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何を食べればいいの? ~その5~
これから夏本番、飲める人にとってはますますビールのおいしい季節ですね。「酒は百薬の長」とも言いますが、飲めない人には「百害あって一利なし」かも知れません。飲める人でも「過ぎたるは及ばざるが如し」。気をつけるべきことを知って、上手に飲んで、ぜひ「百薬」としたいものですね。
大西睦子の健康論文ピックアップ46
大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。
ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。
「何を食べればいいの?」、今回はアルコールがテーマです。
What Should I Eat?
The Nutrition Source /Harvard School of Public Health
まずはあらためてダイエット10か条をおさらいしておきましょう。
1) 質のいい炭水化物を選ぶ
2) いろいろな種類のタンパク質を食べる
3) ヘルシーなオイルを選ぶ
4) 食物繊維をたくさん食べる
5) さまざまな色(緑、黄、赤、橙)の野菜や果物を食べる
6) 減塩〜加工食品ではなく、フレッシュな素材がコツ!
7) カルシウムを摂取する
8) 何を飲むべきか考える
9) 適度な飲酒は健康的、でもあなたは違うかも
10) 総合ビタミン剤の活用
それでは 9)の「適度な飲酒は健康的、でもあなたは違うかも」を解説していきますね。
まず、皆さんは「適度の飲酒は健康に良い」という話を聞いたことありません
か? かなり良く知られた通説となっていますよね。でも「適度」って具体的にどのくらいで、それにどう「健康に良い」のでしょうか?
まず、「適度」な量を知るために、「基準飲酒量、ドリンク」という表示をご説明します。飲酒量を、アルコールの種類にかかわらず、純粋なアルコール量に換算して表示します。その基準量が、「基準飲酒量、ドリンク」となり、国によって量が異なります。アメリカでは、1ドリンク=14g(ビール約355ml程)としています。英国8g、フランス12g、オーストリア6g、イタリア10gですが、何と日本の基準はダントツに高く、20g(ビール約500ml程)としています。そこで最近は、1ドリンク=10gという基準が提案されています。
厚生労働省が推進する「健康日本 21」※1では、適度な飲酒は、 1日平均アルコール量1ドリンク(日本の)約20g程度とされています。日本酒なら1合弱(170ml)、焼酎0.6合(100ml)、ウイスキーやブランデーならシングル1 杯(60ml)、ワイングラス1.5杯 (180ml)、となります。適度な量のアルコールなら、種類を問わず、同じメリットを得られるようです。アメリカの飲酒のガイドラインは、女性14g(アメリカの1ドリンク)、男性28g(アメリカの2ドリンク)までです。
適量を守って上手に飲めば、確かに飲酒は心血管疾患の予防効果があるともされています。
しかし一方で飲酒は、アルコールが通過する部位(口腔、咽頭、食道など)のがんや、アルコールの分解をする臓器(肝臓)、他にも乳がん、大腸がんなどのがんのリスクを上げると言われています。
●アルコールと乳がん:
米国の疫学研究では、エタノール※2量が10g増加するたびに、乳がんのリスクが7〜10%増加しました。具体的には、飲まない人に比べ、一日1ドリンク飲む人は、乳がんになるリスクがやや高まり、毎日2〜5ドリンク飲む人は、飲まない人に比べて、乳がんリスクは1.5倍になります。日本女性の疫学研究では、乳がんとアルコールの関係ははっきりしていません。とはいっても、最近は飲酒をされる女性も増えていますし、注意が必要でしょう。なぜアルコールが乳がんのリスクを高めるのか、原因は不明ですが、アルコールのエストロゲン※3への作用が考えられています。
●アルコールと大腸がん:
米国の疫学調査では、大腸がんはエタノール換算毎日30g以上飲んだ人は、飲まなかった人に比べて、23%高くなりました。さらに、日本人では欧米人よりも若干リスクが高めになります。
こうした飲酒の長所と短所を踏まえた上で、バランスをどのように考えればいいのでしょうか?
1)飲むべきでない人
●アルコールを飲めない人、飲まない人:
アルコールの利点のために、わざわざ飲酒を始める必要はありません。特に、日本人は欧米人に比べ、遺伝的にアルコールに弱い人が多いことが言われています。心血管疾患の予防には、飲酒だけではなく適度な運動や健康的な食事(質のいい炭水化物、ヘルシーなオイル等)など、別の方法がたくさんあります。
●普段飲み過ぎている人:
がん、心臓病、肝硬変※4やアルコール依存症※5などのリスクがあります。アルコールを減らすか、止めましょう。
●妊婦:
胎児の発育遅滞や器官形成不全などを引き起こす可能性がありますので、アルコールは避けるべきです。
●その他:
アルコール依存症から回復中の人、その家族歴のある方、肝疾患の方、アルコールと相互作用がある薬を服用しているなどの方は、飲酒の利益よりリスクが高まります。
2)普段から適度にアルコールを飲む人:
●適量:
上でご紹介した基準を守るよう心がけてください。
●ビール?ワイン?:
約200年前、アイルランドの医師は、胸痛(狭心症)※6が、アイルランド人よりもフランス人において、はるかに少ないことを指摘しました。「フランス人は、バターとチーズなど飽和脂肪酸をたっぷり含んだ食事をしていても、心臓病になるリスクが比較的低い」のです。これは「フレンチパラドックス」として知られるようになりました。彼は、その理由は、フランス人の生活習慣によると考えました。そして後に、「フランス人はポリフェノールを含む赤ワインをたくさん飲むから心臓病リスクが低下する」と信じられ、一時期赤ワインが異常に売れました。ところが、「フランス人の心疾患を過小評価している(実際にはもっと深刻である)」「フランス南部では、他の地中海沿岸領域と同じく伝統的かつ健康的な生活スタイルであり、米国人より食事の摂取量が少ない」など赤ワインの効能に疑問が示されました。現在では、アルコールの種類より量が心血管疾患の予防効果に関与すると考えられています。
●葉酸(ビタミンB9):
アルコールを飲むと、ビタミンB群の一種である葉酸※7が不足します。 葉酸が欠乏すると、大腸がんや乳がんのリスクが増加するという報告もあります。アルコールをよく飲む人は葉酸を不足しがちなので、食事で補う必要があります。成人が1日に必要とする葉酸の摂取量は、200μgとされています。定期的にアルコールを飲む人は葉酸を積極的に摂取する必要がありますが、食事から摂取するのが理想的です。果物や野菜のほか、未精製の全粒穀物、豆など、葉酸の優れた供給源となる食品は数多くあります。
また、妊娠の可能性があったり、妊娠を計画している女性は、 1日あたり400μgの葉酸が必要になります。葉酸は胎児の神経系や脳の発達に重要な役割を果たしているからです。受精後1~2週間目にはもう赤ちゃんの中枢神経ができ始めますので、葉酸摂取のタイミングは非常に重要です。妊娠を計画している段階で葉酸の摂取を心がけて下さい。サプリメントの使用の賛否は、葉酸を過剰に摂取する可能性から、激しい議論が行われています。現段階では、典型的なマルチビタミンのサプリメントに含まれる葉酸の量であれば、害を引き起こさないと考えられています。
アルコールは生活に楽しみや潤いを与えてくれます。ただし、飲み過ぎは健康に害となりますし、依存症に陥る可能性がありますので、くれぐれも注意して下さいネ。