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いつ摂るべき? 筋トレ効果を上げるプロテイン
筋肉を増強したい、そう思ったらトレーニングだけでなく、十分な栄養補給が大切ですよね。特に、タンパク質をたくさん摂らないと、というイメージがあります。袋入りのプロテイン粉末は街のドラッグストアなどでも簡単に手に入りますが、いったいいつ飲むのが効果的なのでしょうか。
大西睦子の健康論文ピックアップ59
大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。
ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。
「もし筋肉をつけたいのなら、まず筋トレをして、そしてプロテイン(タンパク質)を補充しなさい!」という話を聞いたことはありませんか?
確かに、トレーニング前後に正しい栄養を補給することは、パフォーマンスの向上や疲労回復などために、とても大切ですよね。でも、そもそも筋肉を増やすために、筋トレ後にプロテインなどを摂取する必要性があるのでしょうか?
理論的には、トレーニング後になるべく早く、少なくとも30分以内)に補給することによって、より速く疲労が回復し、より多くの筋肉を獲得できることが報告されています。この時間帯は、「アナボリックウインドウ」(Anabolic Window, 直訳:同化の窓)とも呼ばれ、トレーニング直後の、筋肉の成長を最大限に促進するごく限られた時間帯とされています。いわば筋肉増強のための"ゴールデンタイム"です。
これについて、Alan Aragon博士とBrad Schoenfeld博士が、筋トレ後に筋肉をつけるための栄養補給に関する最近の知見をまとめて報告しましたので、ご紹介いたします。
●まず、筋肉を増やすために、筋トレ後に栄養補給をする理由は以下のとおりです。
1.筋グリコーゲンを補充する
グリコーゲン※1は、私たちの体のエネルギーを一時的に保存しておくための炭水化物で、必要な時にグリコーゲンをグルコース※2に変換します。ですから、トレーニングにおいて、筋のグリコーゲンが少ないと、筋肉の成長に悪影響を及ぼします。トレーニング後は、筋肉のグルコースは、グリコーゲンにより変換されやすい状態にあります。したがって、トレーニング約1〜2時間後に炭水化物を食べると、 グリコーゲンがはるかに速く補充され、筋肉の成長と疲労回復ができます。
2.タンパク質分解を止め、合成を刺激する
筋肉を増やしないのなら、1の炭水化物に加えて、タンパク質も重要です。タンパク質合成(アナボリック、同化)は、タンパク質分解(カタボリック、異化)を上回らなければなりません。トレーニング後は、タンパク質の代謝が増加し、筋肉のタンパク質の分解、合成は通常よりも早くなります。(タンパク質の合成--タンパク質の分解=筋肉量増/減)。理論的には、トレーニング直後にタンパク質および/または炭水化物を摂取すると、インスリン※3分泌などの作用で、筋肉のタンパク質の分解を早く抑制します。トレーニング後の筋肉の分解が少なければ、筋肉が増えます。ですから、トレーニング後、タンパク質を摂取すると、筋肉の合成が増加します。
●トレーニング直後、筋肉を増やすために、栄養補給をする必要があるのでしょうか?
実は、多くの方は、トレーニング前の最後に摂取した食事を、トレーニング後もまだ消化しています。私たちが、ふつうの食事を、トレーニングの数時間前に摂取すれば、インスリン、アミノ酸※4、グルコースのレベルは、トレーニング後の数時間は高い状態のままです。例えば、通常の食事で、食後4時間はインスリンのレベルが高く維持され、たんぱく質の分解を止めるのに十分です。ですから、一般的には、トレーニング前の食事で、トレーニング前、トレーニング直後の両方に十分な栄養があると言えます。
また、多くの研究で、トレーニング前にたんぱく質を摂取すれば、トレーニング直後、あるいは、トレーニング後数時間の筋肉の合成は、ほとんど同じと示されています。さらに、トレーニング直後の、たんぱく質の同化がどのくらい重要なのかもわかりません。なぜなら、著明な筋肉の成長は、その後に起こるからです。すなわち、たんぱく質の同化はトレーニング後、約3−4時間後に顕著に上昇し、ピークは24時間で、36−48時間後に正常化することが報告されています。ですから、私たちが通常の食事から、一日に十分なたんぱく質を摂取すれば、新しい筋肉の成長には問題はありません。
●それではどんな場合、トレーニング後にプロテインが必要なのでしょうか?
1.朝起きて、何も食べずにジムに行く人:もし、一晩絶食してトレーニングをするなら、トレーニング後、すぐにプロテインや炭水化物を摂取すると、よい結果が得られます。たんぱく質の異化は、絶食後のトレーニング後は高くなるので、トレーニング後すくに食べると、明らかに、たんぱく質の異化を減らし、筋肉の成長を促します。もし、あなたが、絶食後のトレーニング後に何も食べないと、たんぱく質異化の抑制には限界があります。絶食後のトレーニングの前に摂取すると、筋肉の成長のための遺伝子の発現によい影響を与えることも示唆されています。
2.トレーニング前の最後の食事から3−4時間以上空けてトレーニングをする人: トレーニング後の筋肉の成長のために栄養補給が必要です。通常の食事は5-6時間程度、アミノ酸のレベルを高く維持します。ですから、例えば、1時間のトレーニング後、シャワーを浴びて家に帰るまでにアミノ酸のレベルは低くなりますので、プロテインを補給するべきです。
3.一日に2回トレーニングする人:少なくとも1日2回、トレーニングを同じ筋肉群について8時間以内に行う場合です。最初のトレーニング後すぐに栄養補給をしないと、2回目のトレーニングに準備ができていない可能性があります。
4.高齢アスリートの人:いくつかの研究では、高齢のアスリートは若いアスリートとは違うという見解を示しています。高齢のアスリートが筋肉を獲得したい場合、多くの場合、若者とタンパク質摂取量と同じ量で同じくらいの筋肉を得ることはありません。これを、"アナボリック抵抗性anabolic resistance"呼びます。トレーニング後にタンパク質を摂取することで、この問題を克服することがあります。
●どのくらいのプロテインを必要としているのでしょうか?
高品質のプロテインを、除脂肪体重(lean body mass:全体重のうち体脂肪を除いた筋肉や骨、内臓などの総量)の0.4-0.5 g/kg、あるいは20-40 g、トレーニング前後に摂取するとよいでしょう。例えば、除脂肪体重が70kgの方なら、約28-35 gのプロテインが必要となります。
テキサス大学の研究者らは、以下の論文に、トレーニングに最適なプロテインとして、ホエイプロテイン※5や大豆プロテインとカゼインプロテイン※6のブレンドを推奨しています。
被験者は平素トレーニングをしていない健康な若者19人で、レッグエクステンションマシン※7を使ったトレーニングを10回×8セット行います。最初の3セットは、55%(セット1)、60%(セット2)、65%(セット3)の運動強度で、その後は70%(セット4〜8)です。被験者は、トレーニング1時間後に、ホエイプロテイン単独18g、あるいはホエイプロテイン(25%)+大豆プロテイン(25%)+カゼインプロテイン(50%)のプロテインブレンド19gの飲料を飲みました。
研究者は、被験者の筋肉から筋線維※8のサンプルを、トレーニング前後に採取します。さらに、筋線維タンパク質が合成される速度(fractional synthetic rate, FSR)を測定し、血液中のフェニルアラニン※9とBCAAs※10の濃度などを測定しました。
結果、プロテインブレンドは、ホエイプロテイン単独より筋線維タンパク質合成の増加をもたらしました。
ホエイプロテインはすぐに消化•吸収されるプロテインです。それに比べて、カゼインプロテインは、徐々に消化•吸収されますが、血液中のアミノ酸を長時間高い状態で維持できます。大豆プロテインは、ホエイプロテインより少し消化•吸収が遅くなります。ですから、プロテインブレンドは、ホエイプロテイン単独より、筋肉の成長を長時間刺激できたことが考えられます。
これらの研究成果から、トレーニング後の、"ゴールデンタイム"は意外にも広範囲で個人差があるようですネ。筋肉トレーニングを高率よくするためには、ご自分の食生活のパターンにあった栄養補給をしてみて下さいネ!