全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。

この症状 ひょっとして病気?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

(番外編)このページの記事は、ロハス・メディカルブログ2009年6月11日付掲載の『病的なむくみ こんな病気があります①』(筆者・堀米香奈子専任編集委員)です。久住英二医師の監修は受けておりません。
病的なむくみ こんな病気があります①
 足・脚のむくみに悩む人は、特に女性に、かなり多いのではないでしょうか。病的でなくとも1日の終わりになるとパンパンに張って、靴もきつくなってしまう、なんて珍しい話ではありません(ちなみに「あし」は、脚=太ももからすねまで、足=くるぶしから先、と書き分けます)。

 そんな、足・脚のむくみがなぜ起きるのか、どうしたら良いのかご説明しつつ、参考になる分かりやすいサイトを当方の独断で選びご紹介します。ちなみに、「むくみ」は、医学的には「浮腫(ふしゅ)」と呼ばれます。

 どうして脚がむくむのか、簡単に言ってしまえば、血液やリンパ液の流れが悪かったりして、重力に負けて身体の下のほうに溜まってしまうからです。なぜそんなことが起きるのでしょうか(それほど目立って生じない人だっているわけですから)。

 それはヒトの"動物"としての体の構造と関係があります。人間も遡れば、よつんばいで歩き回る動物でした。そのため心臓や動脈、静脈などの血管も、そうした生活に適して発達してきた器官なのです。ところが人間は進化の過程で、地面に垂直に立つようになってしまいました。そのため地面近くまで流れていった血液を重力に逆らって心臓に戻す必要が出てきたのです。

 実際それはかなり大変なことなのですが、それでもヒトは、脚の下のほうの血液を心臓へ戻す働きを発達させました。
 
 一つが、「ふくらはぎの筋肉ポンプ」。脚を動かすことで、ふくらはぎの筋肉がポンプのように静脈(体から心臓に向かう血液の流れ)内の血液を心臓へ送り込むのです。もう一つは、「心臓が吸引する働き」。心臓が縮こまって血液を体に送り出すと、次には反動で心臓内部が拡がり、その瞬間に血液が引き戻されてくるわけです。さらに、腹式呼吸をする時に顕著な「呼吸ポンプ」もあります。息を吸った時にお腹の圧力が強まり、静脈が押されます。反対に息を吐くと圧力が弱まって、静脈の流れが促されるのです。

 しかし、そもそもが重力に逆らったシステムなので、どうしても脚の下の方には血液がたまりやすいのです。すると脚の静脈内の圧力が上がり、血液中の水分が血管の外に向かって押し出されるように働きます。これがきちんと血液内に戻りきらないと、「むくみ(浮腫)」となってしまうのです。一日中じっと立っているような仕事は、ポンプも働かないまま重力がかかり続けるので、それだけむくみやすいのも致し方ないということになります。

 さて、それではどうすればよいのか。

 病的でないむくみの場合、要は脚から心臓に戻る血液の流れを助けてあげることが重要です。体が発達させた仕組みを考えれば、足首の運動や腹式呼吸の体操など、ポンプの仕組みを担っている筋肉を動かしたり刺激したりすることが有用なようです。

 一方、病的なむくみの場合も様々なケースがありますが、その他の症状があまり見られずにむくみだけが際立っている場合として、「リンパ性浮腫」とよばれるものが挙げられます。体の組織に滲み出て使われた水分はそのまま静脈に戻りますが、たんぱく成分はまずリンパ管に入って、そこから様々な経路を経て静脈へ合流します。しかしリンパ管が何らかの原因で詰まると、入れなかったたんぱくがたまってしまうのです。このたんぱくが実は水分をひきつける性質を持っているため、「むくみ」を引き起こすのです。原因としては、先天性のほか、最も多いのは、がん等の外科手術後に発症するケースです。ただ、その場合もマッサージなど、静脈やリンパの流れを整える療法がまずとられます。薬物はかなり限られ、また外科手術も相当程度に悪化した場合のみ行われるそうです。

 大体のことが分かったところで、以下、病的でないむくみと、病的なむくみに分けて、参考サイトをご紹介します。明らかに病的な場合は医療機関を受診してください。

【病的でないむくみ】
 女性に多く見られます。一日の終わりごろ、立ち仕事などをしている人に顕著です。ひどいと、指で押しても戻るまでに数秒以上かかることも。見た目だけでなく、だるさを伴うことが多いようです。(赤くなって腫れていたり、痛みを伴う場合は病的なむくみと考えてください)

【病的なむくみ】
 上記のように、病気が原因のものは、リンパ浮腫がもっとも代表的です。がん手術によるものや先天性のほか、感染症や外傷による場合もあります。この場合は女性男性は関係ありません。いずれの原因であっても、思い当たるようだったら、まずは内科等を受診してください。大きい病院ではリンパ浮腫外来も増えているので、各院に問い合わせてください。

 なお、脚だけがむくんでいる(腫れや痛みもない)場合は、たいがい命にかかわるような病気ということはないようです。ただし、細菌が入ったりすると深刻な事態を引き起こしますので(蜂窩織炎(ほうかしきえん)等)、放置や油断は禁物です。一方、原因が分からないのに全身がむくんでいるような場合、心不全や低蛋白血症、肝不全・腎不全など、深刻な病気が元になっていることがありますので、直ちに医療機関を受診するようにしてください。

 症状別に詳しく見ていきたいと思います。自分で心当たりがあって(飲みすぎだとか、月経前だとか)病的でないと分かる場合はよいのですが、他にも症状があって明らかにおかしい、心配だという方は、以下でチェックしてみてください。

1.顔や手足がむくみ、尿が出にくい。さらに血圧が高くなり、場合により血尿も。その1~2週間前に、扁桃や喉の炎症を経験している人。
 ⇒ 【 急性糸球体腎炎 】

2.顔や手足がむくみ、尿が出にくい。血圧低下、食欲不振、全身倦怠感がみられる。胸や腹に水がたまることも。
 ⇒ 【 ネフローゼ症候群 】

3.くるぶしや腹部にむくみが出て、疲れやすい。息切れ、胸苦しさも。胃の不調や食欲低下も。体にかゆみが出ることもある。
 ⇒ 【 糖尿病性腎症 】

4.夕方に足のむくみが強くなる。しばらく続くと尿量が減り、腹水も。胸の上部に圧迫感や痛み、腹部膨満感、食欲不振、吐き気が出ることも。
 ⇒ 【 右心不全 】

5.下肢にむくみが出るほか、腹痛、嘔吐、黄疸、手のひらに紅斑、お腹に水がたまる、血が止まりにくい、上半身の血管がクモ形に浮き出る、などの症状。
 ⇒ 【 肝硬変 】

6.眼のまわり・顔・手足などに、押してもなかなか戻らないむくみが出る。無力感、汗が出にくい、低体温、便秘、体重増加などがある。(とくに女性)
 ⇒ 【 甲状腺機能低下症 】

7.脚のむくみ、倦怠感、動悸、筋力低下、手足の痺れがみられる。ひどい場合は、息苦ししさなど心不全の症状が現れる。
 ⇒ 【 脚気(かっけ) 】

8.足の静脈が目立つ。立っているときに足が重くだるい感じがし、むくむ。痛みあるいはかゆみも。
 ⇒ 【 下肢静脈瘤 】

9.むくみが主な症状。重症では、お腹に水がたまることも。さらに、下痢、吐き気、嘔吐、腹部膨満感、腹痛などの消化器の不調。子どもでは発育障害も。
 ⇒ 【 たんぱく漏出性胃腸症 】

10.顔がむくんだように丸く膨らんだ顔になる。筋力が低下して手足が細くなる一方、胴体は太る。疲れやすく、あざや傷が治りにくい。骨粗しょう症や精神障害も。
 ⇒ 【 クッシング症候群 】

11.頭・まぶた・腕のむくみや腫れ、場合によって頭痛がする。とくに、肺がんなどの腫瘍を抱えている人。
 ⇒ 【 上大静脈症候群 】

12.脚・かかと・手のむくみ、こわばり、だるさ。とくに、子宮がん・乳がん・前立腺がんの手術や放射線治療を受けた人。
 ⇒ 【 リンパ浮腫 】

 では、個別に見ていきます。

【急性糸球体腎炎】
≪症状≫
 扁桃腺炎や咽頭炎などにかかってから1~2週間後に、尿が出にくい、むくみ、高血圧などの症状が急激に現れ、目で見てわかる血尿が認められることがあります。尿にはたんぱくも出ます。子ども(5~15歳)に多く見られます。その場合は自然に軽快することがほとんどですが、成人では慢性化することが半数近くあります。

≪原因≫
 溶血性連鎖球菌などの細菌による扁桃や喉の炎症などがきっかけです。これらの細菌が体内に入ると、免疫反応により抗体が作られます。通常はそれにより菌が殺され、炎症が治るのですが、何らかの原因で、この抗原と抗体が結合した「免疫複合体」と呼ばれる物質が腎臓の「糸球体」にくっつき、そこに炎症が起こします。糸球体は、腎臓で血液をきれいにするにあたり、濾過する役割を担っています(その不要成分が尿)。しかし糸球体の中に白血球などが集まり、糸球体の細胞も増殖すると、毛細血管が詰まってしまい、血液の流れが悪くなるために腎臓の働きが低下します。

≪対処法≫
 安静にして、溶血性連鎖球菌の感染については抗生剤できっちり治すこと、あとは対症療法です。塩分・水分の制限、カリウムの制限などを行い、むくみには利尿剤、高血圧には利尿剤や降圧剤、炎症の抑制にはステロイド剤を使うこともあります。

 一般にむくみが軽くなっていくとともに血圧も正常に回復し、1~3ヶ月後には血尿や蛋白尿も消えてしまいます。しかし4~5ヶ月後に腎生検(腎臓の組織検査)を行うと、まだ糸球体に病変が残っていることが多く、半年~1年くらいは安静が必要です。それでも他の多くの腎臓病と異なり、たいていが完治します。

≪参考サイト≫
腎臓病の種類と原因:糸球体腎炎とは おしっこ元気ですか? (大阪府立急性期総合医療センター 腎臓・高血圧内科)
専門の先生が一般向けに詳しく分かりやすい言葉で解説しています。

急性糸球体腎炎 (妹尾小児科)
ポイントが簡潔にコンパクトにまとまっています。ざっと知りたいときに。

急性糸球体腎炎 (gooヘルスケア)
検査や治療についても詳しく載っています。

【ネフローゼ症候群】
≪症状≫
 全身のむくみ、血圧上昇や血尿などがみられます。尿にタンパク質が漏れて、それに伴って血液中の重要なタンパク質の濃度が低下し、血液中の脂質が増え、血液が固まりやすくなり、感染症にかかりやすくなります。初期には、食欲不振、全身倦怠感、まぶたのむくみや組織の腫れ、腹痛、筋肉の萎縮、尿の泡立ちなどが見られます。お腹や胸に水がたまることも。年齢にかかわりなく起こりますが、子どもでは1歳半から4歳の間が最も多く、女児より男児に多くみられます。年齢が高くなると、男女の差はほとんどなくなります。

≪原因≫
 糖尿病やがんなどさまざまな病気や薬、アレルギーを原因として、血液の老廃物を濾過して排出する役目を担う腎臓の「糸球体」に障害がおき、尿中にタンパク質が大量に漏れ出てしまう病気です。過度のナトリウムと水分がたまって体がむくみ、通常なら感染をくい止めるはずの抗体が尿に出てしまうか、通常の量の抗体が産生されないため感染に弱くなり、尿に栄養素が出てしまうため栄養不足になったりします。

≪対処法≫
 経過の見通しは、ネフローゼ症候群の原因、患者の年齢、そして腎臓が受けた損傷の種類と程度によって異なります。基本的には、ネフローゼ症候群の原因が感染症、がん、薬物など治療可能なものであれば、その原因を取り除くことで症状は完全になくなります。いずれにしても、良質のタンパクを多くとり、食塩をひかえる食事療法を行います。同時に薬剤療法も行いますが、糸球体の病変に効く、薬剤はどれも副作用のあるものが多く医師の指導が必要です。原因となっている感染症を治療することで、ネフローゼ症候群が治癒することもあります。

≪参考サイト≫
ネフローゼ症候群 ネオーラル (ノバルティスファーマ)
図解入りで非常にみやすく、分かりやすいです。

ネフローゼ症候群 メルクマニュアル医学百科 家庭版 (万有製薬)
概要が分かりやすくまとまっています。とくに原因疾患と治療について詳しいです。

ネフローゼ症候群.com
実際の患者さんの闘病記録を兼ねたサイトで、それらも参考になります。

【糖尿病性腎症】
※糖尿病については、「皮膚のかゆみ 発疹はないのに全身がかゆい」をご覧ください。
≪症状≫
 当初は無症状です。進行すると尿にたんぱくが大量に出るために、血中たんぱくの濃度が下がり、全身とくに脚にむくみが出てきます(進行したのがネフローゼ症候群。上記参照)。さらに胸や腹に水がたまると、息切れや胸苦しさ、食欲不振や腹満感が現われてきます。腎不全に陥れば、貧血のため顔色が悪くなり、疲労感が現れ、尿毒症のため吐き気あるいは嘔吐もみられます。血中カルシウム濃度が下がり、筋肉のこわばりや痛みが出たり、末期になると肺水腫や心不全のため、むくみや息切れ、動悸がひどく、血が止まりにくくなり、手の震えや意識混濁などの尿毒症症状が現われます。

≪原因≫
 腎臓が糖尿病による高血糖に長年(通常10年以上)さらされることで、血液の濾過機能を担う「糸球体」の毛細血管がダメージを受けて動脈硬化をおこします。するとたんぱく質が糸球体の網の目を通り抜けてたんぱく尿が出たり、尿をつくる働きが低下して老廃物が排泄されなくなり体内にたまり、体に様々な症状が現れるのです。

≪対処法≫
 腎症が進行している場合には、一刻も早く医師の指導の下に薬物治療を開始します。血圧を下げる薬や、むくみには利尿薬を用います。また、そもそも糖尿病性腎症は血糖値が高い状態が長期間続くことによって起こり、悪化しますので、腎症が現れてからも血糖管理は非常に大切です。 食事療法では、血糖値の管理はもちろん、食事の味付けを薄味にして塩分の取りすぎにも注意し、食事中のたんぱくの制限を行うこともあります。これに運動療法を併用し、減量を心がけます。腎不全状態(尿毒症)になってしまうと最終的には血液透析か腎移植が必要になるので、そこに至らないようコントロールが大事です。

≪参考サイト≫
糖尿病との賢いつきあい方 (ロハス・メディカル 2006年1月号)
ちょっとややこしい糖尿病のメカニズムの基本からわかります。

腎臓病の種類と原因:糖尿病性腎症 おしっこげんきですか? (大阪府立急性期総合医療センター 腎臓高血圧内科)
症状、診断、治療から食事療法についてまで、平易な言葉で詳しく書かれています。

糖尿病講座:(10)糖尿病の合併症(糖尿病腎症) (毎日新聞 2008年8月26日)
腎臓の働きから対策まで、読みやすいのに内容が濃くまとまっています。

 以上の3つは、いずれも腎臓の、特に「糸球体」に異常が生じて起きるものです。腎臓の機能等については、下記も併せてご参照ください。

壊れて分かるありがたさ 慢性腎臓病、腎不全 (ロハス・メディカル 2007年5月号)

  • 患者と医療従事者の自律をサポートする医療と健康の院内情報誌 ロハス・メディカル
月別アーカイブ
サイト内検索