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ほめると遂行能力が向上する

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 決められた訓練を受けた後で、自分が直接ほめられた場合は、そうではなかった場合と比較して、同じ作業をする上では向上割合が高まることが分かりました。

Social Rewards Enhance Offline Improvements in Motor Skill
Sho K. Sugawara1,2, Satoshi Tanaka1,3, Shuntaro Okazaki1, Katsumi Watanabe4,5, Norihiro Sadato1
PLoS ONE 7(11): e48174. doi:10.1371/journal.pone.0048174

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 称賛は、他人の産出物や実行や特性に対する肯定的評価であり、評価者が評価の基となる基準の有効性を前提としている。称賛は、自己効力感を高め、適性や自主性の感覚をさらに高め、肯定的感覚を創り出し、反応と肯定的結果との関連を強化し、課題取り組みへの動機を与える。例えば、運動技能学習において、称賛は対象者の能力水準に対するフィードバックを与え、それが練習努力を増すための動機づけになると仮説を立てられるのである。このように、称賛は、動機を高めることにより運動技能目標達成機能を促進する。これは、運動技能が最初のうちは練習中にある動作を繰り返し実行することによって習得されるものであることから、道理に合っているのである。しかしながら、運動技能学習は強化を通じていったん練習の終了へと進展し続けるのであり、これは、技能形成と長期維持に欠かせないのである。これまで、技能強化に対する称賛の効果についての調査は存在しない。ここに、本研究では、さらなる練習を動機づけることが間接的影響を及ぼすこととは対照的に、称賛は技能強化過程に直接的に影響を及ぼすとの仮説を立てるものである。

 本研究では、称賛が与えられるタイミングと参加者のこれから先の試験に対する期待の両方をうまく操作するように設計された行動実験を通じて、仮説検証を行った。まず、訓練中の作業中遂行進歩というよりは作業をしていない時に対して称賛が与える効果を調べること。次に、24時間の保留間隔後に、すべての対象者に訓練を受けた流れの不意打ち再試験を実施した。このことは、再試験以前に対象者が身体的または精神的に訓練を受けた流れを練習する可能性を最小限に抑えることができた。このような特別な検討が、技能強化に対する称賛の直接的利益を調査することを可能にさせた。

●方法

(1)対象者
 男性39人、女性19人、合計58人の健康な志願者が参加し、平均年齢は22.6歳±標準偏差4.67であった。参加者のうち、神経疾患、精神疾患、睡眠障害を有する者は誰もおらず、誰もこれまでにピアノ演奏の訓練を受けたことはなかった。実験後の面接に基づき、訓練を受けた運動の流れを1日目の訓練終了後に身体的または精神的に練習したことから、5人が除外された。評価映像は前もって決められたものであると気づいたり疑いを持ったりしたことにより、さらに別の5人が除外された。このようにして、分析には、男性35人、女性13人、合計48人のデータが使用され、平均年齢は22.8歳±標準偏差5.17となった。

(2)実験過程
 参加者は、2日連続で実験室へ来た。すべての対象者が、1日目に連続するキーボードを叩く課題に関する訓練を受けた。対象者は、コンピューターモニター上のウェブカメラによって別室の評価者が課題実行を監視していること、訓練後に評価者が実施内容に対してコメントすることを伝えられた。しかしながら、実際には、課題実行は監視されていなかった。訓練後、すべての対象者は、例えば学習曲線のような、自分の課題実行に関する視覚的フィードバックを受けた。その後、対象者は、経験した称賛を計画的に操作するために3群に分けられた。
1 自分自身の訓練実行に評価者が称賛を与えた映像を観た対象者(Self group)
2 Self groupと同じ映像を観たが、他の対象者の評価に関する映像であることを伝えられた対象者(Other group)
3 映像を観ず、称賛の言葉も受けなかったが、学習曲線のような視覚的フィードバックは受けた対象者(No-praise group)

 対象者には知られずに、俳優が評価者を演じ、映像の内容はあらかじめ決められ録画されていた。対象者は1日目の実験終了時に、翌日に別の課題を実行することを伝えられた。

しかしながら、翌日に、すべての対象者は、訓練を受けた流れに関する不意打ち再試験を実施することになった。このことは、再試験以前に訓練を受けた流れを身体的または精神的に練習する、あるいは、特にSelf groupの対象者が2日目の課題実行により動機づけられる可能性を最小限にするために意図されたことであった。その後、称賛の操作が訓練を受けた流れの再試験成績に与える効果を調査した。

 再試験後、対象者は、訓練を受けていない流れ、無作為に配列された課題、作業記憶課題も実施した。これら追加課題は、称賛の効果が、訓練を受けた流れにおいてのみ作業をしていない間の向上が見られるのか、2日目にうまくやろうとする動機を高めるというより一般的な満足感を誘発するのかを調査するために含められたのであった。もし、称賛がSelf groupにおける一般的動機を高めるのなら、2日目におけるすべての追加課題に関する成績が、Other groupやNo-praise groupよりも優れているべきである。

(3)連続するキーボードを叩く課題
 連続するキーボードを叩く課題は、30秒間できるだけ速くできるだけ正確に利き手ではない左での指で標準的コンピューターキーボードの四つの数字キーを繰り返し押すというものだった。1日目に、対象者の半数は、流れAの訓練をし、残り半数は流れBの訓練を行った。1日目の訓練は、30秒の試験を12回、試験間に30秒の休息を入れ実施し、2日目には同じ休息間隔で5回の試験を実施した。

 キーボード操作の成績は、30秒試験ごとに正しく押された流れの数により評価された。1晩寝た後の作業をしていない間の遂行向上は、2日目の最初3回の再試験成績における、1日目の最後3回からの平均成績向上割合で決定された。

 2日目に、対象者は、1日目に流れAだった対象者は流れBという1日目に訓練を受けていなかった流れ、無作為に配列されるキーボード操作課題も実施した。両方の課題ともに、試験間休息30秒で5回の30秒試験を実施した。訓練を受けていない流れの成績は正しく押された流れの数を、無作為配列試験の成績は正しく押されたボタンの数を、いずれも5回の試験中の平均数により評価した。

(4)称賛の操作
 1日目の訓練後、Self groupとOther group対象者は、評価者が訓練実行をほめる映像を観た。生の称賛の代わりに映像を採用したのは、あらかじめ決められた映像は評価者のコメントや顔の表情・イントネーションなどの非言語的情報の変動性を完全に制御することができるからである。映像には要素が三つあり、短い導入映像が1、短い評価映像が12、それぞれの映像に対する満足割合で構成されていた。導入映像では、評価がより信頼性があり意義のあるものであるように見せるため、1人の男性が対象者に名指しで挨拶をした。短い映像は、男優と女優6人ずつによりどれも前もって録画されていた。10の映像は肯定的評価を含んでおり、評価をより予測できにくくすることによって対象者の注意力を維持するために2映像はどちらでもないものを含めた。

 評価映像では、称賛は、対象者の訓練成績、訓練中の態度、他の対象者と比較しての社会的地位に向けられた。単に映像を観ることが、運動技能における作業をしていない間の向上に影響を与えるかもしれない可能性を排除するため、同じ映像を観るものの、他の参加者の訓練成績に関する評価であることを伝えられたOther groupを含めた。Other groupによって観られた導入映像では、男性は別の対象者の名前を使った。Self groupとOther group両方で、称賛の対象に関係なく、それぞれの映像を観たことにどの程度満足を感じたかの割合を7点法で尋ねられた。1点はとても不満足、4点はどちらでもない、7点はとても満足、とした。映像の順番は、対象者間で固定された。

 2日目の実験後、対象者は、観た評価映像に何か疑いを持ったかどうかを決めるための面接を受けた。この後、すべての対象者に対してすべてが報告された。

(5)作業記憶課題
 対象者の部分集合である35人が2日目に作業記憶課題を行った。先行する研究は、作業記憶課題の成績は、対象者の動機状態に対して高感度になることを示している。

(6)訓練中および再試験中の覚醒、集中、疲労
 訓練中および再試験中の対象者の主観的状態が実行に影響を与えるかもしれない可能性があることから、対象者は、覚醒度合、集中度合(1は全く集中していない、7は大変集中している)、疲労度合(1は高い疲労度、7は全く疲労なし)に関する7点法アンケートに訓練終了時と再試験時間終了時記入をした。

(7)訓練前夜および訓練後夜の睡眠時間と質
 睡眠は、運動技能に関して作業をしていない間の向上に重要な役割を果たすことから、訓練後の夜間睡眠時間が主観的報告とアクチメトリー(*1)により測定された。対象者は、訓練前夜と訓練後夜両方の就寝時間、訓練日と再試験日の朝の起床時間も報告するよう求められた。さらに、主観的な睡眠時間報告を確かめるため、機材数に限りがあったことにより26人の部分集合対象者の身体活動が訓練終了から再試験時間まで標準的アクチメトリーにより測定された。対象者により報告された睡眠時間とアクチメトリーにより測定された睡眠時間との間には有意な相関関係が見られ、主観的報告による睡眠時間は信頼できることが確認された。睡眠の質は、ソフトウェアによって自動的に測定された、総睡眠間隔に対する真睡眠割合により決定した。

●結果

(1)訓練を受けた流れの実行
 映像を観た後での満足度は、Self groupとOther groupにおいては、4点よりも高い割合が有意であった。肯定的な言葉の効果を照査するために、Self groupとOther groupの満足度を直接的に比較した。肯定的評価が自身に向けられるた場合は称賛として知覚されるのに対して、肯定的評価が他人に向けられた場合はそうならないだろうということから、肯定的評価の方向効果に関心があった。実際に、Self groupの対象者は、Other groupの対象者よりも、有意に映像をより心地よいと思ったのであり、当研究の称賛の操作がうまくいったことを示したのである。

 相違分析では、3群間において1日目の訓練終了時点での成績に有意な差異は認められなかった。すべての群において、1日目の訓練終了時と2日目の再試験との間に成績が有意に向上したので、訓練を受けた流れに対する作業をしていない間での向上を確認した。作業をしていない間での向上割合は、3群において有意に差が生じた。向上は、Self groupにおいてOther groupやNo-praise groupよりも有意により大きく、称賛が技能強化をさらに高めることを示した。再試験の結果において、Self groupが20%向上したの対して、Other groupやNo-praise groupでは14%程度にとどまった。

 いくつかのエビデンスが、性別が対象者の異なる種類の記憶の強化や想起に影響を与えると示していたことから、対象者の性別が作業をしていない間の成績向上における称賛の効果と相互に作用している可能性もある。それ故に、群と性別を作業をしていない間の向上における独立変数としてさらなる相違分析を実施した。称賛の効果は有意であったが、性別に関してや群と性別の相互作用に対する主要な効果に有意性はなかった。本研究は、性別差異の効果を調査するために設計されたものではないが、これらの結果は、称賛の効果が運動技能の作業をしていない間の向上に対して、性別とは独立して寄与することを示している。

 本研究においては、10人の対象者をこれまでに述べた分析から除外した。5人は映像に疑いを持ったこと、5人は練習終了後もさらなる練習を行ったことによる。除外された対象者の成績向上傾向を調査するため、作業をしていない間の向上割合に関するさらなる分析を、分析対象48人の群と追加練習群、懐疑群との間で実施した。分析対照群での作業をしていない間の平均向上割合と比較して、追加練習群では有意に向上割合が高くなり、懐疑群では有意差は認められなかった。このことは、追加練習を通じて技能成績がさらに高まること、映像に対する懐疑心それ自体は技能強化における称賛関連増進効果に影響を与えないことを示している。

(2)制御タスク実行
 Self groupの向上に対する説明の代わりとなることとして、称賛による全体的動機が増したということがある。このことを調査するため、対象者は、訓練を受けていない流れ、無作為に配列される課題、作業記憶による課題を2日目に実行するよう求められた。訓練を受けていない流れと無作為に配列された課題のどちらにおいても、3群間で有意差は生じなかった。作業記憶課題に関しても、反応時間においても総反応数に対する正しい反応数での正確性においても3群間での有意差は認められなかった。

(3)訓練後の夜間睡眠時間と質
 主観的報告による睡眠時間も行動解析測定も3群間での差異は見られなかった。訓練後の夜間身体活動から算出された睡眠の質においても3群間での有意差は認められなかった。

(4)訓練および再試験中の覚醒、集中、疲労
 眠気、集中、疲労における3群間の有意差は認められず、3群間での作業をしていない間の向上は、訓練中および再試験中の主観的状態における差異によるものではないことを示している。

●考察

 称賛は、二つの本質的報酬構成要素、快楽主義要素と動機づけ要素を有している。称賛は、快楽主義要素である満足感を誘発し、動機づけ要素である動機促進をさせる。

 本研究において、社会的報酬は直接的に人間における技能強化を直接的にさらに高めることが証明されたのであり、人間の運動記憶システムに対して新たな機能効果をもたらすことを示している。技能強化に対する社会的報酬の効果をさらに理解することが、教育環境やリハビリテーション環境における運動技能促進のための実施要項開発に役立つ可能性がある。

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