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AEDを理解して気負わず慌てずに

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大人が受けたい今どきの保健理科21

吉田のりまき

薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰

 今や、中学保健の教科書に必ず登場しているAED。

 知っていますか、と訊いてみると、大抵は、倒れている人に使う物で、スイッチを入れると電気ショックを与えて人命を救う機器である、という答えが返ってきます。装置の現物を街のあちらこちらで見かけますし、AEDのお蔭で命が助かったというニュースもよく見聞きされるので、どういうものなのかは多くの方がご存じのようです。

心電図で細動を確認

 ところが重ねて、自信を持って使えますかと尋ねると、いくら人命救助とはいえ、大量の電流を流すボタンを、医師でもない自分が押してしまって大丈夫なのだろうかと不安に感じ、躊躇してしまうという人がほとんどです。

 大人の皆さんがAEDの使い方を学習する機会は、なかなかありませんし、「電気ショック」という言葉から受ける印象もあるのでしょう。身構えてしまうんですね。

 しかし、人命救助は1分1秒を争います。無駄に躊躇してしまうことのないよう、そして気負わず慌てず行動できるよう、AEDのことを、もう少し深く理解しましょう。

 AEDは、日本語の正式名称で自動体外式除細動器といいます。自動的に体外で除細動する装置ということです。除細動だけが少し難しい言葉ですね。

 心臓は一定のリズムで収縮を繰り返していますが、そのリズムがなくなって小刻みに動いているだけの状態が細動です。この細動を除くのが除細動、ということになります。

 心臓については中学理科で学習します。右心房、左心房、右心室、左心室の4つの部屋に分かれていて、筋肉が収縮することでポンプのように働き、血液は右心房→右心室→肺→左心房→左心室→全身→右心房と巡っていきます。何らかの理由で心室が細動を起こすと、ポンプの機能を果たせず、血液が心臓から送り出されなくなります。

 AEDは、この細動が起こっている時、心臓に電気ショックを与え本来のリズムを取り戻させるのです。

 この電気ショックの部分にばかり着目してしまうと、自分の判断が間違っていて電気ショックを与える必要のない人に与えてしまったらどうしよう、と思うようです。

 しかし、AEDはスイッチを押しても、いきなりは電気ショックを与えません。電気ショックを与えるべきかどうか判断するため、最初は心電図を取るのです。つまり皆さんの最初の役割は、検査技師の代役です。人命救助の第一歩の検査だと思えば、スイッチを入れて作動させる恐怖は緩和されますよね。

 細動を起こしている心臓は静止しているわけではありませんが、そのままにしておくと心静止になります。そこで、一刻も早くAEDで処置をして、細動のうちに何とかすることが重要になってくるのです。ちなみにAEDは心静止と判断した場合には、作動しないようになっています。

 実は、生体内には電流が生じています。心電図以外に脳波や筋電図を取ったことがある人もいらっしゃると思います。あれは生体内に流れる電流を計測しているのです。ところが、中学理科でも保健でも、体の中の電流については学習しません。電流が生じる仕組みなどの説明は確かに難しいのですが、電流が生じていてそれを計測していることくらいは教えておいてほしいなと思います。AEDの話をする時でも、電流を拾って異常かどうか判断してくれるからAEDに任せておけば大丈夫、安心してAEDを持ってきて、機器に言われるまま行えばよいよ、と伝えることができます。

脈がない、呼吸がない

 スイッチを入れるのに抵抗がなくなったところで、どんな時にAEDを持ってくればよいかも改めて確認しておきましょう。

 皆さんは自分で手首の脈拍を測定したことがあると思います。脈を打つのは心臓が一定のリズムで収縮しているからです。しかし、細動の時はリズムがなく脈も打ちません。したがって、人が倒れていても、呼びかけて反応があったり、脈があったりする場合は、細動ではないのでAEDを使用しません。

 つまり、呼吸がなく、脈も感じられない場合に、AEDを持ってきて検査してもらい、必要であればAEDに処置をしてもらうという考え方なのです。心静止になってしまうまでの短い期間内で行う必要があるため、近くに居合わせた市民の手を借りる必要があります。

 使命感が強い人ほど、自分が処置するのだとの意識が強くなりがちですが、皆さんも身構え過ぎて躊躇するのではなく、むしろ細動を早期に発見しようと思ってAEDを使用していただければよいのではないでしょうか。かく言う私もまだ使ったことはないので偉そうなことは言えませんが、そう思って自分にできることを慌てずにしようと考えています。

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