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睡眠のリテラシー71

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

高橋正也 独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 産業疫学研究グループ部長

 我が国の働く女性は、働く男性より5分早く床に入り、20分早く床から離れます。こうした違いに生物学的な性差が関わっていると証明するのは簡単ではありません。勤め先の事情や家族の状況など、それ以外の多くの要因が関わるからです。

 そこで実験室での研究が行われます。実験条件をどのように設定するかによって、結果は大きく変わります。特に、微妙な差を調べる時には注意が必要です。

 最近の研究によれば、体内時計は24時間と10分程度かかって一回りします。外界は24時間で一回りするので、それに合わせるために約10分を毎日補正しています。もし外界が20時間や28時間のように4時間もずれて一回りするとしたら、体内時計はそれに合わせられず、時計そのものの進み方が現れるようになります。

 こうした特性を利用して、体内時計の男女差を調べる研究が米国で行われました。実際には、数週間に渡って1日を20時間より短く、または28時間より長くした実験のデータを再解析しました。対象は健康な男性105人と女性52人でした。年齢は18歳から74歳に及びました。

 これらの実験では、1日の中で3分の1は睡眠に、残る3分の2は覚醒に充てました。28時間の場合、約9時間の睡眠をとり、約19時間は起きて過ごすことになります。実験中はすべて薄暗い照明の下で暮らしました。

 データを詳しく分析したところ、女性の体内時計は24時間5分で一回りしたのに対して、男性では24時間11分でした。つまり、女性の方が6分早かったわけです。さらに、24時間より短い体内時計を持つ割合は女性で2割ほど多いことも分かりました。

 このような差が実際の生活ではどのような意味を持つかを知るのは重要です。徹夜に対する強さを男女で比べた複数の実験研究で、夜間のパフォーマンスは、女性でより大きく下がりました。勤務スケジュールの長年に渡る変化を捉えた調査によれば、日勤だけの勤務から夜勤など日勤ではない勤務に移ると、仕事中のケガは男女とも増えました。日勤以外の勤務で働き続けた群をみると、男性ではケガは増えませんでしたが、女性では増えることが分かりました。

 女性は早寝早起きで、夜はやや苦手かもしれないという特徴には、どのような背景が考えられるでしょうか。太古の昔、もしかしたら女性は夕食が済んだ後、子供と一緒に早めに床に就き、翌朝は男性より早く起きて、色々な仕事をしていたのかもしれません。そのような歴史が脳(体内時計)の中に残っているように見えます。

 今の社会では、病院の看護師、老人ホームの介護士、深夜営業レストランの店員など、夜に働く女性は多数います。厚生労働省の調査でも、夜勤者の割合は男女でほぼ同じです(24%と19%)。男女平等という原則は守るとしても、性別による違いを考慮した工夫や対策はこれから求められていくでしょう。

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