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"太りにくい野菜"を意識してたくさん食べよう
「肥満の予防のために、野菜をたくさん食べましょう」、という言葉はよく耳にしますよね。でも、具体的にどの野菜がいいのでしょう? また、「果物は好きだけど、太りそうだからあまり食べない」、という方はいませんか? 本当に果物は太るのでしょうか? このような素朴な疑問の答えが、医学雑誌「PLOS Medicine」に報告されましたのでご紹介します。
大西睦子の健康論文ピックアップ114
大西睦子 内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。著書に「カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側 」(ダイヤモンド社)。
大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートと編集は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。
GI値より「グリセミック負荷」が重要
米国農務省(USDA:United States Department of Agriculture)と米国保健福祉省(HHS:United States Department of Health and Human Services)が発表している「米国人のための食生活指針」では、様々な果物や野菜を食べることが推奨されていますが、種類による詳細は示されていません。しかしながら果物や野菜と一口に言っても、種類ごとに栄養組成は大きく違います。多かれ少なかれ、目標体重の達成・維持に有利なもの、不利なものがありそうなものです。これについてハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T. H. Chan School of Public Health)の研究者たちが調査し、2015年9月22日付の医学雑誌「PLOS Medicine」報告しました。
研究者たちは、野菜や果物の中でも、食物繊維を多く含み、グリセミック負荷(glycemic-load:GL値)の低い食品を多く摂取することが、より健康的な体重維持に繋がると仮説を立てました。
GL値とは何でしょうか? 近年話題のグリセミック指数(glycemic-index:GI値)とは何がちがうのでしょうか。どちらも、ある食品がどれくらい血糖値に影響するかという指標です。
イリノイ大学によると、GI値は、食品を摂取した後2時間以内の最高血糖値の程度によって、0〜100の指数で食をランク付けしたものです。ただしGI値は、炭水化物50g相当量の食品を摂取した場合の数値であって、私たちが日常的に摂取する食事の量に基づくものではありません。例えば、炭水化物50gを含むパスタは大体1カップを若干上回る量ですので、一食分の摂取量として妥当ですが、ベビーキャロットでは炭水化物50g相当と言うと7カップ分にも相当します。7カップ分のベビーキャロットを一度に食べることは、普通ありませんよね。
そこで、より実用的な指標として、今回の論文でも使用されているGL値をハーバード大学公衆衛生大学院が提唱しました。GL値は、GI値に一食分の食品に含まれる炭水化物の量を考慮したもので、以下の計算式で算出されます。
GL値= GI値×含まれる炭水化物の量÷100
一般に、GL値は以下のレベルに分類して考えることができます。
低=10以下
中=11-19
高=20以上
身近な果物で具体的に考えてみましょう。シドニー大学の報告によると、スイカのGI値は72、バナナは62です。この数字だけを見ると、スイカはバナナに比べて血糖値が上がりやすいように見えます。ところが実際には、スイカ一食分120gは、バナナ一食分120gと比べて水分が多く、炭水化物の量は少なめです。そこで実際に含まれる炭水化物の量も考慮したGL値で比較すると、スイカのグリセミック負荷は4、バナナは16となり、バナナの方が血糖値を上げやすいことが分かります。
http://care.diabetesjournals.org/content/31/12/2281
http://www.health.harvard.edu/healthy-eating/glycemic_index_and_glycemic_load_for_100_foods
総じて野菜も果物も減量に役立つ
さて今回の研究では、特定の果物や野菜の摂取量の変化と、体重の変化の関係が、ハーバード大学公衆衛生大学院の推進した3つの大規模疫学調査に基づいて検討されました。
1)米11州の女性看護師12万1701人(30〜55歳)を対象とした「Nurses' Health Study」(NHS)
2)米50州の男性医療従事者5万1529人(40〜75歳)を対象にした「Health Professionals Follow-up Study」(HPFS)
3)米14州の女性看護師11万6686人(25〜42歳)を対象とした「Nurses' Health Study II」(NHS II)
3つの大規模疫学調査の参加者のうち、計13万3468人が、今回の研究の対象となりました。NHSおよびHPFSは1986~2010年の24年間で4年ごとに計6回、NHS IIは、1991~2007年の16年間で4年ごとに計4回、野菜や果物を含む131食品に関するアンケートをそれぞれ実施し、食事の評価をしました。研究者たちは今回、野菜や果物を、食物繊維の含有が多いものと少ないもの、血糖負荷の高いもの低いものに分けて分析しました。さらに果物のうち柑橘類(生あるいはジュースのオレンジとグレープフルーツ)、メロン類(赤肉メロン、スイカ)とベリー類(イチゴ、ブルーベリー)について、野菜はアブラナ科野菜(ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、芽キャベツ)、葉物野菜(ケール、スイスチャード、ホウレンソウ、レタス、ロメインレタス)と豆類(エンドウ豆、インゲン豆、レンズ豆、ライ豆、大豆、豆腐)について特に分類して分析しました。体重の変化については自己申告に基づき、解析の過程で喫煙や運動など食事以外の複数の因子について調整を加えました。
調査開始時の平均年齢と平均BMI、さらに4年ごとの体重変化の平均値は、それぞれ以下の通りでした。
1) HPFS:47歳、25.1 kg/m2、+0.95kg
2) NHS:49歳、24.7 kg/m2、+1.27kg
3) NHS II:36 歳、24.2 kg/m2、+2.27kg
3つの調査の参加者は皆、様々な野菜・果物を摂取していました。共通して言えるのは、野菜も果物も摂取量が増えるほど体重の変化が少なかったということです。4年間、野菜を毎日一人前摂取すると、体重の変化は、平均−0.11kg、果物では平均−0.24kgでした。
食物繊維多く糖質の少ない野菜を選ぶ
野菜の分類ごとに検証すると、アブラナ科野菜や葉物野菜の摂取量が多いほど体重の変化は抑えられました。4年間、アブラナ科野菜を毎日一人前摂取すると体重の変化は平均−0.31kg、葉物野菜では平均−0.24kgでした。一方、野菜を個別にみると、特に豆や豆腐一人前で体重変化は平均−1.12kg、カリフラワーでは平均−0.62kgと、体重維持効果が高い結果でした。
食物繊維の少ない野菜の摂取は、体重維持(−0.13 kg)に繋がっていました。食物繊維を多く含む野菜の摂取は、全体としては体重の変化に関与しませんでしたが、ジャガイモを除外すると、食物繊維を多く含む野菜も体重維持(−0.09 kg)が確認できました。
食物繊維以上に体重変化に関与していたのは、GL値でした。GL値の高い野菜(ニンジン、キャベツ、カボチャ、炒めたミックスベジタブル、多くの豆類、トウモロコシ、ジャガイモ)の摂取を一日あたり一食分増やしても体重変化には関係がありませんでしたが、GL値の低い野菜(ピーマン、セロリ、カリフラワー、葉物野菜、サヤインゲン、ナス、ズッキーニ、タマネギ、トマト、ブロッコリー、芽キャベツなど)の摂取が多いほど体重維持できる傾向(−0.15 kg)が見られました。なお、ブロッコリーや芽キャベツなど食物繊維が豊富でGL値の低い野菜は、ニンジンやキャベツなど食物繊維の割にGL値の高い野菜と比べ、大きな体重減少が見られました。
実際、GL値の高い野菜のうち、トウモロコシ、エンドウ豆、ジャガイモなどの、特にデンプン(糖質)の多い野菜に限って見ると、その摂取量が多いほど体重は増加していました。例えば、焼いたり茹でたりしたジャガイモあるいはマッシュポテトの一日あたり追加の摂取量が増えるごとに、4年間で平均0.33kg、エンドウ豆は平均0.51kg、トウモロコシは平均0.93kg、体重が増えていました。
一方、果物の分類ごとの評価では、ベリー類一人前を4年間毎日摂取すると平均−0.5kg、柑橘類では平均−0.12kg、と体重維持に効果が見られました。果物を個別に見ると、ブルーベリー、プルーン、リンゴやナシ、レーズンあるいはブドウ、そしてグレープフルーツの摂取量が多いほど体重の変化は抑えられました。食物繊維が少なくGL値の高い果物(平均−0.25kg)の摂取と、食物繊維が多くGL値の低い果物(平均−0.18kg)の摂取に関しては、体重変化は同程度でした。
以上より、今回の調査では、果物やデンプン含有量の少ない野菜を多く摂ると健康的な体重の維持に繋がることが明らかになりました。特に野菜の場合、食物繊維を多く含みGL値の低い種類を多く摂取することが、より健康的な体重に関与するとの仮説は正しかったと言えます。特筆するなら、今回の調査では、カロリーを揃えた上での比較はしていません。というのも、野菜や果物を摂る利点は、少ないカロリーでも満足感が得られるところにもあるからです。人は食生活を変える時に、ある食品を別の食品に置き換えがちですが、野菜や果物に関しては、何かと置き換えるのでなく1品2品と加えても、今回の結論は維持できるでしょう。
ただし、今回検証された3つの疫学調査の参加者はほとんどが高学歴の白人の成人でしたので、アジア人などについても一般化できるとは限りません。また自己申告の食事アンケートに基づいていますから、実際の摂取量との誤差が大きい場合も考えられます。一方、この研究の強みは、サンプル数が多く、長期の観察であり、3つの疫学調査を通じて一貫性のある結果が得られたことです。
総合的に勘案して、私は信頼性の高い研究だと思います。今回の論文に紹介されている、野菜や果物のGL値と食物繊維の高低別の分類を表にしました。普段の食事の中で、野菜や果物を選ぶときの参考にして下さい。