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睡眠のリテラシー65

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

高橋正也 独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 産業疫学研究グループ部長

 ウキウキしながら旅行に行っているのに、移動の途中で交通事故に遭ったら一大事です。大ケガをしたら、体と心の回復に時間がかかります。まして、命を失うことになれば、家族や周りの方々の悲しみは計り知れません。

 4年前のゴールデンウィークに関越自動車道で高速ツアーバスの重大事故が起こりました。時刻は午前4時40分で、死亡者は7名、重軽傷者は39名に上りました。このバスの運転手は約十年の懲役と罰金二百万円の実刑判決を受けました。この事故の後、次の事故を防ごうと政府や業界はかなり努力してきました。

 にもかかわらず、また大きな事故が起きました。今年の1月中旬に軽井沢の国道でスキーバスが反対車線を越えて道路から落ち、立ち木に衝突しました。バスは大破し、15名が亡くなり、26名が重軽傷を負いました。時刻は午前2時より少し前でした。

 関越自動車道の事故とは違って、運転手(交代要員を含む2名)が亡くなっています。このため、事故前の状況に関する情報が乏しく、4カ月ほど経っているのに事故の原因が定まっていません。

 今のところ、①車体に何らかの問題があった、②スピードを出し過ぎた(減速できなかった)、③運転操作にミスがあった、④運転手は大型バスの運転に習熟していなかった、⑤60歳代であった運転手には過労があったなど、いくつもの意見が出されています。

 2つの大きな事故に共通しているのは深夜に起きたことです。夜間、特に午前2時から4時の間は死に至るような自動車事故が約3倍多くなる時間帯として知られています。このような「魔」の時間帯に仕事で運転しなければならないとしたら、どのように対処したらよいでしょう。

 何より、午前2時から4時頃の運転は危ないと、運転手も事業所も心底から認識すべきです。体内時計からは「眠りなさい」という指令が出されているので、眠くなるのが当然なわけです。それに抗って正常に運転するには、特別な準備をしないといけないとなるはずです。

 深夜の運転の前には、できるだけ睡眠をとっておく必要があります。このように眠りの貯金をしておくと、睡眠を削らざるを得ない時を乗り切れます。また、連続して起きている時間がしばらく途切れることによって、起きている時に蓄積する睡眠物質が少なくなります。結果として、睡魔に負けにくくなります。

 観光バスでは難しいかもしれませんが、事情が許せば、休憩時に短い仮眠をとるのが有効です。脳にとって最良の回復になります。

 万全に準備したとしても、予期せず体調が悪くなったり、車体や部品が壊れたりするかもしれません。であれば、例えば、バスがガードレールにぶつかるなど普通ではあり得ない衝撃を感知したら、自動でブレーキがかかるような装置も求められます。

 いずれにしても、同じような事故をいかに防ぐかが、私たちの課題になっています。

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