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耳は、聴力だけでなく平衡感覚も司ってます

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大人が受けたい今どきの保健理科16

吉田のりまき

薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰

 乗物酔いは、脳が混乱した時に生じる現象です。脳は複数のルートで体の器官から情報を受け取っており、時に矛盾する情報を受け取ると情報処理に手間取って気分が悪くなってしまうのです。

 カギを握っているのが耳なのですが、聴覚以外の働きについて義務教育で学習する機会は残念ながらほとんどなく、大人になってから自分で学習することになります。その際、物理的な基礎知識が必要なこともたくさんあります。

体の動きのセンサー

 バスに乗っている時、車内で眼に入ってくる光景は、自分と同じようにじっとしている人の姿です。外の景色は、映像のように流れて見えています。そのため自分が動いているという意識は全くなく、脳に対しても動いていないという情報を伝えています。

 一方で脳は、体に伝わったバスの動きなどから、自分が動いているという情報も受け取っています。矛盾する情報が脳に同時に届くため、脳はその情報処理に手間取って混乱を来します。そして自律神経が乱れ、気分が悪くなってしまうのです。

 さて、体にバスの動きは、どのように伝わっているのでしょうか。ここで、仮に眼をつぶってバスに乗ったとしましょう。皆さんは、眼からの情報がなくても、バスが発車したり、停車したりすることは、分かりますよね。足の裏にかかる圧力やちょっとした筋肉の動きなどを感じることでしょう。

 しかし、それだけではないはずです。カーブで体が大きく傾いた時は、自然と体のバランスを保っています。また、スピードが上がっていく時は、加速されていることを体感しています。このように、バスに合わせて体は自然と反応して動き、その一部始終が情報として脳に伝えられているのです。

 その自然な動きを脳に伝えているのが耳です。耳は音を聞くだけではなく、体の動きや平衡感覚を脳に伝える器官でもあるのです。

耳の3次元座標軸

 耳には、鼓膜があります。鼓膜より内側は内耳と呼ばれます。内耳には体の中で一番小さい骨である耳小骨があり、蝸牛の形をした渦巻管に接しています。渦巻管の中は液体が入っていて、鼓膜の振動が耳小骨から伝わると、その液体を揺らします。その揺れが電気信号に変わって神経を伝わり脳に届きます。これが音の伝わる仕組みです。

 さらに、内耳には渦巻管の上側に三半規管や前庭と呼ばれる部分があり、体の平衡感覚をキャッチしています。

 三半規管はとてもユニークな形をした骨です。三つの小さな環(半規管)があり、一つは縦に、一つは横に、一つは平たく寝た状態にとそれぞれ直交しています。この3方向は、数学や物理で出てくるx軸、y軸、z軸に相当します。それぞれの半規管でどれくらいの変化があったのか感知、それを脳が統合して、3次元でどちらの方向にどれくらい体が動いたか判断しています。

 ではどうやって三半規管は動きを感知しているのでしょう。

 体が動いたということは、何らかの力が体に加わったということでもあります。中学理科で学習した力の分解を覚えていらっしゃるでしょうか。その原理で、体に加わった力を3方向の分力にして捉えているのが三半規管です。

 半規管の中はリンパ液で満たされていて、その中にクプラという帽子状のゼラチンが、まるでアドバルーンのように漂っています。アドバルーンは強い風が吹くと風下のほうに大きく動きますが、弱い風だと少したなびくだけです。同様にクプラも、リンパ液が動くとその流れに合わせて動くようになっています。

 クプラの下には細かい毛(感覚毛)をもつ有毛細胞があります。クプラの動きに伴って毛が動き曲げられるので、この曲がり具合が信号となって脳に伝わっていくのです。

石が傾きを感知

 脳が体の動きを知るためには、このような三半規管からの情報だけではまだ足りません。体の傾き加減の情報も必要です。

 その傾き具合を感知しているのが、三半規管の付け根にある前庭という部分です。前庭には「卵形のう」と「球形のう」という二つの部分があり、前者が水平方向の傾きを、後者が垂直方向の傾きを感知しています。

 前庭では、感覚毛の上にやわらかいゼリー状の物質が載っています。そのゼリー状の物質の上部に、ゼリー状の物質に包まれるような格好で小さな石(耳石)がたくさん載っています。体が傾くとこれらの耳石が重力によってずり落ちるように移動します。その移動とともにゼリー状の物資も一緒に動き、ゼリー状の物質の下にある感覚毛が曲がります。この曲り具合が信号となって脳に伝わっていくのです。

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