後に実際の医療で使われるかもしれないような新しい研究成果が発表されたとか、はたまた事件に何かの病気が絡んでいたというようなことです。多くの人が受けている普通の治療や標準的な治療のことは、あまり報道されません。
これが医療者にとっての違和感の背景にあります。健康や命に関するものなので、たとえ枝葉であっても、一般市民からすると他分野の情報に比べれば面白く刺激的になりやすいことでしょう。